第5話 歴史を焚き付ける炎
夜の静寂を破るように、寺院の周囲には警察官が配置され、緊迫した空気が漂っていた。犯人からの予告を受け、幕末期の刀剣や巻物が保管されている寺院の土蔵を守るため、捜査チームは全力で動いていた。
「村岡さん、全員配置につきました。周辺の監視カメラも確認済みです」
川村が報告する中、村岡直樹は土蔵の入口をじっと見つめていた。
「予告通りに来るなら、どこかに突破口を作るはずだ。気を抜くな」
午前1時。周囲が静まり返る中、寺院の裏手に設置された監視カメラが異常を捉えた。人影が映り込むと同時に、何者かがカメラを覆い隠したのだ。無線が緊迫した声で響く。
「裏手に不審者の影あり! 全員、土蔵に集合!」
村岡たちは即座に行動を開始した。裏手に回り込むと、地面には複数の足跡が残されており、その先には切断されたフェンスがある。侵入者が土蔵に向かっているのは間違いなかった。
「村岡さん、中に入ってる可能性があります!」
「慎重に行け。奴の狙いは爆破だ。土蔵を守ることが最優先だ」
村岡と川村は、手分けして土蔵の周囲を確認する。一方、他の警官たちは土蔵内に向かった。
土蔵の中は薄暗く、冷たい空気が漂っていた。保管されている刀剣や巻物は頑丈なケースに収められ、静かな威厳を放っている。しかし、その中に異質なものが置かれていた――女人を模した金属製の置き物だ。
「もう……置いてある?」
川村が唖然とする中、村岡は床に設置されたタイマー式の爆弾を発見する。残された時間は3分。
「くそっ、爆弾処理班を急げ! 川村、みんなを避難させろ!」
村岡は声を張り上げながら、慎重に爆弾を観察した。
「プロの仕掛けだな……だが、これを放置するわけにはいかない」
爆弾処理班が到着するまで、村岡は冷静さを保ちながら解除を試みた。タイマーは無情にもカウントを続け、残り1分を切る。
その時、川村が無線で叫ぶ声が響いた。
「村岡さん、外に犯人らしき人物を発見しました!追います!」
村岡は一瞬、判断を迷った。爆弾の解除を続けるか、犯人を追うか――だが、迷いを振り払うように、爆弾の解除に集中する。
残り10秒、村岡は確信を持って配線を切断した。タイマーが停止し、静寂が戻る。
「ふう……」
村岡が深い息を吐いた瞬間、無線から川村の報告が入った。
「犯人を取り逃がしました!煙幕を使って逃走した模様です。足取りを追っていますが、証拠が少ない!」
土蔵の外に出た村岡は、川村から犯人の目撃情報を聞いた。黒いフードを被った人物がいたものの、顔は確認できず、逃走用の車も特定できなかったという。
「くそっ、また煙幕か……」
村岡は悔しさを噛みしめながら、女人像を手に取った。
その像の台座には、初めて文字が刻まれていることに気づいた。それは小さく、しかしはっきりと彫られていた。
「終わりの始まり」
村岡は像をじっと見つめながら、低く呟いた。
「終わりの始まり……?犯人は何をしようとしている?」
この事件は単なる盗難や爆破ではない。その背後には、もっと大きな目的が隠されている――そう確信しながら、村岡は女人像を握りしめた。
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