「『好き』って言ってるよ」



・-・-- ・・ ・--・- ・・-・・ 



「うわー!やっぱこの美術館、立地も最高なんやなぁ。

見渡す限りの海と山〜♪」



「こんな素敵な屋上庭園まで完備してるなんて……どこまでハイセンスなんだ」



「思った通り、めっちゃええとこやったな〜。

かなり見応えあったわぁ」



「ね。ここまで大規模だとは思いませんでした」



「やっぱさー。

置いてある作品が全部、"再現された名画"っていうのがワクワクするんよな。

原画と寸分の違いもないらしいで。サイズとか、色も」



「凄いです。筆遣いも再現されてるって……一体、どれほどの時間がかかるんでしょう……」



「いやー、想像もつかん」



「色んな時代の、色んな世界の作品を、ほぼ0ゼロ距離で見られて、ありがたかったです。

"モナ・リザ"も、"ヒマワリ"も、"真珠の耳飾りの少女"も……

1箇所の美術館じゃ、絶対見られないでしょうし」



「美術の知識とか全くナイけど、『知ってる!』ってなったの多かったな」



「うんうん。

もちろん、知らない作品も楽しめましたよね。

独特な展示方法で、面白かった」



「どれも感動したけどさ……

やっぱ俺は、いっちゃん最初に見た

"礼拝堂の天井画"が、ど真ん中ストライクやなぁ」



「ナギくん、30分くらい天井見上げたまま動かなかったですもんね。口開けて」



「いやそれ、ほんま恥ずかった。

口ん中、カピカピんなって我に返ったわ」



「……ほんと、いてて良かったですね」



「ちなみに、ハルちゃんのお気に入りは——」



「バロック時代」



「……そうよなぁ。

明らかに食いつきがちゃうかったもん」



「はい。特に、影と光のコントラストの強い作品が最&高でした。

作品の大部分を濃く深い影が覆う中、

淡く優しい光が照らし出す真実……

でもそこに、救いや幸福があるとは限らなくて…………

あぁ〜〜〜〜好きすぎる…………。

ちょ、もう一度戻りますか???」



「うーん。その生き生きとした表情。

行く前、あんなにゴネゴネしてた人とは思えんな」



「だ……だってそれは……ナギくんが卑怯な手を使うから……」



「なんだかんだ言うてるけどさ。

最終的には着いて来てくれたの、優しいよなぁ」



「……仕方ないじゃないですか。

記憶にないとは言え、約束しちゃったなら……」



「そーそー。

そーいう義理堅さというか……

仮病とか使えんところが、ハルちゃんらしいってコト」



「うわ……その手があったか……

普段から元気すぎて失念してた……」



「もし思いついてても、上手に嘘つかれへんくせに」



「うっ……確かに……。

もっと器用に生きたい……」



「おし。もっかい戻ろ。

ハルちゃんの好きな作品のとこ」



「え、いいんですか?」



「うん。んで、その後ご飯行こ」



「はい。

……その前に、一つだけ約束してください」



「何?」



「私が見てないところで、勝手にお会計済ますのやめるって」



「え……見てるところで済ます方がええってこと?

どんな趣味?」



「違います!奢るのをやめてください!

後から渡そうとしても、絶対受け取ってくれないし……」



「しゃーないやん。

それが俺のポリシーやねん」



「ぽりしぃ?」



「そう。俺の中で『財布出さんでええで』は、

『月が綺麗ですね』なの」



「……え?唐突に何?

というかそれ、用途や意味合いが全く違うじゃないですか」



「なんでよ」



「だって。『月が綺麗ですね』って……

"愛を伝える時のセリフ"でしょ。

ナギくんのソレとは、全然違いますよ」



「……………………」



「え。何ですか、その顔。

どう考えても、変なこと言ってるのはナギくんの方ですよ。

ていうか、そろそろ戻りましょ。閉館しちゃう」



「はぁ…………

もう、"俺のもそうだよ"って言うてまおかなぁ。

いや、お金がどうとかの問題やなくてさぁ……わかるやん?普通。

誰にでも、ここまでするわけやないって…………」



「あれ。ついて来てない……というか、なんか独りで黄昏れてる?

おーい、ナギくーん。来ないんですかー?

置いて行っちゃいますよー」



「……今行くー」



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