第9話 標的の土蔵

文化庁が管理する土蔵が次の標的だと判明し、村岡直樹はチームを率いて計画阻止に向けて動き始めた。天野康之率いる黎明の会が狙うのは、明治期に描かれた貴重な絵画。その土蔵は地方の静かな村にあり、通常は厳重に管理されているが、今回の予告により警備が強化された。


「村岡さん、土蔵の詳細が分かりました。場所は群馬県の山間部、昭和初期に建てられたものです。中には明治期の絵画が数点保管されていますが、その中でも特に重要なのが『黎明の風景』という作品です」

川村が報告する。


「『黎明の風景』か……まるで奴らの団体名そのものだな」

村岡は不穏な因縁を感じながら、天野たちがこの作品に執着する理由を考えた。


村岡たちは現地に到着し、土蔵の周囲に監視カメラを設置するなど、徹底的な警戒態勢を敷いた。土蔵の内部も警備員が常時配置され、天野たちの侵入を阻止する準備は整っている。


「村岡さん、これだけ警戒していれば、さすがに奴らも手を出せないんじゃないですか?」

川村が安堵した様子で言う。だが、村岡は首を横に振った。

「いや、奴らは必ず来る。そして、これだけ厳重な警備をどう突破するかも計算済みのはずだ」


その予感は的中することになる。


深夜2時。土蔵の周囲が静まり返る中、監視カメラに不審な動きが映し出された。裏手の林から複数の影が現れ、土蔵に近づいている。全員が黒いフードを被り、無線で指示を出し合っている様子だった。


「来たぞ。全員配置につけ!」

村岡の声でチームが動き出す。だが、次の瞬間、別の場所で爆発音が響き渡った。


「何だ!?」

川村が驚きの声を上げる。土蔵の反対側にある小屋が炎に包まれていた。犯人たちは陽動作戦を仕掛けてきたのだ。


「川村、少人数で火元を確認しろ!土蔵を守るのが最優先だ!」

村岡は冷静に指示を出しつつ、土蔵の入口を固める。だが、林の中から煙幕が焚かれ、視界が奪われていく。


その混乱の中、天野らしき男が土蔵の扉に近づいていくのが見えた。彼は手慣れた様子で扉を開けようとしている。村岡は即座に拳銃を構えた。

「動くな!天野康之、貴様を逮捕する!」


天野は驚くことなく、薄く笑みを浮かべて振り返った。

「刑事さん、私を止めるつもりですか?これは単なる犯罪ではない。我々の行為は文化の復権のためだ」


「復権だと?貴様のやっていることは破壊と盗みだ。文化を守るどころか、未来を奪っている!」

村岡は一歩前に踏み出しながら言い放った。


天野は軽く肩をすくめると、手に持っていたリモコンのスイッチを押した。その瞬間、土蔵の奥で火薬の小さな爆発音が響き、内部の火災警報が鳴り始めた。


「くそっ!」

村岡は駆け寄り、天野を取り押さえようとするが、彼は仲間たちの煙幕の中へと消えていった。


土蔵内部に突入した村岡と川村は、火災の広がりを最小限に抑えつつ、絵画を守るために動いた。奇跡的に『黎明の風景』は無事だったが、一部の絵画はすでに煙と炎に巻かれていた。


「間一髪だったな……だが、逃がしたのは痛い」

村岡は汗を拭いながら呟いた。


翌朝、鎮火作業が終わった現場で、女人像が土蔵の入口に置かれているのが発見された。その台座には、また新たな言葉が刻まれていた。


「夜明けは近い」


村岡はその言葉を見つめ、唇を噛んだ。黎明の会の行動は終わっていない。むしろ、さらに大規模な計画へと進もうとしている。


「天野を追うぞ。次は確実に奴らの企みを止める!」

村岡の声に、川村をはじめとするチーム全員が力強くうなずいた。

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