第11話 恩を仇で返す

 美琴は、ハリガネムシに生まれ変わった。


「ミミズの方がマシだったわ」

 カマキリの腹の中で、美琴は独りごちた。


「まあ、でも、あたしはこのカマキリを操って入水じゅすいさせる事ができるもんね」

 美琴は不敵な笑みを浮かべた。


(幼い頃、カマキリを石で叩いて殺し、お腹からハリガネムシが出てくるのを面白がった経験があるだろう)


(え、ない? ほんとに?子どもだったら誰でもあるでしょ?)


(悪かったわね、田舎育ちで)


 ※( )内は筆者の独り言


 ハリガネムシの成虫は、その名の通り針金のように細長い生物で、体長は大きいもので三十センチを超えることもある。


「あたし達ハリガネムシはカマキリに寄生して、成虫になったら宿主を操って、川や池に飛び込ませるの」


「何でそんなことするかって? 」


「あたし達は、カマキリなどの陸に棲む昆虫に寄生するのに、水中でないと繁殖できないの」


「変な話でしょ、まったく」

 美琴は腕組みをしようとして、腕がないことに気づき、照れ隠しのようにそっぽを向いた。


「だから宿主を水辺へと誘導し、水に飛び込ませるのよ」


「どうやって飛び込ませるかって?」


「カマキリの、光を感じる仕組みを上手うまぁく操作して、カマキリに行動を起こさせてるのよ」


「詳しい説明は、あたしには出来ないわ。だって本能だもの」


「あたし達は水中で孵化ふかし、最初に水の中の昆虫に寄生するの、カゲロウとかにね」


「その昆虫が羽化うかして陸に移るとカマキリなんかに食べられ、今度はその体内で成長するでしょ」


「成虫になると宿主のカマキリを操って水に飛び込ませる」


「そしたらカマキリの体から抜け出て繁殖やら産卵やらして‥‥‥って繰り返すわけ」


「カマキリはどうなるって?」


「泳げないカマキリはどうにか陸に戻るけど、寄生されて内臓が弱ってるからすぐ死んじゃうわ」


「可哀想だけどね、これも宿命よ」


「誰かこれでホラー小説書けない? ヒトの身体に寄生したハリガネムシが、ヒトを操る話、面白そうじゃん」

 あたしが字を書けるなら書いてもいいけど、と美琴は、大ボラを吹いた。ホラーだけに。


「だから、カマキリ見つけても、石で叩いてハリガネムシ出したりしないでよ!」


「人間の子どもは残酷だからねー」


「ほんとにやった事ない?」


「ふーん、田舎じゃ当たり前だけどね」


「んじゃ、このカマキリさんを水辺に誘導するから、またね!」


『やめてくれ!俺は泳げないんだ!』

 美琴が寄生しているカマキリが叫んだ。


「この期に及んで、まだそんなこと言ってるの? 神妙に運命を受け入れなさい」


『嫌だ、行きたくない!誰か、誰か助けて〜』

 カマキリは、抵抗したが、美琴に操られてフラフラと歩き始めた。

「さあ、もうすぐ着くわよ。覚悟はできた?」



 しかし、カマキリは数人の子ども達に見つかり、石で叩かれ、中から外に出された美琴は干からびて死んでしまった。


 次に目覚めた時、美琴は、ハシビロコウに生まれ変わっていた。



 ※参考資料:Science Portal

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