第6話:目立つ男の初打席
前世も含め、十数年分の野球経験がある天羽は二軍で少しずつ結果を残していた。
そして、一軍の試合に呼ばれるチャンスを手にしたのは5月半ばのことだった。
一軍選手の外野手が控えも含め怪我で離脱し、翔太が代役としてベンチ入りすることが決まったのだ。
「天羽、せっかくだから何か爪痕を残せよ。」
ベテラン選手の田中が笑いながら声をかけると、翔太はいつもの調子で返す。
「任せてください! 明日のスポーツニュース、俺の名前で埋め尽くしますから!」
(そんなんどうやって実現するんだよ!)
◇
試合当日、札幌ドーム 大阪サンダース 対 札幌ウォーリアーズ
試合は中盤、札幌ウォーリアーズがビハインドを背負う苦しい展開。
6回裏、ツーアウト、2,3塁で翔太が代打としてコールされた。観客席からは微妙な反応が起こる。
「7番内谷に代わりまして代打、天羽、バッター天羽」
ウグイス嬢の声が響くと、一部のファンから小さな歓声が上がるが、期待感というより好奇心に近いものだった。
「おい、あのビッグマウスのルーキーだろ?」
「代打で活躍したら面白いな!」
翔太は打席に入ると、軽くバットを振りながらスタンドを見回した。ふとした思いつきで、観客席に向かって手を振る。
「みんな、見ててくれよ! 俺がここで一発決めるから!」
(いや、なんでこんな恥ずかしいこと言っちゃうんだよ!)
スタンドからは軽い笑いが起こり、一部のファンがスマホを手に翔太の名前をSNSに投稿し始める。
初打席の勝負
ピッチャーとの対決が始まった。
初球、内角への豪速球に手を出して空振り。観客席から小さなため息が漏れる。
(いや、振るならもっとカッコいいスイングしろって!)
2球目は外角への速球。プロの洗練を浴びせてやると言わんばかりの攻めだった。
そして2球見送りのカウント2-2。ピッチャーが投じた甘いスライダーが高めに入った瞬間、翔太のバットが火を噴いた。
打球は大きな弧を描き、左中間スタンドに突き刺さるホームラン!
場内が一瞬静まり返り、その後、爆発的な歓声が起こる。
実況「天羽翔太、プロ初打席でまさかのホームランです!」
翔太はバットを投げ捨て、拳を突き上げながらベースを回る。その途中で観客席に向かってウインクし、指をさして叫んだ。
「どうっすか!これが俺の実力っすよ!」
これが決勝打となり天羽は試合後のヒーローインタビューで、満面の笑みを浮かべながら答えた。
「いやー、プロ初打席って特別っすね! これからも目立つプレーをどんどんしていきますよ!」
(いや、ここはもっと謙虚にしとけよ!)
会場は笑いと拍手に包まれ、このインタビューはローカルだがニュースにも取り上げられた。
翔太は寮に帰ると、布団に横になりながら静かにスマホを眺める。掲示板には応援コメントが増えていた。
「翔太ァァァ!マジで打ちやがった!」
「プロ初打席でホームランとか漫画かよ!」
「翔太でポジってええんか?」
翔太は拳を握りしめ、新たな目標に向かって動き出した。
「よし、次はスタメン狙うか。」
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