其の四 初雪
今、僕は何が起こったか、ちょっと考えないといけない感じだ。
一つの悪いこと。深雪号は風花湾の港に着陸してなかった。
一つの良いこと。僕はすぐにそれに気づいた。深雪号が村の上を飛んでる最中、デッキからぶっ飛び降りた。
一つの悪いこと。何も準備してなかったから、急に飛び降りて、高さが僕をクソみたいに叩きつけることに気づいた。
一つの良いこと。どこから湧いてきたのか、よく分からないカラスの仲間たちが、僕の命を助けてくれたんだ。凄いスピードで落ちている最中、それらは霧の紗をフットで掴んで、ぶっ飛ばすように僕を持ち上げてくれた。
一つの悪いこと。霧の紗、もうすぐ破れそう。
一つの良いこと。霧の紗の品質は本当に素晴らしい。
一つの悪いこと。このようなパラシュートがあっても、降下速度がちょっと速すぎる気がした。
一つの良いこと。無事に地面に着いて、骨折りはしなかった。
一つの悪いこと。ここ、思ったよりもずっと寒い。マジで凍え死にそうなんだ。
一つの良いこと。灯台がすぐ近くにある。中には誰もいないはずだから、ちょっと休憩しようかな、と思った。
一つの悪いこと。なんと、名前を墨雪咲っていう女の子、僕の呼吸音を聞いていた。
一つの良いこと。彼女、悪気はなさそうだった。
一つの悪いこと。僕を起こすために、自分の杖で僕の頭をボコッと叩いた。だが、その杖、鉄パイプでできていたんだって!
一つの良いこと。頭にはただのブツができて、脳震盪はなかったみたい。
そして最後、最悪のこと。前、亡霊連邦にずっといたから、人間をほとんど見たことがなかった。何の基準もないから、それで、自分の成長状況が全然分からないってのが、まじでショックだった。
エミと僕、同じ歳なのに、彼女の胸、なんてでかいんでしょう。それとも、それが普通のサイズで、僕だけが貧乳?って、まじかよ!ありえない!
――それらで風花湾に来て、僕が経験した一連の出来事。
こっちの状況、白鈴郡よりもヤバい。海に行ったり、白雪村から逃げたりできないってのは、マジで最悪だ。本当、白雪村の新住民になって、ここで余生を過ごす運命かよ。絶対いやだ!もっと早く気づいて、深雪号に乗って薄桜城に帰ってりゃよかったのに。
重いため息が漏れた。
今、篠木家で待つしかないってわけだ。エミはめっちゃ急いで雪山に仁也と凛を探しに行っちゃった。彼女は僕に、ここでじっとしているようにって頼んできた。どこにも出かけないでって。それに、武器とマントも全部没収されちまった。この娘、ピュアすぎて、僕には一切疑いをかけてこないみたいだ。まあ、仕方ない、逃げ出してもどこに行けるかわからないし。ここでじっと待つしかない。少なくともあったかいし、凍え死ぬ心配はないでしょうか。
前にいる少年は、僕に興味がないかのようだった。名前は、なんだっけ?あ、そうそう、篠木無生。ベッドに座ったまま、何かを超スピードで一冊の本に書いている。
金髪に、色白の顔、まあ、悪くない顔立ちはしているけど。でも、その腕は青白いし、くっきりとした紫色の筋が、もう腕全体に広がりかけてた。
そう、間違いない。それは「凋零症候群」だ。亡霊に襲われた人間が感染する可能性がある病気。初期段階では、癒術士が使う光の魔法で何とかなるけど、そうでない場合、体は次第に侵食され、最終的には死ぬまで広がっていく。
今、無生の症状はめちゃくちゃ目立っていた。残念だけど、彼の症状はもう末期に差し掛かっていて、もう長く生きるのは難しい。噓じゃない、本当。
彼は三ヶ月前、爪の長い飛び回る骨の怪物にやられたとか言っていた。まあ、ちょうどその話が事実そっくりだった。治療どころか、三ヶ月も経てば自然に末期になった。
でも、その現実を彼に教える気はなかった。同情とかじゃなくて、なんかもう彼がすでに知っているような感じだったから。態度は冷静そのもので、そんなことにあまり気にしてないみたいだった。彼の関心は明らかにその怪物の正体にあるみたいだ。
死について麻痺しているってのか...なんてめずらしいことでしょう。僕らみたいな人間って、なかなかいないと思うのに。
「悪魂?その名前か?」
僕は頷いた。
悪魂、普通亡霊の一種。スケルトンが進化したみたいな感じ。足はなく、下半身は長い尾っぽ。翼はないけど、ちゃんと飛べて、しかも飛行能力は強い。巨大な手が二本あって、それがメインの攻撃武器だ。頭の後ろには長い白いベールのようなものが生えていて、白無垢の花嫁さんみたい。
悪魂ってのは、本当にやっかいな亡霊だ。僕だって敵になりたくないって感じ。飛行が得意なやつらは、普通は敵と正面から戦わずに、高度なグライディング技術で素早くかつ音を立てずに敵に接近する。篠木家の兄弟も、たぶんこんな感じで邪魂に襲われた。
ふん、亡霊の連中、なかなか頭のいいやつらだ。誰もが海に近づけないように気をつけてるみたいで、完璧に用意されてた。風花湾全体、もうすでにこっそりと浸透されていたんだ。あの広がる無限の黒い霧、それが一番明白な証拠だ。エミが話していた一連の失踪事件も、間違いなく彼らと関係がある。
ついつい現状を評価し始めた。結論はシンプル、史上類を見ないほど最悪。白鈴郡には頑固なジジイしかいないし、白雪村には地元の人間も侵略者の亡霊も、僕が簡単に海に行くことを許さないかな。
一番の問題は、もう逃げられないこと。封鎖線の大騎士たち、王朝近衛より手ごわいとは思えない。彼らとかくれんぼするつもりなんて、勝算はほぼゼロだ。恐らく、深雪号から飛び降りる決断をした瞬間、後悔の余地はもうないでしょうか。
今、どうするべきかな?僕も分からない。時々、現実を受け入れることが最善の方法かもしれない。風花湾の現状については何も知らない僕は、篠木家にじっとしていて、「白雪村探偵団」のメンバーが集まるのを待つしかないな。
そんな時、階下から扉が開く音が聞こえてきた。
皆んな篠木の部屋に集まったとたん、僕はさっそく自己紹介をすることになった。
――あ、初対面でございます。どーも、よろしくお願いします。風鈴と申します、世界中をふらふら旅してる旅人です。ちょっと前、知り合いからここをオススメされて来てみたんだけど、どうもここはちょっと特殊な場所みたいで、皆さんにご迷惑をかけることがあったら、すんませんって、本当に言いたいと思ってます。それから…」
「風鈴?名前?それとも姓?」
無生が手を上げて、僕の話を遮った。さっきまでののんびりムードから、急に真剣モードになっていた。
――名前だけです。姓はありません。ちなみに、風鈴って名前も、友達が勝手につけてくれたもので、本来の名前が分かりません。
「ふん。そうなんだ...」
無生の表情がちょっと驚いているみたいだったけど、僕は目をキラキラさせて事実を伝えた。それから彼は何も言わず、またノートに何かを書き始めちゃった。
なんか、この自己紹介、なかなかうまくいったんじゃない。前のみんなも、特に質問もないみたいだし、まあ、みんなは僕の話、信じてくれるっぽい。うーん、頑張ってね、風鈴。
短い間の沈黙の後、篠木仁も言葉を投げかけてきた。この方は無生のお兄さんで、探偵団の団長だ。弟と同じく、綺麗な金髪で、その髪には雪粉が積もってた。弟よりも、外見が明らかに大人びていて、かなりの経験を積んでいる様子が伺えた。まるで、兄貴そのものだな。
「この旅人さんを村長のところに案内するべきだと思う。」彼が言った。
「賛成。」無生は手を上げた。
その後、凛も頷いた。花見凛、ね。その赤髪の少女、内心はまるで燃え盛る炎みたいだった。探偵団の中で彼女だけが魔法を使える。たとえ彼女の魔力が王国の標準からすれば微弱すぎて、まともな魔法使いとは言えないレベルでも。だが、このまっぴらな小さな村では、彼女は本当に珍しい存在だったんだ。
まずい。ますます悲しくなっちゃって。凛は厚いコートを着ているんだけど、その輪郭が見えた。エミとほぼ同じサイズだ。やばいな、僕、本当に貧乳かな。こんな平凡な胸、まるで男の子みたい、最悪。
あの頃、亡霊連邦でもっと良いものを食べておけばよかったって思う。もう十五歳になったのに、胸がぜんぜん成長しないんだよ。
「うん。」エミも同意した。
墨雪咲。認めざるを得ない、この娘、探偵団で一番不思議な存在だってば。本当に不思議なんだ!
顔色は青白くって、美しいってよりは死んだように青白い。淡い青い瞳は、雪が降る空の色みたいで、瞳の奥にはまるで大雪が降り積もっているって感じ。でもその目からは寒さとかは微塵も感じないのに、吹き荒れる風が何かを語ってるみたい。目に映るのは厳冬の景色でも、それでいて明るくて元気そうな感じがするんだ。
真っ白い長い髪が背中に綺麗に垂れて、肩から零れ落ちそうになっている。静寂の中で雪が舞う日に、舞い散る冬の精霊のように。
明らかに、その瞳は綺麗なのに、視力は最悪。それゆえ、彼女の耳は逆に異常に敏感で、もう怖いくらいに鋭い。本当に予想外だった、寝てた時の微かな呼吸音すら、霧の紗のような隠し事も、全て、彼女の耳にかすりもしなかった。
これだけ年月が経って、エミが最初に霧の紗の偽装に気付いた人物だった。強大な亡霊たちですら僕の変装を見破れないのに、この記録がまさか、人間の王国のど田舎から来た普通の少女に破られたなんて!僕はまるで穀物倉庫に忍び込んで、食べ物を盗む鼠みたいに、猫の彼女の手に軽々とかかれてしまった。
それだけじゃない。みんなは厚着しているのに、エミだけが真っ白なワンピースを着ている。本当、冬の精霊みたい。僕が凍え死にしそうな中、彼女は暑いって言っていた。暑いんだって!皆が反対しても、窓を開けようとしていたくらいだ。
この不思議な女、正直、びっくり仰天。尊敬すら湧き上がるほどのびっくり。
「村長に引き合わせよう。彼がなんとかしてくれるだろう。」
「例えば?」
「風鈴をここから送り出すこと。」
「なに言ってんだ?送り出すって?」
「もう、もっと犠牲者は出せない。風鈴は旅行に来ただけ、彼女は無実だ。」
「え?村長のところに連行して、村に閉じ込めるつもりだと思ったのに。兄さん、この人、まったくウソ吐いてるだろ!」
おいおい、こいつら、なんて可愛らしいでしょう。こんなにも大声で僕のこと話しているし、僕、その横で聞いているんだ。まあ、探偵団特有のやりとりってことでいいか。黙ってみんなの審判に口を挟まないようにしよう。
「私もそう思う。大海での死よりも、閉じ込めておけば、せめて命は守れるでしょう。」
ああ、最初は凛って、結構優しい女の子かと思っていた。まさかこんなに冷酷。ええ、それとも冷静?僕の安全のためだとはいえ、刑務所に入りたくはないんだよ。
「あれ?閉じ込める?風鈴はここに旅行に来ただけなの。大海に行く気なんてないって。ねえ、そうでしょう?」
エミと仁也同じように、私に信用と友情を示してくれた。
多分、彼女はそう言ったのは、内心で罪悪感を感じているから。だって、前に彼女、固い鉄のパイプで頭をガンガン叩いた。本当に荒っぽい起こし方は初めてだった。
正直に、それは彼女のせいじゃない。何かの位置を確認しても、その姿を見ることができないって、視力が元々あんまり良くないエミにとって、確かにショッキングだったでしょう。彼女の気持ち、そのときの気持ち、僕も理解できるよ。ボコッと頭を叩くのは、確かに妥当な選択だった。
エミの話が終わると、皆がビシッと僕を見つめた。
チャンスだ。今すぐ何かアピールしなきゃいけない。だから、いつも持ち歩いてる日記帳を取り出して、皆に見せた。世界中を飛び回って書き綴った日記、これで僕がまさに旅人だってことがバッチリ証明できるはずだ。
無生に手渡した。そして、彼はそれをガッツリ読み始めた。
「お前、これまでずっと西の方にいた?」
――そうですね。
「いろんな場所、マジで面白かったな。西の国、『亡霊』の国とか。まるで伝説そのものだけど...だが、まだお前を信用できるかどうかは微妙なんだね。」
――かまいません。実は風花湾のことも全然予想してないでした。だから、僕が皆を信頼していますし、もっと便利な情報を吸収したいと思っています。
「そうか。ありがとう。」
無生はしばらく黙り込んで、そして、結論を出しました。
「ハッキリ言って、我が探偵団は新メンバーを待っていたって感じだ。亡霊のことに詳しいし、風鈴がいれば絶対に調査に役立つと思うんだ。例えば、悪魂――僕を襲った化け物。予測が正しかったとすれば、それがこの病気の元凶だと思う。」
無生の言葉を聞いて、仁也は急にワクワクし始めた。まるで救世主を見つけたみたいに、彼は振り返り、僕を驚きの目で見た。
「えっ...風鈴、マジなのか?無生の病気、一体どうなってんのか?」
――ええと...
突然、どう答えていいかさっぱり分からなくなっちゃった。噓つきたくないけど、みんなにヤバいことがバレるのも嫌なんだ。僕はすぐに無生を見つめた。助けを求めるような目で、ほんのりサインを送ってみた。この問題、やっぱり彼に答えてもらいたかった。
無生は頷いて、すぐに僕の気持ちをピンと理解してくれた。
「みんな、聞いてくれ。言葉一つでオチだ。僕は…あまり時間がない。」
予想通り、彼はズバリと事実を吐き出した。同時に、みんなの表情の変化に気付いたんだ。
凛はめっちゃ冷静だった。おそらくこの事実を既に知ってた。それでも、彼女はちょっとため息をついた。
咲、まさかの展開に、ビックリの表情でフリーズ。口、少し開いてるけど、何も喋れない状態だった。その瞳から、まるで吹雪のような大雪が降り積もるのを見てるみたいな感じがした。悲しみ以上に、ビビりまくり。おそらく彼女、ずっと楽観主義者だったのか、こんな重たい話を知らなかったでしょうか。だから、こういう事実を聞いたら、めちゃ戸惑っているってこと。
一番悲しいのは、やっぱり仁也だけど、偽装の達人みたい、感情がダダ漏れなのが一番許せない。弟と同じように、もしかしたら彼も既に気づいてたかもしれないけど、信じたくなかった。団長として、何かを肩に担ぐ必要があるみたいな感じがするのかもしれない。はっきり感じられる。彼、必死に我慢してた。だから、ちょっとした細かい変化を除いて、表情はほとんど変わらなかった。
そのすべての悲しみを胸に秘めた後、仁也はクールに頷いた。
「そうか。」
「そう、残念。それじゃあ最後に、風鈴のことは兄さん、村長に伝えるようにしてくれる?風鈴、お前は僕たちの仲間として、白雪村の事件の調査を手伝ってみよう。もちろん、状況がヤバいから、必ず僕たちのメンバーと一緒に行動しないといけない。そうそう、エミ。この間、風鈴を家に泊めてやってくれよ。」
「はい。」
「それで以上。風鈴の参加に賛成の人、手を挙げてください。」
無生とエミが一緒に手を挙げた。仁也は微笑みながら、軽く頷いてから手を挙げた。凛はあまり乗り気じゃなさそうだったけど、仁也が賛成しているのを見て、彼女も手を挙げた。
「それじゃ、これからよろしく頼むぜ、風鈴。」
――よろしく、探偵団の皆さん。
新歓パーティーも何もなく、お祝い事も無し。まさかの探偵団入りで、僕、すぐに事件のオンパレードが始まった。
今、探偵団は白雪村のカラスをグルグルと調査中。これらの普通の鳥たちが、探偵団にとって一番厄介な存在だった。仁也は、雪山の森でカラスたちの跡を必死こいて追ってたって。
問題は、これが普通のカラスじゃなくて、亡霊生物だ。正式の書きは「寒鴉」。白鈴郡で見かけたことある。でも、あっちの寒鴉はめちゃくちゃ少なかった。しかも、地元の連中、こいつら数年前から姿を現し始めたって言ってたけど、どこから飛んできたのか、誰にも分からなかった。
だから、白鈴郡が寒鴉の故郷じゃないってことがハッキリだ。変でしょう。寒鴉って亡霊なのに、白鈴郡からじゃなくて、風花湾から出てきた。
「え?亡霊生物?」
――そうです。
僕は頷いて、皆がビックリした顔で僕を見ているのに気付いた。
ええと...本気?こんな物、皆知らなかったのかよ。異邦から来た僕でもわかるのに。
突然、無生が「ぷっ」と笑った。彼、仁也の肩をハシャハシャとたたきながら、めっちゃ嬉しそうに笑った。
「ほら、兄さん。僕たち二週間も探し回ってんのに、風鈴の一言に及ばないってのがな。」
仁也も仕方ない顔でにやりと笑っていた。
――はい。亡霊の連中もうここに忍び寄ってきました。それで、これらの寒鴉も、何かこの不気味な事態と結びついてるかもしれません。
「そう?ということは、カラスも悪いもの、無生君を襲った白い化け物と同じ連中なの?ええ...」
エミ、がっかりしたみたいな顔をしてた。あの子、なんかカラスのこと好きだったし。覚えているけど、カラスが彼女にとって仲間のようなもんだって言っていた。
――あんまりガッカリしないで、僕が言いたいのは、寒鴉が今のところ唯一の手がかりです。もちろん、それらと殺し屋の亡霊らは違います。僕は亡霊の国を旅してきたから、亡霊だってみんなが邪悪な怪物じゃないということ、僕、分かりますよ。
この言葉、心から言ってる。もちろん、それがエミにとってもちょっとだけ安心感をもたらしてくれたみたいだ。彼女の顔に微笑みが広がり、力強く頷いてくれた。
――ちなみに、亡霊と人間を見分ける一番いい方法は、血液なんです。ほとんどの亡霊の血は、真っ黒で、インクのようなものです。だから、もし寒鴉の血が本当に黒いなら、それで亡霊生物で確定というわけです。
「おお、そうか。勉強になるよ。」
学生が先生の授業真剣に聞いてるみたいに、無生は僕の言葉をサクサクとノートに書き留めていた。
――ですから、寒鴉の事情を解明するのは簡単です。それを捕まえる必要があります。この件、僕にお任せいただけますか?そして、花見さんのご協力がほしいです。
正直言って、凛と協力したくない。彼女、僕のこと信用してないみたいだし。だが、彼女は魔法使えるから、めんどくさいことはずいぶん省けるはずだ。水刃とか火球とか、自由に使って、寒鴉を落としてくれるかな。
「へえ?おもしろそうじゃん。でも、寒鴉を捕まえたら、どうするつもり?」
――解剖です。
この言葉を言っちゃった瞬間、後悔した。エミの顔、強烈な興奮から一気にがっかりに変わったのが目に見えた。
「解剖?つまり、カラスを殺すってこと?絶対ダメ、絶対!」
――そういっても、他に方法がなさそうですが...
エミの視線、なんか変わった感じだ。今、僕は彼女の心の中で、まるで殺人者と一緒みたいに見られてしまったのかもしれない。
「風鈴!そんなこと言うなら、海に投げ込んでやるわよ!」
言わなきゃならない、この前の娘、本当にカラスが好きらしいんだ。不機嫌そうなエミに対して、僕は仕方なくは諦めるしかなかった。寒鴉を捕まえる計画、とりあえずお預けだ。エミの仲間だから、そいつらに手を出すのは避けようと思うんだ...
まるで子供をなだめるみたいに、エミに説明しまくったら、彼女、とうとう怒りっぽさが消えた。本当は凛にこっそり一匹捕まえてもらおうかと思ってたけど、今はやめておいた方が賢明そうだ。エミを騙すと、また鉄パイプで頭をボコボコにされること必至だからな。
「ほら、もういいよ。後で考えよう。風鈴、お前、ここに来て間もないから、まずはエミとこの所を慣れておくのがいい。寒鴉のことは、また今度話そう。」
さすが無生。いつでもどんな場面でも僕の助けになってくれる、本当に頼りになる仲間だ。
「もう一つ。ほら、外は雪降ってきた。」
そして彼、微笑みながら外を指差した。
みんなで窓の外を見てみた。そう、さっきまで晴れてた空が、急に真っ暗になった。村の上にはふわふわの雲が集まり、白い雪がパラパラと舞い降りてきた。寒鴉たちは大はしゃぎで、雪のパーティーを楽しむように騒いでいた。
雪、久しぶりの雪。これは白雪村に来て初めて見た、初雪だ。
「わぁ――」
エミ、テンションマックスで大ジャンプ。まだピンと来てない頃に、すでにドアから飛び出してった。
僕は窓辺に歩み寄り、その白い姿を見つめた。あの子、雪の中で舞い踊っていた。
邂逅するのは不可能なことのように。だが、もし出会うなら、それはきっと、万象が静まる大雪の日になる。
彼女は冬の精霊。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます