第4話 久しぶりのお出かけ

「圭。今度一緒に出かけない?」

「────へ?」


だるい学校の帰り道、うかから思わぬ提案があった。


「俺と2人きりで?」

「そう、2人きりで」

「どこに」

「内緒。来たらわかるわ」

「なんだそりゃ……」


最近のうかは、俺を惚れさせるために、毎朝頭の上に乗ったり(?)、休み時間中ずっと質問をしてきたり(?)、いろいろと頑張っている。


そして、そろそろくると思っていたが...ついに来たか!!

お出かけイベント!!(普段ラブコメラノベばかり読んでいる俺は、ついつい「イベント」と呼んでしまうのだ)


「まあ、いいよ。いつにする?」


うかとどこかに遊びに行くなんて、中学以来だ。ふつうに楽しみ。だから、あっさり了承したのだけれど…。


「いいの?ホントにいいの?」

「いいよ。そんなに聞き返さなくても」


まるで断られる前提だったのか、何度も同じことを聞くうか。


「……良かった。嫌われたかと思った」

「え?なんで?」

「だってこの前、築美と圭が話してるの見て、わたしめちゃくちゃ怒ったでしょう。流石にひどかったと思って」


ああ〜、なるほど。そういうわけか。


「たしかにびっくりしたけど、そんなすぐ嫌いにならないよ。俺がふつうに話せるの、お前だけなんだから」


そう返すと、うかは露骨に嬉しそうになった。


「そんなに簡単に許せるなんて、圭はわたしのことが大好きなのね♡」

「…………」


いい感じの否定の言葉が出てこず、黙り込んだ。


「そういえば、築美から伝言があるのよ」

「何?俺なんかした?」

「こないだはがちゴメン。許してちょ」

「とうてい謝罪とは思えない文体だな……」


○○○


1週間後。


うかとの約束の日だ。

久しぶりのうかとの外出(それどころか家族以外との久しぶりの外出)、俺は小学生のように浮かれて、約束の時間より30分も早くついてしまった。

学校以外はずっと引きこもりだったからね。仕方ない。

そんなふうにセルフ言い訳をしていると……


「圭〜!!」


うかがやってきた。


「早くね?まだ30分も前じゃん」

「ふふ、圭こそ。」


うかが、俺の肩をバシッと叩いた。

そうだ、昔はよくこんなふうにツッコまれてたっけ。高校生になってから、やらなくなったけど。


「じゃあ行きましょう、ついてきて」


うかが、手を差し出す。握れというのだろうか。イヤイヤイヤ、流石にハードル高い。


「手は繋がないよ。まだ恋人じゃないんだから」

「わたしのこと、意識してるのね。ギャルが好きって言ったくせに」


フフンと笑ううか。なんだろう、うかってかなりのポジティブ人間だな。

そんなことを考えながら、うかのあとを追った。


○○○


ついた先は、遊園地だった。

小さい地元の遊園地。某ネズミーランドなんかと比べたら、アトラクションも全然少ない。


でも、ここは……


「覚えてる?ここ」

「覚えてるよ。ここは……」


俺とうかが、最後に一緒に遊んだ場所だ。

中学生のころ、2人きりで来た場所だ。


「良かった。覚えててくれて」

「当たり前だ。大事な思い出だぞ」


俺の返答に、なぜかポカーンとするうか。どうしたんだ?


「惚れさせるまでもないじゃないの。最初からわたしに惚れてるわ」

「それは昔の話だろ!!」


俺のツッコミにはなんのコメントもせずに、うかは、「観覧車のりたい」と言って走り出した。


○○○


観覧車。そこは密室。

閉ざされた世界で、恋人たちは、濃厚な時を過ごす────まあ、俺とうかの場合、恋人同士ではないがな。

とにかく、この空間に男女が入ったら、ロマンチックなムードになる。


「もしかして、俺にドキドキしてもらおうと思って、観覧車にしたのか?」

「圭がそう思うなら、そうなんじゃない?」


思わず黙る俺。絶対今、顔赤くなってる。


「愛してる」


うかが言う。その言葉は、俺にとってあまりにも重い。


「遊園地のチケット、築美が手配してくれたの」

「へぇー、伊代は優しいんだな、お前には」

「前がちょっとおかしかっただけで、あの子は優しい子よ」


腕を組み、口をとがらせるうか。

しばらくお互いに無言だった。でも、その静寂を、うかが断ち切った。


「…………ねえ、今日の服どう?」

「どうって……似合ってるよ」

「似合ってるかじゃなくて、可愛いか教えて」

「可愛っ」


大きく息を吸い込む。可愛いかどうか────


「か、可愛い……よ」


たどたどしい俺の返事に、にこやかに微笑むと、うかは「ありがとう」と言った。


そうだ、うかは可愛い。ものすごく可愛い。

なんで俺なんかを好きになったのか分からないくらい、可愛い。

性格も頭脳も運動神経も、容姿も振る舞いも完璧な、大和撫子なのだ(最近の言動はちょっとやばいけど)。


「思い出すなぁ、前に来た時のこと」


ガラス越しに景色を眺めながら、うかが言う。


「あの日は人が多くて、はぐれて迷子になって。ひとりでうろついてたら、変な男の人に絡まれて。」


うかの横顔を見つめる。触れるもの全てを傷つけそうな、絶対的な美貌。


「ナンパされて、腕つかまれて、どうしよう、怖いって思った時……圭がかけつけてくれたのよね」

「そんなこともあったっけな」

「手をひいて、一緒に逃げてくれたでしょ。相手の男の人、結構デカかったのに。怖かっただろうに……あの時はホントにありがとう」


こちらに向き直って微笑むうか。思わず、言葉がこぼれる。


「……そんなことくらい、やって当然だろ」

「え?」

「好きな子が困ってたんだから」


言ってから後悔した。恥ずかしい。あまりにも恥ずかしい。俺、こんなこと言う柄じゃないのに。

ひとりで悶絶していると、うかが声を弾ませながら言った。


「…………もう一度、好きになってみる?」

「…………あ、えっと…………。」


完全に陰キャモードに突入した俺は、あとは何も話さないまま、観覧車イベントを終えた。

それからあと、けっこういろいろなアトラクションにトライしたはずだが、なんにも記憶がない。


ただ、帰り道で別れる時の、うかの太陽のような笑顔は覚えている。


とにかく、うかは心底楽しめたようだ。それは良かった。


俺はというもの……久しぶりに遊べて楽しかったのだが……ものすごく疲れた。

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