「『未来も共に』って言ってよ」



・-・-- ・・ ・-・-・ -・- 



『はい、もしもし……』



『もしもーし。こんばんは、モモちゃん』



『……こんばんは、ナギくん。

今日も配信お疲れさまです』



『ありがとー。

いよいよ明日、ファンミファンミーティングやなぁ。準備終わった?』



『はい。後でもう一回チェックしますけど、ほぼ終わってます』



『んで?結局、座席番号は?』



『だから。教えるわけないじゃないですかって。

本当は、当選したことすら言うつもりなかったのに。

……あまりの嬉しさに、口が滑ったけど』



『ケチ』



『"見つけ次第、連行する"って脅したの、ナギくんでしょ』



『そんな物騒なこと言うたっけ』



『おかげで指名手配犯の気分です』



『あ。そうや、モモちゃん』



『はい』



『厚めのカーディガンとか、持っとる?』



『え、突然?持ってますけど』



『ほな、持って来た方がええで。

会場寒いから、羽織っとけるように』



『ええ……。普通の長袖じゃダメですか?』



『うん。厚ければ厚いほどイイ。

ニット系とか、なんならシャギーでも良いレベル』



『え。そんな極寒?どんな会場?』



『この前のリハで体感してん』



『えー…………。

公式から注意喚起みたいなの、出てましたっけ。

衣替えの時期なんて、とっくの昔ですよ?』



『哀しーなぁ。

俺が信じられへんってコト?』



『そうじゃないですけど……。

クローゼットから引っ張り出すの、大変だなって』



『そーかもしれんけど。

風邪引いたら、配信来れんくなるやん』



『……わかりました。

まあナギくんの配信は、這いつくばってでも見ますけどね』



『頼むから、そん時は全力療養して』



『……げっ』



『え、どしたん?なんか通知音、鳴ったけど』



『…………お母さんからのアンチコメントでした』



『オカアサンカラノアンチコメント?

何それ、どういう状況。喧嘩してんの?』



『いや、ただただ否定されてます。

"いつまでアイドルの追っかけやってるんだ"、とか。

"いつ結婚するんだ"、とか。

こんなことばっか言われて……』



『あぁ……よくある、方向性の違いやねぇ』



『ほんと、全然わかってくれないんですよ!

ナギくんはアイドルじゃないって、何万回も言ってるのに!!!』



『あ、そこなんや』



『悔しぃ』



『てかさ……結婚って流石に早すぎん?

そもそもモモちゃん、歳いくつなん……て。

これ女性に聞いたらあかんヤツ?』



『今年で23です』



『え゛』



『何か?』



『お……俺より年上やったんや……

……ゆーて、1歳しか違わんけど。

てっきり大学生やと思ってた……』



『推し始めは学生でしたけどね。

今は普通にOLですよ』



『……敬語使わせてもろたほうが良い?』



『絶対にやめてください。

いつも通りでお願いします』



『にしても……

結婚を急かされるのは、まだ早いと思うけどなぁ』



『ですよね?

もっと令和的価値観を持って生きてほしい』



『……モモちゃん的にはどうなん?結婚願望あんの?』



『まあ……一応"ある"のかな?』



『え、意外』



『何をもって願望とするか、ですけど』



『どーゆー意味』



『たまに思うんですよね。

こーやって外野にトヤカク言われ続けるくらいなら、

さっさと結婚してくださる方を探す方が良いのかもって。

なるべく、私への期待が薄くて、私に求める条件もユルい人を……』



『え?

"恋愛"やなくて、"結婚"だけしたいってこと?』



『そう』



『……なんで?』



『全ては世間体のため、ですよ。

自分の人生は、ハリボテで造り上げるんです。

ハタから見ると、一丁前に見えるように。

それで早く身を守って、あとは推し他人の人生の応援に全力を捧げる方が、

よっぽど有意義で、よっぽど幸せなのではないか?って気がして』



『お、おう……。

アツいんかサメてんのかわからんな』



『どうせ、自分が主役の幸せ物語なんて、いつかは頭打ちになるんですよ。どれだけ理想を追っても。

[夢]や[ロマンス]は、いつだって他人の人生の中にあるんです』



『うーん。やっぱ激サメが正解やったか』



『はぁ……。

本当は……そのハリボテを造るためにも、何らかの行動をとり始めるべきなんですけど……。

どうしても腰上がらないんですよねぇ。

今はまだ、何も考えたくない』



『うん……しばらくは、現状維持でいてよ』



『やだなぁ。心配しなくても、ナギくんのファンは辞められませんよ?どうなっても』



『うーん……。

"世界を獲れたら"とか、悠長に言うてる場合やないんかもなぁ…………』



『さて。そろそろ明日に向けて、最終チェックしてきます。

……クローゼットも漁らなきゃいけないようですし?』



『うん。また明日、楽しみにしてるなぁ』



『???

それはこっちのセリフですよ』



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