第16話 飯島海人と仲良くなりました
《境楓サイド》
――5分足らずで、梨子と飯島が帰ってきた。
わだかまりが解けたのか、お互いすっきりした表情になっ――あれ? 飯島に関しては、鼻っ柱を抑えて涙目になってるぞ?
それに対して、実にすっきりしたような表情をしている梨子。
――うん、ここは突っ込まないでいてあげよう。
そんなこんなで、名目上トイレ休憩に行って、その間に仲直りを済ませた僕達は――
「おい見ろよ楓! これぞ男の食べ方、二秒しゃぶしゃぶだ!」
「ちょっと、牛肉は百歩譲っても、流石に豚は危ないって! カンピロバクターが……」
「お? 随分とチキンじゃねぇか。ビーフもポークも両方行けるって!」
「ちょっと海人、調子乗ってるけど、痛い目見るからやめなさい」
「はっ、お前のグーパンより怖い物がこの世にあるとでも――すいませんごめんなさい調子に乗りました」
――半生の豚肉を大人しく鍋に戻しながら、海人が震えた声で呟く。
そんな一部始終を、向かいにいる三枝、畦上、そして淳が見守っていて――
「ねぇ待って。なんか知らぬ間にめっちゃ仲良くなってない?」
「それな。一体何があったの? さっきまで半分お通夜状態で、「あれ? ひょっとしてウチら余計なことした?」ってすごく気に病んでたのに」
「ああ、それは俺も気になってた」
三者三様の反応を見せる。
確かに、コイツ等は余計なことしかしていない。が、それで仲直りできたのだから良しとしよう。
「それにさっきから気になってたんだけどさ、そこの男子……えと、境くんだっけ? やたらと梨子と距離が近いよね? どういう関係?」
三枝が、不意に目を細めてそんなことを聞いてくる。
どういう関係、と聞かれましても。友人? いやでも僕、ボッチだしな。友達だと思ってるのが僕だけだったら嫌だな。
――と。
「言っとくけど、りこちーが可愛いからって狙うのはダメだからね? りこちーには既に先約が――」
「あ、俺ならさっきフラれたから大丈夫だぜ?」
ブーッ! と音がして、見れば対面の3人が同時に吹き出していた。
この3人も大概仲良いな。ていうか、僕も初耳なんだけど。
「え? は……え? フラれた?」
「ああ、ガッツリフラれた。な、梨子?」
「はぁ……そういうデリカシーのないことするから嫌いなんだけど、まあ確かに振ったよ」
梨子も認めた辺り、事実なのだろうと正面の3人が顔を見合わせている。
「ん? てかちょっと待って。なんでそんな状況になってるのに、これまでより仲よさげにしてんの? 普通ギクシャクしない?」
三枝がもっともなことを聞いてくる。
確かにな。関係が変わるのに、そのあと普通に友人関係になる、みたいなのは難しいはずだ。なのに、以前より仲良くなっているのは不自然である。
「まあ、そこはいろいろあったということで……主に楓くんの活躍のお陰で」
「おう、そうだな。コイツのお陰でギクシャクならずに済んだからな」
梨子と飯島が、口々にそんなことを言ってくる。
おっと、いきなり褒められるとなんだかむず痒いですね。
「マジ? じゃあ2人の関係を良い感じに取りなしたということで、楓くんには接着剤の称号を与えよう」
「よっ、接着剤楓!」
「緩衝材楓!」
やめて何コレ新手のイジメ?
変な芸名つけられたんだけど。泣いていい?
しかし、陰キャというのは悲しいかな、こういうとき愛想笑いをしてやり過ごすのである――
「ちょっとみんな、楓くんが可愛いからってからかわないの」
そんな風に梨子が助け船を出してくれる。
「とりあえず、何があったかはまた話すから」
「つまり俺の黒歴史も大々的に広まるわけか……いやまあ、俺が悪いんだからいいけどさ」
梨子は「詳しいことはまたあとで」的に話をまとめた。
それについて飯島が何か言いたそうだが、まあ梨子のことだし、彼の黒歴史を広めることはないだろう。
そんな感じで、波乱の渦巻く食事会は幕引きとなったのだった。
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