第4話:プロの壁
翔太がプロ入りしてから数週間。
札幌ウォーリアーズの新人として初めてのキャンプが始まった。テレビカメラが向けられるのは当然、スタメンやドラフト1位2位の注目選手ばかりで、翔太の姿はほとんど映らない。
(まあ、そんなもんだよな。)
そう心の中で呟きながら、翔太は与えられた雑用のような練習メニューを淡々とこなしていた。
ドラフト5位の新人なんて最初はこんなものだ。だが、翔太にはある計画があった。
◇
キャンプ3日目。午後のフリーバッティング練習。
翔太はバッティングケージの順番待ちの間に、わざとらしくストレッチをして声を張り上げた。
「いやー、俺も早くスタメンに定着して、全国放送されるようになりたいっすね~!」
周囲の選手たちが一瞬、作業を止める。数人が笑いながら話し始める。
「おいおい、ドラ5のネタ枠がまたなんか言ってるぞ。」
「スタメン? まず一軍に上がるのが先だろ。」
翔太はその反応を感じつつも、さらに一言追加した。
「まぁ、今年の目標は、とりあえずオールスター出場っすかね!」
(ひ~~~痛すぎるだろコイツ!自分で言っておいて何だけど!)
ベテラン選手の一人が笑いながら声をかけてきた。
「おい翔太、お前本気で言ってんのか?」
「もちろんっすよ! ……たぶん。」
◇
その日の夜、選手寮でスマホをチェックする翔太。
案の定、ネット掲示板にスレッドが立っていた。
「天羽翔太、オールスター目指す宣言www」
「翔太ァ!ドラ5が調子に乗るなwww」
「いやでもこれで代打とかでホームラン打ったら盛り上がるわ」
翔太はコメントを見ながら、妙な安心感を覚える。
(よし、ちゃんと注目されてる。これで俺の能力も少しは引き出されるだろ。)
実際、この後のフリーバッティングでは、自分でも驚くほど快音が連発し、コーチたちの視線を集めていた。
「天羽、お前、さっきのスイング良かったぞ。」
「ありがとうございます! いや~、注目されてると力出ちゃうタイプなんで!」
(いやだから誰がこんなセリフ言うんだよ!もっと自然に言えないのか!)
◇
翌日、練習試合で翔太に代打のチャンスが巡ってきた。
スタンドにいる観客の注目は、翔太が出てきた瞬間から薄い。しかし、ネット中継を見ている視聴者の一部が彼の存在に反応していた。
実況が名前を紹介すると、掲示板ではすでに書き込みが始まる。
「翔太ァ!頼むからネタだけで終わるな!」
「どうせ三振だろwww」
「いやホームラン打ったら伝説になるぞwww」
その瞬間、不思議な感覚が翔太を包み込む。体中に力がみなぎり、バットを握る手が自然と軽くなる。
(これだ……注目されてる感じ。よし、いけるぞ!)
カウント2-2。ピッチャーが投じた速球を、翔太は渾身のスイングで捉えた。
打球はライトスタンドの手前に飛び込み、歓声が上がる。
実況「おおっと! 天羽翔太、代打でホームラン!」
掲示板「翔太ァァァ!やりやがったwww」
「おい、ネタキャラかと思ったら意外とやるじゃんwww」
翔太はベースを回りながら、自然と顔がほころぶ。
(よし、この感覚を忘れるな。俺はここからだ。)
こうして翔太のプロ野球人生の「ネタ枠」としての第一歩が刻まれたのだった
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