懐古の昼
「いい寝顔ね」
お布団の中で眠る小学生の娘を見ながら呟く。小学生と言っても、娘はもう六年生。学校では最上級生として下の子達の模範になろうとしているし、クラスでも委員長として頑張っている。
けれど、それにもやっぱり限界はあるようだ。お休みの日、娘がもっと小さい頃のように寝かしつけてほしいとお願いしてきた。それに驚きはしたけれど、大切な娘からのお願いだ。快く引き受けた。
「大きくなったと思ったけど、やっぱりまだまだ子供なのよね」
それはそうだろう。年月を経るごとに身体も心も成長していくけれど、それでも娘はまだ小学生。まだまだ未成熟で、可愛い私の娘なのだ。こうやって甘えてくるのだって普通だ。
「あなたは、これからどんな風に成長していくのかしらね」
サラサラな娘の髪を軽くすく。私と同じシャンプーやリンスを使っているからか慣れ親しんだ香りが漂ってくる。前までは違うシャンプーやリンスを使っていた娘だけど、私が使っている物を教えてみると、それを使いたいと目をキラキラさせながら言い始めたので同じものを使い始めたのだ。
前から私みたいな女の人になりたいと言っていたのもあるのだろう。この時からシャンプーなどだけじゃなく、髪留めや髪型、その他にも色々な物を娘はお揃いにしたがった。私と同じものを使ってみれば私のような女性に近づけると思っているのだろう。その姿がとてもいじらしくて愛おしく見えた。
「ふあ……」
私の口からあくびが漏れる。娘の寝顔を見ている内に安心感から眠くなってきたのだろう。買い物に行ってくれている夫はまだ帰ってきていない。本当は帰ってくるまで待っていて、帰ってきたら荷物を受けとる方がいいのだけど、どうやら思ったよりも私も眠くなっていたようで、少しうつらうつらとし始めていた。
「とりあえず連絡だけしておきましょう……」
夫との連絡用に作っておいたトークアプリのルームに少しだけ眠ることを書き込むと、了承した旨とおやすみの言葉が帰ってきた。それに安心した後、私も娘の隣で目を閉じた。
途端に強い眠気が襲ってくる。かけているタオルケットの微かな重みがその眠気を更に強くし、ふわりという浮遊感のような物を感じた。
「ふふ……この子と一緒に眠るなんていつ以来ぶりかしらね」
今回は甘えてくれたけれど、一人でも色々な事が出来るのだと言って、私と一緒にお昼寝をする事などを止めてしまってから数年が経っていた。その事を成長の証だと思って嬉しく思う反面、少し寂しく思っていたけれど、やっぱり娘とまた一緒に眠れる事が私にとっては嬉しかったのだろう。
その証拠として、娘と一緒にお昼寝をする事を決めて横になった途端に強い眠気が襲ってきた。やはり、嬉しいと同時に安心しているのだろう。娘がまだまだ私の子供として甘えてくれることを。
「おやすみなさい。いい夢を見てね」
娘の安眠を願いながら言った後、私もゆっくりと意識を手放していく。さっきはふわりという浮遊感を感じていたが、今は水に身体を預けながらプカプカと浮いている時のような感覚だ。
浮遊感と多幸感。その二つを感じながら私は眠りに落ちていく。夢の中でも娘と一緒にいて、幸せを感じられるように願いながら。
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