第3話 うかの側近

うかは例の日以来、俺にぴったりくっついてくるようになった。


朝起きたら、頭の上にのっていて、ラッキースケベみたいな状況をつくって、登下校ではベッタベタな馴れ合い(一方的)。


俺は思っていた……粘着質で想いが強い、うかはヤンデレなのではないか!!


正直言うと俺はツンデレのほうが好きなのだが…そんなこといえば俺には破滅が待っている。気がする。


まぁその、俺はこの思考を後悔することになる。

あとになって気づいた。


ヤンデレって、こんなものじゃねえ!!


○○○


休み時間。


俺は寝たフリをしていた。

起きていると、うかの攻撃がやまないからである。

初恋の人、俺を惚れさせようとしている人。

そして友達として、大切な人。

……だとしても、休み時間の度に質問攻めされたらたまったもんじゃない。


「圭、寝てるの?」

「……」

「寝顔をクラスメイトみんなに披露するなんて、ふしだらよ!!」

どこがふしだらやねん。

「わたしと婚約したじゃない」

何の話……?


「……わたしちょっと先生に頼まれごとあるからいくけど、変な気おこさないでね」


おこすか!!

というツッコミを心の中で響かせる。

とにかくうかは行ったみたいだから、寝たフリはやめだ。


アピールはいいけど、やりすぎを指摘したほうがいいのかも。

今だって、俺、知らないうちに婚約させられてたもんな。


そんなことを考えながら顔をあげると……目の前には、美少女がいた。


イヤ、うかではなく。


「い、伊代いしろさん!?な、なに!?」

「いや、ちょっと用があって。」

がっっつりテンパってしまった。


この金髪ショートの美少女は、伊代いしろ 築美つくみ

うかの友達である。


「里倉くん、こっち来てよ」

「え、あっハイ」


うか相手にはまあまあ話せるものの、他の人とはまともに会話できない。

それが俺という人間の性だ。


クラスの背景の俺に、伊代さんが何の用だろう?


なにも分からないまま、階段の踊り場に連れてこられた。


「あのう、用とは……?」

「真面目な話よ、心して聞いてね。」

「ハイ」

「あなた……うか様に何をするつもりなの!?」


あまりのセリフに、俺は固まった。


「うか様……?なにをするって───え??」

伊代さんは顔を赤くする。


「あんたね、全部わかってんだから!!わたしのうか様が天使のようなお方であることにつけこんで、連れ回してるんでしょ!!無理やり恋人になるつもりなの!?」


ああ、もしかして伊代さんは、俺がうかを脅して、それにより近くにいる権利(?)を得ている、とでも思っているのではなかろうか。


「今まで全然だったのに、最近になってやたら会話が多い!!わたしのうか様があんたみたいなのに有り得ない!!脅迫だわ」


俺、だいぶディスられてね?


「えっと、誤解で、俺とうかはそもそも幼なじみで……」

「ハア!?うか様とあんたみたいなのが!?」


うか、伊代さんと仲良いなーとは思っていたけれど...こんな感じだったのかよ、伊代さん!!

うか様って、何があってそうなった!!


「そもそもうか様の『様』はなんなの……?」

「未熟者ね。うか様の美しさと麗しさを尊敬する気持ちがあるのなら当たり前……」


「圭────誰と話してんの?」


思わず、声のしたほうをふりかえる。

うか様……否、うかだ。


「ハッ!!うか様。この男────!!」

「築美。ちょっと黙って」

「仰せのままに♡」


なんやねんコイツら。

いや、それは置いといて、うかの表情が暗い。

もしかして……怒ってる!?


「うか、どうしたんだ」

「……さない」

「え?」

「許さない」


うん、もしかしなくても怒ってた。


「うか様、どうなさったの?」

「築美。あなた、圭と何の話をしていたの?」

「…………この男が、うか様を脅しているのではないかと疑い、その話を……。」


嗚呼、それを言ったら────


「そんなわけないじゃない!!圭はわたしの幼なじみよ!?」

「ええ!!?そうなのですか!?」


うかが怒鳴る。たまらず俺も参戦。


「そうだよ!!俺がついさっき言ったとおり幼なじみだ!!」

「そうよ!!許嫁よ!!」

「それは言ってねえ!!」


うかに怒鳴られ、伊代さんは寂しそうな顔──はしてなくて。


「怒鳴るうか様も美しい……♡」

「何言ってんだよ」

「美しいのは知っているわ」

「お前も何言ってんだよ…」


ダブルツッコミを果たした俺のほうを、うかはハート目で見る。


「圭も...寝たフリしてまで築美と話したかったのかしら?」

「あっそうじゃなくて」

「わたし以外の女を見るの?」

「そうだそうだ!!」

「伊代さんは今待って!?」


「わたしだけ見てて欲しい……わたしなしでは生きてほしくない……」

「うか────?」

「わたしを見てくれないなら、いっそこの手で!!」

「うか────!?」


うかの手が俺の首元まで伸びてくる。

でもすぐに、その手は下におろされた。


「────こんなことにならないように、わたしだけ好きになって?」

「──ノーコメントで」

俺がそういうと、うかは頬をふくらませて、上目遣いで俺を見た。


○○○


(屋上にて)


やばい。

ヤンデレをなめていた。


まさか俺のことをあそこまで好きだとは。

こう言うと自慢っぽいが、割と真面目だ。


アニメキャラかよ。

いや、うかは元からアニメキャラみたいなやつだったが、完璧美少女からヤンデレヒロインに変わった。


そんなことを考えていると────

「よっ!!里倉!!」

「い、伊代さん!?」

「伊代でいいよ。」

「伊代……」


伊代がやってきた。


「伊代……うかをどうにかできないか?俺のことが好きだからアピールする、てのはいいんだけど」

「無理」

「はや!!」

「あんたが直接言えばいいのに」

「えっ。うーん────なんでだろ……それは…ちょっと。」


俺はうなった。


「ほらね。あんたとうか様、お互いに本音で話せる相手が、お互いしかいないから。くっつくのをやめろ、って言ってうか様が離れるのが怖いのよ多分」


俺の内面を見透かされているような気がする。

たしかに、俺にはうか以外に大切な友達がいない。俺が直接「うざい」とか言おうものなら……


「てかお前、俺らの解像度高くない!?会ったばっかなのに?!」

「うか様関連のことならなんだってわかるもの」

「さっき分かってなくて俺のこと変な勘違いしてただろ」


伊代は舌を出して笑った。コイツ──!!


「とにかくわたしは、あんたとうか様をくっつけるためにいろいろ頑張るから」

「え」

「うか様が、あんたのこと好きなんだってさっき分かったもん。わたしはうか様の幸せを何よりも願っているから」

「ああ……そう。」


○○○


俺はうかと付き合いたい訳でも付き合いたくない訳でもない。

どちらでもないからこそ、うかの気が済むまで好きにさせている。

俺とうかが結ばれるルートもあるはずだ。「うか」が頑張れば。


────その「頑張れば」に、伊代が追加された。


なんかめんどくさいことになりそうだ……。

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【400PV感謝】あなたの萌えは非常識!?〜駄目、わたし以外を見るなんて〜 猫井はなマル @nekoihanamaru

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