第2話 十センチの虫にも五センチの魂

 ※ミミズに関する詳細な記述が含まれています。苦手な方はご注意下さい。ミミズについてよく知りたい方は、読み飛ばさずにちゃんと読むと、知り合いにミミズの蘊蓄を語れます。(何だそれ)



 美琴はミミズに生まれ変わっていた。

「はぁ、まだ虫か‥‥‥早く人間になりたい」

 いやそれ、妖怪人間ベムやし‥‥‥



 一兆匹の蝉の死骸は全て土に還り、スミレやたんぽぽ、いぬふぐりなどの草があちこちに生えている。人々は、衣を薄手に替えて、散歩やジョギングを楽しんでいた。


 その散歩道の脇の、木陰の土の中で美琴は生まれた。


 ミミズはおよそ四億年前にその祖先が生まれた。海にいるゴカイのような姿だったが、陸に上がり、日ざしや乾燥から身を守るために土の中での生活を選んだ。


「あたしはね、地中で生活するために、邪魔ないぼ足を捨てたのよ。ゴカイは短い棘みたいなんがついてるでしょ。あんなのがなけりゃ狭い空間にも入り込めるからね!」


「蛇は細長いけど、体をくねらせて進むから、左右に空間が必要でしょ」


「尺取り虫は、体を垂直に曲げて進むんで、上下に空間が必要よね」


「その点ミミズは、体を縮めたり伸ばしたりして前へ進むから、体が通る隙間さえあれば移動することができるの」


「だからあたしは、このスマートな体と動きで、外敵や環境から身を守り、四億年も前から生き続けてきたのよ!」


「あたしはね、蛇や尺取り虫よりもずっと合理的なのよ。あたしエライ、えっへん!」


 美琴が人間だったら、ここで両手を腰にあて、胸をそらしていることだろう。しかし、残念ながら、美琴はミミズ、手はない。


 ミミズとなった美琴は、土を食べ、含まれる微生物や落ち葉などの有機物を栄養とし、うんちとして放出した。


 ミミズが土を食べて、うんちとして塊にすることで、隙間が増え、水はけも改善され、空気もたくさん含むことができるいい土になる。


「人間どもがおいしい野菜などを食べられるのは、植物の生育に最適な土を作っているあたしのおかげなのよ!」


 ♪ふふふふふ〜ふ、ふふふふふふ〜ふふふふ、あたしの〜プライド〜♪

 美琴はあのメロディで鼻歌を歌った。


 美琴は、ミミズとしての矜持きょうじを胸に抱いて人生を送る事を決意した。いや、人生って。ミミズなのに。


「あ、知らない人のために言っとくけど、矜持ってのは、プライドって言う意味だからね。全く、日本語より英語の方がわかりやすいなんて!」


 環帯と呼ばれる白っぽい器官が体に出来たら、大人になったしるしだ。美琴はそれを使って交尾をし、子どもも作った。ミミズとしての役割を全うした。


「交尾の詳しくは、一番下の参考資料をネットで見てね! 何なの?交尾について詳しく知りたいなんて、エッチね!」



 ミミズにおしっこをかけると、おちんちんが腫れる。という言い伝えがある。


 あれは、土いじりなどした手で、おちんちんを触ったりするなという教えらしい。


「ま、あたしにおしっこなんかかけたら、それこそ『全集中、ミミズの呼吸!』って具合におちんちんに毒水を吐きかけるけどね!」


 幸い、美琴はおしっこをかけられたことがない。また、ミミズは毒を吐くことはない。


 雨が降ると美琴は土の中から出て、皮膚呼吸をするために体の粘液を濡らす。


 うっかり土に帰り忘れると、散歩中の犬が匂いを嗅ぎつけて寄ってきて、身体をこすり付ける。犬はミミズの匂いが好きなのだ。


「小型犬なら大丈夫なんだけど、大型犬が全体重をあたしの上に乗っけると、柔らかい体はひとたまりもないわ」


 ある日、それは起こった。


 雨上がりに外に出ていたら、大型犬に見つかった。犬は美琴に身体を何度も擦り付けて、満足した顔でその場をあとにした。


 美琴は事切れた。

 その死骸を鳥が見つけ咥えて飛んで行った。


 次に目覚めた時、美琴は、アフリカオオコノハズクになっていた。



 第二話 終わり



 ※参考資料:NHK『ヴィランの言い分』

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