第10話 夜明けの影
女人像に刻まれた「夜明けは近い」という言葉。その意味を解き明かすべく、村岡直樹は捜査を加速させた。黎明の会が次に狙う標的を突き止め、天野康之を捕らえなければ、さらなる犠牲が出るのは時間の問題だった。
「村岡さん、この言葉についてですが、黎明の会の活動記録を調べると『夜明け』という表現が彼らの中で特別な意味を持つことが分かりました」
川村が資料を手渡しながら説明する。
「どういうことだ?」
「彼らは文化財を奪われた戦時中の『闇』に対して、復権を『夜明け』と呼んでいます。そして、彼らの理念では、夜明けの瞬間に最大の行動を起こすという考えがあるようです」
「つまり、『夜明けは近い』というのは、次の計画が最終段階に近づいているということか……」
村岡は険しい表情で呟いた。
その頃、黎明の会のアジトでは、天野康之が部下たちを前に計画の最終段階を指示していた。彼らの次の標的は、東京都内の美術館に所蔵されている国宝級の屏風絵だった。
「この屏風絵は、日本の美術史において失われた誇りを象徴している。そして、この奪われた文化を取り戻すためには、我々の行動が必要なのだ」
天野の声は静かだが、部屋の空気を張り詰めさせるほどの迫力があった。
「爆破準備はどうだ?」
「全て整っています。ターゲットの展示室には防火システムがありますが、それを無効化する方法も手配済みです」
「よし、成功すれば、黎明の会の名は永遠に刻まれるだろう」
翌日、村岡たちは黎明の会の動きを掴むため、残された手掛かりを一つずつ追い始めた。その中で、黎明の会のメンバーが頻繁に出入りしている倉庫を突き止める。村岡は即座に突入作戦を計画した。
「ここが奴らの物資を保管している場所かもしれない。押収品から次の計画の手掛かりを掴むぞ」
村岡と川村を含む捜査チームは倉庫に突入し、内部を捜索する。
倉庫の中は散乱した資料や工具、そして美術品が盗まれた記録と一致するいくつかの品物が並んでいた。その中に、女人像がまた一体置かれていた。村岡は像を手に取ると、台座に刻まれた新たな言葉を見つける。
「すべてが集まるとき」
「すべてが集まる……?」
村岡は眉をひそめた。像の台座からもう一枚のメモを発見する。それには、天野たちが狙う美術館の名前が記されていた。
「次の標的が分かったぞ!東京都美術館だ!」
村岡たちは直ちに美術館の警備を強化し、爆破計画の阻止に向けて準備を進めた。館内の展示室は封鎖され、防火システムも再点検された。黎明の会の動きを待つ中、村岡は決して逃がさないという決意を胸に刻む。
深夜、美術館の外に不審な車両が停車した。その中から複数の黒い影が降り立ち、周囲を警戒しながら動き始める。村岡たちはその動きを見逃さず、車両を包囲した。
「動くな!天野康之、警察だ!」
村岡が叫ぶと、天野は冷静に振り返った。
「ここまで辿り着いたのですね、刑事さん。しかし、これで止まると思いますか?」
その言葉とともに、黎明の会のメンバーが複数方向から攻撃的な行動を開始した。煙幕が焚かれ、爆破装置の起動を試みる者もいる。
混乱の中で、村岡は展示室に突入し、爆破装置を見つける。装置はすでに起動しており、タイマーは残り1分を切っていた。
「くそっ……間に合うのか?」
村岡は冷静に配線を確認し、最後の瞬間にタイマーを止めた。館内が静寂を取り戻すと同時に、捜査員たちが天野を取り押さえる。
「これで終わりだ、天野康之」
村岡が手錠をかけると、天野は静かに笑った。
「刑事さん、夜明けはまだ終わらない。文化は常に奪われ続けている。その現実を忘れるな……」
黎明の会のリーダーである天野を捕らえ、計画を阻止したことで、一連の事件は一応の終息を迎えた。だが、村岡の胸には、天野の言葉が小さな刺として残り続けていた。
女人像を見つめながら、村岡は思った。
「文化を守る戦いは、終わらないのかもしれない……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます