第2話 初恋が次恋になるか否か

「君なんか死んじゃえ!愛してる♡」


うかの声がひびく。

……何だったんだ、アレ。


ついさっき、下校中の出来事だったはずなのに、全く現実感がない。本当にあんなことが起こったのか?うかが俺を?


脳をフル稼働させる。答えもクソもでない。

眠気が生まれるだけだ。


気がつくと俺は、夢の中へいざなわれていた…。


○○○


窓から陽の光が漏れる。朝か?朝まで眠ってしまったのか?

だるい体をゆっくり起こす。ただだるいだけではなく、重い。なんだコレ。

体の上に、なにか乗っている────?


「おはよう♡圭♡」

「……。」

「寝言すごいね」

「ぎゃあああああああああああああああ」


一拍遅れて悲鳴が出た。

うかがいる。なぜゆえ俺の上に乗っておるのだ。


「お前、どうやってここに?」

「幼なじみでしょ?お母様に断りを入れて入ってきたの。」

「なんで通したんだ母さん!!!それはそれとして、どうして入ってきたりしたんだ!?」

「好きだから」

「理由になってねえ!!」


朝からうかに突撃された。

やはり昨日の出来事は現実だったらしい。

俺の中のうかのイメージが、「完全無欠の美少女」から「とんでもない美少女」になってしまった。


…まあ、俺と話してくれる大切な幼なじみ、ということに変わりは無いが──。


「一緒に学校行こ」

「この流れだと断ってもついてくるでしょ!」


○○○


そして今、俺たちは2人で登校中である。

俺と一緒にいたらうかに迷惑……などと今更言う気はないが……視線がいたい。

そりゃそうだ。冷静に見てみよう、なんだこの美少女は。

背景にバラが咲いている。少女漫画か。


「なあ、マジで俺が好きなの?」

「もちろん。本気で好きよ」

「なんで?」

純粋に気になって尋ねる。俺に隠れた魅力か何かあるのかと、少しうぬぼれた考えがよぎる。

「好きだから好きなの。気づいたら抜け出せなくて。」

うかが俺を見る。

「わざわざそんなことを聞くなんて、圭はわたしのこと好きじゃないのね。恋愛的に。いいわよ…ぜっっったい好きにさせるから♡」


笑みを浮かべるうか。

うかが俺のことを好き。うか、かつて好きだった人。初恋の人。


そうだ、うかは初恋の人。

意識すると、余計に可愛く見えた。


「圭、学校みえたよ、ほら」

うわの空で、気づけなかった。


○○○


昼休みに入った。弁当箱を取り出し、ため息をつく。

授業中、まっっったく集中出来なかった。

いつもなら分からないなりに理解しようと努めるのに、うかの顔が浮かんでは消え浮かんでは消えと繰り返す。

──弁当、一緒に食べようかな……。

そう考えた時、うかの方から、「屋上で食べよ♡」と誘いがきた。


風が気持ちいい。屋上にくるのは初めてだ。

「好きにさせるための作戦で〜す」

俺のとなりにうかが座る。近い。

「意識してる?」

「コメントは控えさせて頂きます。」

「なによそれ」

うかは頬をふくらませた。そして、上目遣いをしてきた。

「うお、なんだよ」

心臓が高鳴る。……って、なんでだよ。うかは幼なじみだ。初恋とはいえ、もうただの幼なじみだ。この高鳴りも、誤作動だ。


内心ドキドキの俺に構わず、うかが言う。

「圭って、誰が初恋なの?」

俺は思わず、口にふくんだ卵焼きをこぼしそうになった。……ギリギリセーフ、良かった。

「なんだよ急に」

「へぇー、そのあわてよう。もしかしてわたし?」

図星をつかれて、声もでない。

「ふーんやっぱり。でも今はそうじゃないのよね」

「お、おう。幼なじみだよ。」

「初恋をもう一度味あわせてあげるよ、圭♡」

真っ黒な目の中に、ハート、そして炎。

やはりうかは本気だ。


確かにうかは初恋の人だ。でも今は違う。


またうかのことを好きになれるかどうかは分からないけれど、とりあえず、「好き」だとか「ただの幼なじみに過ぎない」とか、さっさと答えをだそうとするのはやめよう。

「好きにさせる──受けてたつ!!」

うかは笑った。


「言っとくけど、ギャルが好きって言ったこと、許してないよ。わたしはギャルじゃないもの」

「わかったわかった、ごめんごめん」

俺は口をとがらせる。

「でも安心したわ。ギャルさんたちが圭の周りにいるわけないし」

「ひでえ…!!!」

「愛してる♡」

「帳消しにしようとするな!!」


初恋の人。

それが次恋の人となるかは、俺たち次第だ。


なかった現実感がようやく湧いてきた。

俺は初恋のヤンデレ幼なじみの、「好きにさせる攻撃」を全身に受けてやる。


将来どうなるか、それは将来までおあずけだ。

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