第3話 転勤

「西宮!ちょっと来い!」


会社でのドSっぷりは相変わらず。

たまにぶん殴ってやろうかと思うが、ここは溜めて溜めて後日こちらから仕掛けてやろうと最近は2人の秘密のための材料みたいにもなってきている。


けど、週末、休み前の『お呼び出し』は面白い。



「西宮!お前これなんなんだよ!何回言えば分かるんだよ!」


と言いながら突きつけるように資料を渡される。でもその資料の隙間から付箋がでている。


その端には分かりやすく『☆マーク』が着いているのですぐ取ってポケットに入れる。


それを見て

「いいから戻ってもう一回見てこい」と帰される。



―――――――――――――――退社後、


『付箋』に書いてある店に行くと、

奴が待っていて、僕が行くと引き寄せて抱きしめてくれる。


「さみしかったの?」と僕が聞くと、

「一緒に住むなら優しくしてやってもいい」と言う。

「その言い方無理」というと、

「……」

「いいんだよ?『鬼軍曹』のままでも。」というと、

「やめろよその呼び方。」と笑う。


そう。僕らは光の事を陰で『鬼軍曹』と呼んでいた。でもあの言い方をするのは僕だけ。


でも僕は甘えんぼだけどMじゃない。

だから、週末まで溜めて週末にこうやって会う時には思い切りビンタしてHして光の体で発散する。


「俺はこのままでいい。」

「なんでだよ。」


光が悲しい顔をする。

案外寂しがりなのは光の方。


「じゃあ僕は会社を辞める。別の仕事をする。それなら一緒に暮らしてもいい。」

「…それが安全だよな」


僕はちらっと光の顔を見た。

可愛かった…。


「光」

「ん?…」

「鬼軍曹を継続出来るなら一緒に住んでもいい。でも一緒に住んでる事は公にはしない。」

「それならいいのか?」

「僕は鬼軍曹を手の上で転がせるから。でも甘くしないでよ。仕事できるのは光の方なんだから。」


「…それはいいけど、もしどっちかが転勤になったらどうすんだよ」

「僕は着いていくよ。」

「俺は…」

「その時決めたら?」

「うん…」




───────── 一年後。


「西、ちょっと来い。藤田もな。」


部長から呼ばれて僕らは一瞬顔を見合せた。


『バレたか!』


その時2人で同じ事が頭にぎった。



周りも少しザワついてる。





─────────会議室。


「2人とも座れ。」

「はい!」と僕。

「はい。」と光。


本当に仕事時は鬼軍曹だが、でも…クールでかっこいい。(他の人達には優しい)


「お前らに話があってな。」

「なんですか?」


僕は入社時の面接を部長にしてもらっていたり、学生の頃からちょくちょく会社に用があり部長とも話していたので気軽に話が出来た。


「…西、お前に転勤の話出てきたんだけど行けるか?」

「え?僕が行ったところで使えないですよ。…まさか左遷ですか?」

「いや、セットで来て欲しいらしいんだわ。」

「セット?」

「藤田に同じく課長をさせたい。でも急に行って仕事し始めても藤田も辛いだろ。現地の奴らが付いてくるかどうかも分からない。そこで西、お前だ。」

「…クッション役ですか?」

「それもある。」


「……」

「……」


僕らは顔を見合せた。


「…お前ら一緒に住んでんだろ?住所変えたよな。2人揃って。」

「すみません。伝えていなくて。」と光が謝った

「別に謝る必要はないんじゃないか?全員、『パワハラ課長と可哀想な部下』としか見てないだろうから。」

「…ご存知だったんですか?」


「わからないわけないだろ。飲み会になるとお前がコソコソ西を連れ出して何してるかなんて想像付くだろ。」

「あ、でも一回だけですよ?」

「いいから、言わなくても。」と光。


「お前らにとっても新しい場所の方がやりやすいだろ。変に取り繕うこともない。お前ららしくやれるんじゃないか?」

「…まぁそうですが。」


「西、お前はどうしたい?」

「僕は、いいお話だと思います。どちらにせよ、光に転勤の話が来たら僕は仕事を辞めてついて行くと決めてたので。」

「勿体ないだろ。それも。」

「はい。勿体ないとは思います。」

「…流星、いいのか?」

「俺はいいよ?あとは光じゃない?」

「まぁ、ちょっと考えといてもらえるか?」



──────────────────。



そして僕らは孤島に2人で移る事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る