第3話:監督室での対面

記者会見の翌日、翔太はクラブハウスの監督室の前に立っていた。

深呼吸を繰り返しても、心臓の鼓動は収まりそうにない。


(昨日の発言がやっぱりまずかったのか……。監督に呼ばれるなんて、いきなり何かやらかしたか?)


翔太は小心者だった。女神から与えられた「注目されることで力を発揮する」という能力を活かすために、派手な発言をするよう努めていたが、それは自分の性格からは程遠い行動だった。注目を集めることは怖い。それでも、この能力を最大限に活かしてプロで生き抜くためには必要だと信じていた。


(注目されなければ力は発揮できない……。それが俺に課せられた条件。でも、本当は……怖いよな、こういうの。)


自分を奮い立たせるように、翔太は拳を握り、意を決してドアをノックした。


「失礼します! 天羽翔太です!」


扉を開けると、派手な金色のジャケットを羽織り、サングラスをかけた男がソファに腰掛けていた。

「おー、翔太! よく来たな!」


それが、札幌ウォーリアーズの新監督・鷹司新星だった。

現役時代はウォーリアーズ一筋で活躍し、守備力と俊足で5度のゴールデングラブ賞を受賞。打撃でも3割を超えるシーズンが複数あり、圧倒的な存在感でファンを魅了してきた。引退後はテレビ解説者として独特の軽快な語り口で人気を博し、今シーズンから監督に就任したばかりだ。チームの改革を任された期待の初年度監督でもある。


「おっ、翔太。昨日の記者会見、俺もニュースで見たぞ。『プロ野球で一番目立つ男になる』だって? 大したこと言ったじゃないか。」


翔太は頭を下げ、少し照れくさそうに答えた。

「あ、ありがとうございます。注目してもらいたくて、あんな風に言っちゃいました。」


鷹司監督は軽く笑いながら立ち上がり、翔太に近づく。

「でもなぁ……お前、指名挨拶のときは『必ず結果を出してチームに貢献します』とか言ってたよな。あの真面目なキャラ、どこ行ったんだ?」


翔太は一瞬、言葉を詰まらせたが、苦笑いを浮かべて答えた。

「……どっちも僕です。」


その返答に、鷹司監督は大きな声で笑い出した。

「ははは! 面白いな、お前! 真面目で努力家の顔と、注目を集めるビッグマウスの顔、両方持ってるのか。いいじゃないか!」


翔太は少し緊張を解きながら頷いた。

「ありがとうございます。でも、僕、本当にプロで活躍できるか不安で……。」


その言葉を聞いて、鷹司監督はサングラスを外し、真剣な眼差しで翔太を見つめた。


「翔太、プロの世界で生き残るには、実力だけじゃ足りない。目立つこと、注目を集めること、それも立派な才能だ。」


翔太は驚いたように監督を見つめる。


「でもな、目立つだけじゃダメだ。その裏で誰よりも努力して、結果を出せる選手にならないとすぐ消える。お前が本気でそう思ってるなら、俺がその両方を教えてやるよ。」


翔太はその言葉に力強く頷いた。

「僕、どっちの顔でも期待に応えます! 監督、よろしくお願いします!」


鷹司監督は再び笑みを浮かべ、翔太の肩を軽く叩いた。


「よし、翔太、お前は俺のチームの新しいスター候補だ。大口叩いて注目されて、グラウンドで結果を出す。俺たちのチームにぴったりのキャラだな!」


翔太はその言葉に思わず笑顔になり、気合を入れ直した。


その後、鷹司監督は椅子に腰掛け、再びサングラスをかけた。

「さあ、スターへの第一歩だ。翔太、俺の期待を裏切るなよ。」


監督の頭の中にはすでに翔太の「スター育成計画」が浮かび始めていた――。


翔太は部屋を出ながら、胸の奥に熱い思いを抱く。

(監督の期待に応えて、絶対にこのチームの中心選手になってみせる!)

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