First Contact 5


「そういうわけです。僕は感染症専門医ですから、どのくらい危ないかはよくわかっています。みなさんが注意を守っていただければ、感染の危険はほとんどありません」

にっこりと神尾が微笑む。

待合い室の隣にあるホールで、折り畳み椅子に座って不安気にしている人達を前に、神尾が穏やかに同じように運んで来た折り畳み椅子に向き合って座っていう。

「怖がることはありません。新しい感染症ですから、用心しなくてはいけませんが、みなさんにこうして待ってもらっているのは、もし、万が一みなさんがこの感染症にかかってしまったときに、すぐに治療を始められるように、備える為です。検査の結果、感染していた場合に、みなさんにうつる可能性はゼロではありませんから、その万が一に備える為に、みなさんの連絡先をきいて、いつでも連絡をとってもらえるようにして、ご相談にものれるようにする為です。あ、いらっしゃいましたね」

保険所の所員達がやってくるのをみて、神尾が席を立つと笑顔で手を振る。

「こっちです、お待ちしてました」

にこやかに呼び掛ける神尾に、多少患者達があきれたようにみる。そして、急に振り向いた神尾に、患者達が驚いて見返すのに。

「あ、そうそう。検査結果が出るのに、新しいウイルスなので、慎重を期して普通より時間をかけてやるんですよ。結果が出るまで一両日はかかります。ですから、ここで皆さんに連絡先をおききしてから、後はご自宅に帰っていただくことになりますが」

にっこり、と神尾が笑んで、ウインクをする。

「先にもいった通り、結果が出るまではご自宅に待機いただきますから大変なご不自由をお掛けします。ですので、ここから帰る際にはお車でお送りします」

ですから、もう少し協力してください、といって笑顔で保険所の人達を迎える神尾に。

 あきれるというか、明るい和やかな雰囲気が人々の間を渡って。

 そして、体調や住所等の聞き取りが始まって。



「あれ?」

神尾が保健所の人達が聞き取りを始めるのをみて、ホールの向こうにある総合待合い室をみて動きをとめる。

 消毒の物々しい装備を身に付けた数名が連絡を取りながら、病院に入ってきて。

 天井のレールに長い棒を使って取り付けた透明なビニールのカーテンを引き、露出した部分が完全にない服装の業者が消毒を始めるのを思わずみつめる。

 それから。

「あ、そうだ」

踵を返して、ホールにある内線に。

「すみません、僕、神尾ですけど、戻って大丈夫ですか?はい、ええ。わかりました。もと来たルートですね?はい。では、戻ります」

内線を切って、それから、降りて来た階段を昇りながら、総合受付を消毒している姿をみて、少し足を留めて微笑んで。

 そして、どうやら次に業者がエアコンのフィルターを外し始めたのをみて、少しばかり驚いて。

「…―――」

思わず瞬いて凝視してから、階段を昇る為に視線を戻す。



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