第十話「ページ数の制約」

 高崎美沙は、私の荷物を知りつつも親友でいてくれている強い女の子だ。

 最近大学生の彼氏ができたとかなんとか言っていて、私が心配して「大変じゃない?」と尋ねると、本気で「え? 何が?」で返してくるくらい。彼氏さん、アーメン。

 そんな美沙は私の憧れでもあり、たびたび相談にも乗ってもらっている。

 相談の時間は昼休みと決めている(美沙の恋路や部活を邪魔しないという一応の配慮だと思ってほしい)が、美沙ならいつ行っても相談に乗ってくれると思っていられる。

 かといって配慮は配慮なので、例によって例のごとく昼休みのクラブ棟に美沙を呼び出した。今日は女テニの昼練はないはずだし、多分大丈夫。

「それで、今度はどーしたのさ?」

 案の定5分も待たないうちに来てくれた美沙に、今日の朝からの出来事を洗いざらい話す。美沙は終始顰めっ面をしていたが、最後まで聞いてくれた。

 そして開口一番に

「ハイハイお惚気御馳走様でございました〜。戻っていい?」

 と言い放った。前言撤回、あんまり聞いてなかったみたい。

「愛しのシュウジくんのために朝早くから涙ぐましい努力をして、人恋しさに愛しのシュウジくんの家に転がり込む時間を早めて、愛しのシュウジくんに寝起きドッキリを仕掛けて、愛しのシュウジくんに愛妻弁当作って、ほいで痴話喧嘩ですかい。ラブコメ極めてんちゃうか、おどれら?」

「ちっ、違——」

 違う、と言い掛けたが、まあ細部が改変されてるのに目を瞑ればだけど、大体合ってる。え、何これ? 何この湧き上がってくる感情? 猛烈に消えたくなってきた。

「人が心配して来てみりゃコレですかいな。ええ? 彼氏持ちのアタシが相談相手やったからよかったようなもんを、そこいらの女やったら逆上してどつき回されとるで」

「ごめん、美沙……」

「ま、わざとじゃないっぽいし今回は許すけど。で、何? 要するにカレシに過去バナをしたくないってこと?」

「……うん」

 口調と語気は荒いけど、話している内容からは確かな冷静さを感じた。

「……ええい、まどろっこしい! あと2ページで終わらせにゃならんねん! あんま初々しい話をすな!」

「うん?」

 さっき私が感じた冷静さは一体なんだったのか、突如として美沙はメタ発言を繰り出す。おかしい……。その芸当は、私の専売特許のはずなのに。

「あんさんらなあ、星でも観て来い! この辺じゃ無理やから、どこぞの天文台にでも行って来なはれ! あ、出来るだけ府外で!」

 なんというか、私から相談しといてアレだけど、言ってることが支離滅裂だった。

「はあ……。了解であります!」

 とはいえ、力になって貰ったことに変わりはない。美沙と、それに自分自身の迷いを拭うためにも、私は力強く返事をした。

「よし! あ! 話しにくいんなら、私から話回しとこうか?」

「いや、もう大丈夫。美沙、ありがとっ!」

 美沙のありがたく頼もしい配慮は、彼氏さんにとっておいてもらおう。

 何より、いつまでもおんぶに抱っこじゃだめだからね。

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