第6話
四限を終わらせるチャイムが鳴り、瑞希がノートと教科書類をトントンと纏めていると頭上に影が出来る。
見上げてみると花が立っていた。
「あ、花ちゃんお疲れ様〜。」
「お疲れ様〜じゃないでしょ!」
「え?なんで?」
「今朝の事、聞いたよ。」
「ああ……。」
心配そうに瑞希の手を握る花は、今にも泣きそうな顔になっている。
「……花ちゃん、心配かけてごめんね。」
「もうっ!本当に心配したんだから!」
「えへへ。ほらっ、もう大丈夫だよ!」
瑞希はぺちぺちと自分の頬を両手で軽く叩いてみせた。
花の後ろから、拓海と類の二人が話しながらやってきて、類は瑞希に頭を下げる。
「本当にごめん。」
「もう大丈夫だよ、類くん。」
「睦月、瑞希の事ちゃんと守りなさいよ!」
「はーな。俺からちゃんと言っておいたから安心して。落ち着いて。」
「……拓海が言うなら、信じるけど。」
今にも類に殴りかかりそうな花を、どうどうと収めた拓海。
「類くんも頭上げて、ね?」
「ありがとう、不破さん。」
「うん!……拓海くんもありがとう。」
瑞希が軽く頭を下げると、拓海は頬をポリポリ掻いた後、ニッと笑った。
その後二組に別れてお昼ご飯を食べることになった。
花は最後まで心配そうにしていたが、手を振って別れた。
中庭のベンチに着くと、類が口を開いた。
「……また、拓海って呼んでたね。」
「えっ?ああ、そうだね。」
「拓海って呼ぶのやめてよ。」
「ええ?今更、仁藤くんって呼ぶのもおかしいでしょ?」
「う、でもさ、やっぱり嫌だよ。」
「そんな事言われても……。」
「じゃ、じゃあ俺の事、類って呼び捨てで呼んでよ。」
「ええっ!……る、類……?」
「……可愛い……。」
コテンと首を傾げながら言う瑞希を見て、そう言うと顔を覆う類。
耳まで真っ赤になっていた。
「かっ可愛い!?そんな事はないです……。」
「いや、可愛いよ。不破さんは、可愛い。」
「も、もう類くんってば……。お昼ご飯食べようよ……!」
「そ、それもそうだね。……待って、君付けに戻ってる。」
「えっ?さっきの一度だけでしょ?」
「いやいや、ずーっとだよ。」
「は、恥ずかしいから無理です!いただきます!」
パクッと瑞希がお弁当を食べ始めると、渋々ジト目でジャムパンを食べ進める類。
「ん!今日はジャムパンなんだね。」
「そうそう、たまには甘いものも食べたい気分になるからさ。」
「あ〜、そういう事もあるよね。ジャムパン美味しいもんね。」
「うん。ジャムパン美味しい。」
「えへへ。」
ふんわりとした幸せな空気感が漂う中、瑞希はハッとする。
「(これは、かなりいい感じなのでは……?でも、これって恋なのかな?ただ単に仲良くなれたってだけなのかもしれないし……。)」
一人悩む瑞希を見て噴き出す類。
「えっ、どうしたの類くん?」
「いや、一人でニコニコしたり、悩んだ顔したり不安そうな顔したり、百面相みたいになってるから。」
「百面相!?ただ私は、真剣に悩んでるだけで……!」
「何を悩んでるの?話してみてよ。」
「それは、そのっ……。」
冷静になってみると自分の想像が恥ずかしくなって、黙り込んでしまった瑞希の顔を覗き込み頭を撫でる類。
「俺が力になれる事ない?」
「これは、その……。」
「うん。」
「類くんといい感じかも、もしかしたら恋かもって思ったんですけど、そんな事ないですよね!?そうですよね、はい。終わりました。」
「ん?ん?待って待って、終わってないよ。」
「類くん、そろそろ私と恋をしませんか!?」
「展開が早い!待って、落ち着いて。ね?」
「私は落ち着いてます!ふーっ、はい、落ち着きました。」
「不破さん、随分とマシンガントークだったね……。」
ハハッ、と乾いた笑い声を出す類。
「は、恥ずかしい……。ごめんなさい。」
「そんな事ないよ。俺もいい雰囲気ってこんな感じなのかなって思ってたところだから。」
「そうなんですか……?」
思わず敬語になり顔を真っ赤にして目を潤ませる瑞希を見て、ドキッとした類。
「み、」
「み?」
「み、み見られたくないな〜誰にも。」
「ふふっ、類くん何それ。」
瑞希、が喉から出そうになった類は咄嗟に、自分のジャケットで瑞希の顔を隠してみた。
今、名前を言えそうだったんじゃないかと内心とてもドキドキしている類は、これが恋なのかとも疑問に思う一方だった。
続く
恋を知った日 ぬーん @aozope01
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