4 逃走
だから私達が
そう自分に言い聞かせて、マイナが用意した服に着替えようとしたところで、ふと疑問が思い浮かんだ。
「
「一般人は
ベッドのマット上、マイナの横にも服一式が出現する。
魔法騎士団の制服や支給の平服ではなく、私に出したのと同じような庶民用の服だ。
マイナは着替えはじめる。
「あと私の服、今の私のサイズにあっているけれどこれでいいの? 大人サイズの方が便利じゃない?」
魔女なら当然、魔法で姿形を変えられる。
髪色や髪型、目の色といったよくある小変更だけでない。
身長、体型、骨格そのものも変える事だって可能だ。
「偽装するより本来の姿の方が動ける。子連れの方が他人の目が甘い」
なるほど。つまり私がこの場で思い浮かべるような事は、きっと……
「全て事前検討済みってことね」
事態を全て想定した上で、どう動くかもすべて検討した上で準備したという事だろう。
マイナからの返答はない。
返事がないという事は、きっとその通りという事だ。私はそう判断する。
着替え終わると、外見はほぼ一般庶民と同様になった。
ただし瞳と髪の色は、未だ私達が一般人ではない事を示している。
中級以上の魔法使いや魔女は、得意な魔法属性の色が瞳と髪に現れやすい。
私の真っ赤な髪の毛は、力や熱を操る魔法を使う者特有の色。マイナの緑色の髪は生物や生命を操る魔法を使う者の色。
一般人の髪に多い茶髪等とは大きく異なる。
「髪や瞳の色は、今のうちに偽装した方がいい?」
「まだいい。脱走後、落ち着くまでは」
「他に食料とかお金の準備はしてあるの? 行き先調査なんかも」
「してある。まだ詳細は秘密」
「それでもう、脱走するの」
マイナは頷いて、立ち上がる。
床に置かれた色々を収納しながら歩いていき、壁際の大窓を開けた。
「今宵は新月で結界が弱い。これ以上此処にいても事態は良くはならない」
私は理解した。マイナがこのまま脱走する気だという事に。
急だけれど、いいだろうと判断する。元々ストレ自身も脱走するつもりだったのだ。
マイナに相談した後、自分の私室へ戻る間もなく出る事になるとは思わなかったけれど。
どうせ部屋には、大したものは置いていないから問題ない。
必要なものは、魔法収納に入れてある。
「思い立ったが吉日、って事ね」
「それはストレだけ」
「まあそうだけれど」
私は
中級魔法使い以上が使用する、短距離の飛行と魔力の増幅を兼ねた魔道具だ。
マイナも同じような
さて、それでは脱出決行だ。
さしあたって邪魔なのは、王城を取り巻く結界。
この結界は、空の上級魔法使いであるニラメルが構築したもの。
外からの侵入を防ぐとともに、内部からの脱出を防ぐなんて機能もある。
本人に相談すれば隙間を空ける位はしてくれると思うが、そうするとニラメルが逃亡の幇助犯になってしまう。
だから私達としては、壊していくのが正解。
「壊すのは、任せた」
マイナもそう言っているし、ここは派手に行こう。
「結界破壊、行くわよ! 『此れは魔法、
私の専門の力の魔法の中でも、物を破壊する事に特化した魔法のひとつだ。
比較的大きな構造物の各部に、それぞれ相反する力をかけ、崩壊させる魔法。
魔法が飛ぶと同時に、私自身に別の魔力が発生した。
『秩序の上級魔法使い』ドミナによる、宣誓の魔法だ。
私の魔法を国に対する造反行為とみなし、魔法と私自身の行動・意思を縛る為に発動したのだ。
しかし魔法の力に、強さを感じない。上級魔法使いの魔法としては、並程度といったところか。
国民全体を縛るという範囲の広さには、それなりに敬服する面がないでもないけれど。
「破!」
私は自分の身体に魔力を強く籠める。
それだけで、宣誓の魔法は砕け散った。破邪や破約の魔法をつかうまでもない。
私は改めて、窓の外の空へ意識を向ける。
発動した
力場は歪み、軋み、そして火花を散らしはじめた。
そろそろだろう。
「マイナ、行くわよ」
「了承」
私達は
向かうのは火花が激しく散っている箇所だ。
火花に照らされ、三角形で構成された透明な壁面が映し出された。
王城を囲う、普段は見えない結界。その三角形がきしみ、火花を上げる。
そして、結界を構成する三角形のうち、1枚が砕け墜ちた。
その影響で周囲の三角形の位置も崩れ、数枚が剥がれ落ちる。
出来た空隙から外へ、私達は飛び出した。
『ビーンアックへ向かう。草原で何をやっても問題無い』
マイナからの伝達魔法だ。
『わかったわ』
何故『何をやっても問題ない』場所に向かうか。
それは、追っ手に対処するためだ。
王城の結界を脱走しても、まだ脱出成功ではない。
せいぜい
このまま国境を超える事は出来ない。
それに王国も、ただ脱走を手をこまねいてみている訳にはいくまい。
たとえこちらが魔女であっても、体面がある。
愚かな王は、国王への宣誓が絶対のものだと信じているだろう。
なら魔女であろうと、宣誓を破れず苦しんでいるだろうから、取り押さえるのは難しくないと考えるのも当然だ。
だから追っ手を出すよう命じるのは、間違いない。
追っ手を出さずに見逃したとなると、どんな処分を下すか、わかったものじゃない。
たとえ王自身がこの件を把握したのが、明日朝の起床時間後であったとしても。
そして現在の王国に、こういった事態に即応できる組織はひとつ、魔法騎士団だけだ。
少なくとも魔法騎士団の上級魔法使い、あとは空属性持ちの中級魔法使いは把握できる筈だ。
それくらい出来るように鍛えたから。
一方、国の他の組織となると、即応どころか事態把握すら、いつになるか怪しい。
衛兵等が結界が破れる状況を見たとしても、報告を受けた幹部が事態を把握できるとは思えないからだ。
更には貴族位を持っている腐った幹部連中が、夜中に真面目に報告を受けるとも、報告を受けて調査するとも思えない。
事態を把握して動く可能性があるのは、宣誓の魔法を破られた『秩序の上級魔法使い』大公爵ドミナくらいだろう。
ただドミナ程の魔法使いなら、私達との実力差を知っている。
自ら出てくる可能性は極めて低い。
つまり今回の件は、
① 魔法騎士団が発見して、
② 魔法騎士団が追っ手を出して、
③ その追っ手では私達を抑える事が出来ず、取り逃がし、
④ その件を
というシナリオが、既に確定したようなもの。
そして私達を抑えられなかったという事に説得力を持たせる為、残った中で最高の戦力を出すことになる。
ならビーンアックにやってくる追っ手も、決まったようなものだ。
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