日だまりの午後

「今日もいい天気ね」



 平日の午後、私は穏やかな陽気の中で縁側に座っていた。隣に敷いていた座布団の上には三毛猫が眠っていて、身体を丸めながらすやすや眠るその姿が少しだけ羨ましかった。



「そういえば、猫の語源は寝子だと前に聞いた事があるわね。猫は一日の大半を眠って過ごすから、寝る子から猫になったとか。それが本当かはわからないけれど、たしかにこの子は気づいたら眠っている事が多いから、その話も本当かもしれないわね」



 猫を撫でながら独り言ちる。


 私達が整えなくても綺麗な毛並みをしているこの子は元々は野良猫で、今日のような穏やかな気候の日にいつの間にか縁側で眠っていた。その事に驚きはしたけれど、気持ち良さそうに眠るその姿を見て、追い出すのも可哀想だと思って起きるまで待っていた。


 それ以降も気づいたら縁側で眠るようになっていて、夫と相談をした結果、この子をウチのお客さんとして毎回快く受け入れることにした。飼い猫というわけではないけれど、私にとってはもう私達の家族も同然だった。



「どこから来てどこへ帰っていくのかはわからないけれど、ここを安心できる場所だと思っているのなら、これからも来ていいのよ。エサは食べていかないけれどね」



 猫の顎を撫でてみてもまったく起きる様子はない。どうやらこの子は一度眠ってしまったら中々起きない子のようだ。けれど、それならそれでもいい。生活が忙しくなったのか、息子夫婦や孫達が中々来なくなった今だからこそこの子の存在はとても安心する。まるで、新しく孫が出来たかのようだ。



「うふふ、本当は私達と近い年齢かもしれないけれどね。どうやら犬や猫は人間の年齢に換算すると、思っていたよりもお年寄りな事もあるようだから」



 そんな人間と動物達の違いについて考えている内に私も少しだけうとうとし始めていた。



「あら……うふふ、この子の眠気につられてしまったかしらね」



 こんなにいいお天気で、お昼寝をするには最適な気候なのだから、うとうとしてしまうのも仕方ないのかもしれない。前に孫もお昼の授業の時にはお日様が暖かくてうとうとしてしまうと言っていたから。



「それなら私もお昼寝しましょうか。散歩に行った夫もその内帰ってくるでしょうし」



 お昼寝をする事を決めた後、私は正座のままで目を閉じた。本当はお布団を敷いてから眠った方がいいけれど、わざわざ部屋に戻ってからお布団を敷いて眠るよりもこのお日様の暖かさを感じながら眠る方がいいと思ったのだ。



「本当にポカポカで気持ちがいいわね……」



 目を閉じたからか少しずつ眠気が強くなってくる。お布団に入って眠っているわけではないのに、お布団に包まれているような温かさが私を包んでいて、それはまるで空気のお布団と言うべきものだった。


 空気のお布団は私の身体を内側まで温めていき、その穏やかな熱が私を眠りへと誘う。これならば、気持ちよく眠る事が出来そうだ。



「おやすみなさい」



 その言葉と同時に、私の意識はスーッと遠退いていく。ふわふわとした気持ちの中で暖かな空気に包まれて、猫と一緒に私は静かに眠りについた。

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