第5話

手を繋いで学校まで行ったので、朝から話題は王子様の新恋人と持ち切りだった。

一週間持つかかける男子生徒や、遠くから羨ましげにこちらを見る女子生徒と反応は様々だった。

「(色んな人に見られて恥ずかしい〜!!!!)」

瑞希が下を向いていると、顔を覗き込んでくる類。

「不破さん、大丈夫?体調悪い?」

「いや、そんな事はないんだけど、手を繋いでるのが恥ずかしくて……。」

「ああ、これか。皆に見せつけてるからね。」

「離してもらう事は……?」

「無理!」

「ですよね〜。」

肩をガックリ落とした瑞希と類の前にとある女子生徒が立ち塞がる。

「ねえ、類。」

「あ、橘さん。おはよう。」

「やっぱり寄り戻そうよ。」

「なんで?俺、今お付き合いしてる人いるから。ねっ?」

「はっ、はい!」

「そっ、そんな地味で普通な女じゃなくて、私の方が類とお似合いっていうか。」

「ごめん。そういう所も含めて好きになれなかったんだよ。」

そう言うと橘と呼ばれた女子生徒の横を通り抜けていこうとすると、瑞希の空いている左手を橘は強く掴む。

「え?」と思った瞬間に瑞希はビンタされていた。

「あんたなんかより、私の方が類の事が好きなんだから!」

走り去っていく橘を呆然と見つめる瑞希。

「(何だ、何が起きている?少女漫画でも恋愛小説でも出てきたようなものが現実に……!?)」

「おい!待てよ!……不破さん大丈夫!?」

「……痛い……。」

「そうだよね。痛いよね。とりあえず、保健室行こうか。」

二人揃って保健室に向かい、類が事情を説明すると保健室の先生は呆れたような顔を類に向け、瑞希には心底心配そうな顔をした。

アイシングで10分程冷やしたら、瑞希の頬の腫れはほとんど引いた。

「教室行ける?」

「あ、はい。先生ありがとうございました。類くんも付き添ってくれてありがとう。」

「俺は何も……。」

「じゃあ、そろそろ予鈴もなる頃だし、二人とも急いで教室向かいなさい。」

「はい……。」

「不破さん、行こうか。」

類の言葉に頷くと二人は保健室を出た。

「不破さんごめんね。俺のせいで痛い思いをさせてしまった。」

四階の階段の踊り場で類が瑞希がビンタされた箇所をそっと触れる。

「うん。すっごくびっくりしたし、痛かった。」

「もう本当にごめん。完全に俺のせいだ。」

「……類くんはすごく優しいのに、どうして一週間しかお付き合いしないの?」

瑞希はずっと気になっていた事を尋ねてみた。

「うーん……。告白されて、好きとか恋とかよく分からないけど、それでも付き合っても大丈夫なの?って、聞いてからそれぞれお付き合いするんだけどさ。」

類は考え込むようにして言葉を発しようとしていた。

「俺、本当に好きになった人以外名前で呼びたくなくて、それでいつも揉めて。私が本命になるからそれでいいじゃん。って言われても、そうじゃない気がして。それで、ごめん別れて欲しいって言われるんだよね。それがだいたい一週間くらいなんだ。」

「……そうだったんだね。」

「でも、俺は不破さんを本当に好きになりたいと思ってるから、いつかその時がきたら名前で呼ぶつもりだよ。」

「うんうん……えっ!?」

「……ダメ?」

「ううん!嬉しい!ありがとう!」

「うん。」

類は瑞希の頬をゆっくり撫でてから、頭を撫でる。

「これからもよろしくお願いします。」

「はい!」

類と瑞希が微笑みあっていると予鈴が鳴り、教室までダッシュしたのは言うまでもない。



続く

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