「『出かけよう』って言ってよ」



・-・-- ・・ ・-・-・ -・- 



『……………………もしもし』



『え、声ちっちゃ。

どうしたん、"ハルちゃん"』



『は……ハル……!???

だ、誰ですか?電話かける先、間違ってますよ』



『やっぱ、昨日の記憶全くないタイプ?』



『………………全くないタイプ』



『しかも。

送った音声データ、聞いてへんの?』



『…………恐ろしくて開けるわけないじゃないですか。

[証拠.wav]なんてファイル名からして、絶対ロクでもないですよね。二日酔い悪化しますよ』



『真実は全て、そこに詰まってるんよ。"陽菜ちゃん"』



『っ!?!?

ど、どうして私の名前…………っ』



『ちなみに言うとくけど、

俺が無理やり聞き出したわけとちゃうで』



『あぁ……最悪だ……………………消えたい…………』



『昨日との温度差が最高やね』



『……ナギくん、一生のお願いがあります』



『聞こうね』



『忘れてくれませんか?昨日のこと、全て』



『無理やねぇ』



『…………………………』



『安心して?ちゃんと2部屋分、取るからさ』



『すみません。本当に何の話でしょうか』



『やからー。

再来週、美術館行くことになったやん?』



『びっ……?まぁ……記憶に無しすぎるけど……

一旦受け入れときますね。話進まないので』



『ほんでそこ、日帰りは無理やん?

やからホテル取るけど、部屋は2部屋分で——』



『ちょ……ちょ、ちょっと待って!

やっぱり無理です。受け入れ可能範囲オーバー』



『わかった。一時休戦な。

音声データ聞いてから再戦しよ』



『嫌すぎるぅ……』



『えーから、再生してみ?』



『はい………………………………』



『……………………………………』



『……………………………ううっ』



『はい、対あり対戦ありがとうというわけでさ。

飛行機使うけど、空港行くのに車で迎えに行っていい?

いいなら最寄駅教えてくれる?

あ、てか高いとこ大丈夫?』



『ちょ、あの……なんとか白紙になりませんか?

本当に不可抗力なんです。

情状酌量ください』



『往生際が悪いで、ハルちゃん』



『うう……酒断ちだ……後悔しかない……』



『あ。駅のことはメッセージに入れといて。

そろそろ行かなあかんわ』



『あれ。大会オフ期間入ったばっかりですけど……もう練習あるんですか?』



『うん。鈍らんようにせなあかんからなぁ。

いうてもまだ、ユルっとやけど。

世界大会前の"交流大会"も、割とすぐくるしな』



『なるほど……"交流"なんて言いつつも、

結構しっかりした、大きい大会ですもんね』



『そー。ちゃんと賞金もあるし。

何より、世界大会で当たる他国の強豪チームが集まってくるからさ。

相手のデータ、最大限引き出せるよう……強くならな』



『素敵。ストイック。かっこいいです』



『えー、嬉し。ありがと。

おしっ!いってくる』



『いってらっしゃい』



『あ。駅、忘れんといてな』



『………………はい』



- - - - -

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る