第21話:夕方ニュース特集「8月の主役、天羽翔太」

8月の終わり、札幌の夜。ウォーリアーズ寮のリビングに設置されたテレビでは、地元ローカルニュース番組『ほっかいどうスポーツナイト』が放送されていた。


画面にはキャスターの女性と、野球解説者として知られる元プロ野球選手の北原誠司が映っている。画面右下には「8月度スポツナ 天羽翔太選手特集!」の文字が躍っていた。


「Hokkaido Sports Night」特集スタート


画面が切り替わり、札幌ウォーリアーズの若手外野手・天羽翔太の活躍が映し出される。8月の試合で記録した豪快なホームラン、観客席に向けて拳を突き上げるガッツポーズ、さらには華麗な守備でチームを救った場面が次々とスローモーションで流れる。


ナレーションが響く。


「一軍に来てから大活躍! 8月の札幌ウォーリアーズは、天羽翔太という男なしでは語れません。」


スロー映像が終わり、画面はスタジオへ切り替わる。テーブルには男性アナウンサーと、ウォーリアーズのOBで解説者として活躍している元プロ野球選手・佐藤剛志が座っている。佐藤は現役時代、守備とバッティングの両方で活躍し、引退後は指導者としても評価を得ている人物だ。


アナウンサー:「さて、本日は札幌ウォーリアーズの新人、天羽翔太選手について特集します。解説には、ウォーリアーズOBである佐藤剛志さんをお迎えしています。佐藤さん、まずは天羽選手の8月の成績についてどうご覧になりましたか?」


佐藤:「いやー、まず新人が月間MVPを獲るのは本当に凄いことですよね。しかも彼の場合は打撃だけじゃなく、守備や走塁でもチームに貢献しています。正直、この活躍は想像以上でした。」


   ◇


画面が切り替わり、天羽の豪快なホームランが流れる。


天羽翔太はバッターボックスでバットを肩にかけ、リラックスした姿勢でピッチャーを見据えていた。しかし、その眼差しには明らかな闘志が宿っている。観客のざわめきが遠のく中、彼の目に映るのは投手の動きだけだ。


ピッチャーが投じた初球のストレートを、翔太は渾身の力で振り抜いた。打球はスタンドに向かって一直線に飛び、観客が立ち上がる間もなくフェンスを超えた。


「ホームラン! 天羽翔太、豪快な一撃です!」


塁を回る翔太は、ダグアウトにいるチームメイトたちに向かってガッツポーズ。その後、スタンドのファンにも手を振り、観客席は大歓声に包まれた。


画面がスタジオに戻り、アナウンサーと佐藤が会話を再開する。


アナウンサー:「いやー、ホームランを打った後のパフォーマンスも凄いですね。スタンドに手を振ったり、ガッツポーズを決めたりと、かなり目立っています。」


佐藤:「そうなんです。天羽選手はプレーだけでなく、観客を巻き込むパフォーマンスにも長けています。実際、彼がホームランを打つとスタンドの盛り上がりが凄いですからね。新人なのに、まるでベテラン選手のような雰囲気があります。」


アナウンサー:「ただ、あのパフォーマンスは賛否両論もあるのでは?」


佐藤:「もちろんですね。派手なパフォーマンスは、相手チームやファンに挑発的に映ることもあります。ただ、彼の場合はどこか愛嬌があるんですよ。観客が嫌な気持ちにならずに楽しめるギリギリのラインでやっている。その辺りは本当にうまいと思います。」


   ◇


映像が切り替わり、天羽がサヨナラタイムリーを放った場面が流れる。


翔太はバッターボックスでゆっくりとバットを構え、ピッチャーを睨みつける。その目には自信と覚悟が宿っており、観客席からの声援がまるでエネルギーとして彼に注ぎ込まれているかのようだった。


カウント2-2から投じられたスライダーを、翔太は迷うことなく振り抜いた。打球はライナーでライト前に落ち、2塁ランナーが全力でホームイン。


「サヨナラ! 天羽翔太、またしてもやりました!」


試合を決めた翔太は、ヘルメットを脱いでチームメイトたちとハイタッチ。その後、観客席に向けて帽子を振り、大歓声を浴びた。


   ◇


再びスタジオに戻り、アナウンサーが質問を続ける。


アナウンサー:「天羽選手の8月の活躍、プレーだけでなく彼のメンタル面も凄いと感じますね。」


佐藤:「そうですね。新人はどうしても緊張感やプレッシャーに押しつぶされがちなんですが、彼にはそれを楽しむ余裕があります。観客の声援を自分の力に変えるという点では、特に天性のものを感じます。」


アナウンサー:「なるほど。では、今後の天羽選手に期待することは?」


佐藤:「一つ一つのプレーでさらに精度を高めていくことですね。今は勢いに乗っていますが、プロの世界は簡単じゃない。これから壁にぶつかる場面もあるでしょう。ただ、彼ならそれを乗り越える力があると信じています。」


アナウンサー:「天羽選手、プレーだけではなく、観客を巻き込むパフォーマンスでも注目されていますね。でも、やはりあの勝負強さが一番の魅力じゃないでしょうか?」


佐藤:「その通りですね。特にプレッシャーがかかる場面での冷静さと集中力は、新人とは思えません。サヨナラタイムリーや、試合を決定づける一打など、普通なら緊張で硬くなる場面で、彼はむしろ自分の力を最大限発揮している。あれは天性のものと言ってもいいですね。」


アナウンサー:「確かに、打席に立つときのあの鋭い眼差しは印象的です。解説者席から見ていても、彼が打席に入るだけで雰囲気が変わるのを感じますよね。」


佐藤:「そうですね。天羽選手の目は、ピッチャーに圧をかけているようにさえ見えます。彼の視線にピッチャーが飲まれていると感じる瞬間もあります。これが彼の持つ一種のオーラなんでしょう。」


アナウンサー:「しかも、試合前のパフォーマンスも独特ですよね。例えば、バッターボックスに入る前に観客席に向かって手を振ったり、ヘルメットを軽く掲げたり。あれはどういった意図があると思われますか?」


佐藤:「あれは一種のリラックス方法と同時に、観客とつながる手段なんだと思います。天羽選手は観客の声援を力に変えるタイプの選手です。だからこそ、試合前に観客とコミュニケーションを取ることで、自分を最大限に引き上げるんです。普通の新人選手なら、余計なことに気を取られて集中力を欠いてしまうかもしれませんが、彼はそれが逆に集中のトリガーになっている。」


アナウンサー:「それに、観客席が盛り上がることで、チーム全体にも良い影響がありそうですね。」


佐藤:「ええ、特に若いチームではこうしたムードメーカーの存在は貴重です。試合前から観客の熱を引き出して、自分だけでなくチーム全体を勢いづけている。これは新人選手にはなかなかできないことです。」


アナウンサー:「では、佐藤さんが天羽選手に期待することは何でしょう?」


佐藤:「まずは、今のスタイルを崩さないことですね。パフォーマンスもプレーも、彼の個性が光る形で確立されています。ただ、これからは相手チームも研究を進めてきますし、彼に対する厳しい攻め方が増えていくでしょう。そうしたときに、どれだけ柔軟に対応できるかがポイントです。」


アナウンサー:「壁にぶつかることも予想されますね。」


佐藤:「はい。でも、彼のプレッシャーに強い精神力や順応性を見ていると、その壁を乗り越えられる可能性は高いと思います。それに、彼が持つエンターテインメント性は、球場に来るファンを引きつける特別な力です。これからもその強みを活かしつつ、さらに成長していってほしいですね。」


アナウンサー:「なるほど。佐藤さん、今日は貴重なお話をありがとうございました。」


佐藤:「こちらこそ、ありがとうございました。」


画面には再び天羽翔太がサヨナラタイムリーを決めた映像が流れる。観客席の歓声に包まれる天羽の姿が、まるで地元札幌の新たなスターの誕生を象徴しているようだった。


「札幌ウォーリアーズの新人、天羽翔太選手。彼の存在がチームにどれだけ大きな影響を与えるのか、これからの活躍に注目です!」


画面がエンディングテーマと共にフェードアウトしていく中、札幌の澄んだ夜空には美しい夜月が昇っていた。

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