最後のお時間です。

有馬千博

第1話

 十五歳になると視えなくなると言われている、あやかしたち。

 そのタイムリミットは、今日の深夜零時。

 これまであんなに苦労してきたのに、なんだか。


「寂しさを感じちゃう?」


 勉強机の上に広げた問題集と格闘していると、後ろから茶々を入れてきた。不満が表に出ないように無表情を頑張って装う。だが、彼の前では難しいかもしれない。


陽狐ようこ


 後ろを振り向くと黄金色の長い髪を一つにまとめた男――陽狐は、にんまりと笑ってベッドの上に座っていた。この暑い季節でも黒色ハイネックニットを愛用しているあやかしを視て、悠斗ゆうとは首をさすった。悠斗の心の内を知ってか知らずか、陽狐は鼻先で笑った。


「隠すの、下手すぎぃ」

「うるさい」


 悠斗はじろりと冷たい目で陽狐を見る。

 血筋のせいか物心がつく頃には、あやかしを視ることができる体質で生活をしてきた。それを呪ったことは一度や二度じゃない。


 悠斗の家系は平安時代から先は少し有名な陰陽師一族だった。しかし、時代の変化に追随するように、令和の今では普通のサラリーマン家庭になった。祖父母は神社で神主と巫女をしているが、共働きの両親は年末・正月・結婚式以外は手伝うこともない。


「なあなあ、今日こそ遊びにいこーよ」


 ベッドの上で手足をばたつかせて、不満を隠すこともせずに訴えている陽狐をみて、悠斗は目を眇めた。


「……勉強が終わったら」

「終わらないヤツじゃんか。だって、受験生だろ」

「受験生こそ、勉強しなきゃいけないんだよ」


 来年の三月に控えている高校受験。この夏を頑張れない奴は、受験を制することができないと塾講師に耳に胼胝ができるほど言われているくらい今は大切な夏休みだ。

 それを陽狐の誘いで遊ばないようにするだけではなく、何より怪異に巻き込まれないようにしなければならない。怪異に巻き込まれれば、速やかに解決するようにと祖父母から式神で命令のが、日常になってしまった。悠斗には五つ上の姉がいるが、あやかしが視なくなってからは、怪異に関わることも皆無となった。早くそんな日々にならないかと思って、今日まで過ごしてきた。


 だけど、そんな理不尽に対する我慢も今日まで。


 十五歳になればあやかしは視えなくなる。両親もそうだったと聞いている。あと少しの我慢だ。

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