●◯ カーアイ島の冬至フェス

前回の冬至の祭り、

カーアイ島主催、皇国全土配信、

皇国軍第七船団協賛の皇国フェスは大盛況だった。


そして今年は、

別の地域が持ち回りで開催する予定だったのだが、

くだんの大騒動により、中止と相成あいなった。

それは、致し方ないだろう。

しかし、準備を重ねてきた我々はがっかりした。


そう、俺たちノーザンクロス、

それから皇国姫巫女五十一人と老巫女さん、

そして我が敬愛なる歌姫マーリーさま。

みんな準備や練習を重ねた来たのである。


だから、

今年も丘の邸宅でゲストを呼んで、

昨年ほどではないにしても、

大々的に冬至のフェスをしようか?ということになった。

冬至を過ぎれば昼間が少しずつ伸びてゆく。

日脚伸ひあしのぶというやつだな。

そして、陽光を享受する喜びを、みんなおいわいする。キラキラパワーが集まる。

客観的事実。

混じってない。

完璧な物語だ!



今年はトップバッターがエルザたちだった!

「(ご覧なさい。)」

高らかに宣言した。

そして、五色のちび竜たちと、

鮮やかに歌い踊るエルザたち!!

ポーラも島の美しき乙女として参加した!!

いきなり空中のステージからの登場だった!!


なんと、歌姫マーリー様もトップバッター!!


あ、

あ、

うわあああーー!!

埴輪の正装女子エルザ遮光器土偶マーリーの夢の共演!!

二人でエンカを歌ったのだった!!

大輪の白銀の薔薇と、大きな青い蝶が見えた。

大陸の花の香りと、静謐な花の香りと、

潮風と大地の衝撃波が、ずどーーーんと身体を撃ち抜いた。


俺は震え上がった。

激しく動揺した。涙が止まらない!!

生命の尊さ、人生の儚さ美しさ、女たちの清らかさ、

そして仲間との絆。

まっすぐにみずみずしく歌い上げる、それらの物語に輪郭線を激しく揺さぶられるのだ。

もう、今すぐ金の歌姫マーリー人形を掲げ、相棒竜の背中に乗りたかった。


しかし今のアトラスは八歳の少年だ。

短く生え始めた髪。精悍な横顔。客席から舞台を見つめ、同じく髪の短く生え揃った葡萄や杏はじめ、闇の竜たちと夢中になっている。ツーっと涙を流し、背中で泣いている。彼は俺でなく、ポーラやマーリー、仲間のちび竜をまっすぐに見ていた。

ここで頼るのは、違う気がした。


うわあああーーー!!!


そして、感極まって、

身体の白いものと黒いものが、

ぶわあーーーっと立ち上がりしきい値を超えてしまった。


ぐうぐうーー!!くるくるーー!!!

がうがうがーーー!!!


ノーザンクロスのアイドル、シオンは、

デスボイスデスボのシオンに戻ってしまった。

そして、すっかり人語をなくして半竜人になり観客席に飛び込み、ミルダキリスにごーろごろ、すーりすりとくっついた。心安らぐ赤い芙蓉ハイビスカスそして南国の果実の香り。

「あらま。」

と言いつつ、たいそう嬉しそうにミルダは目をキラキラさせた。そしてシオンを撫で撫でした。

「もおー。このあとの出演どうしよう??」

困った、と言いたげだが、目はとびきり優しい、聖母の目だった。

ソラは隣りにいる、ミルダの母ミルナに抱っこされていた。

彼女は、ふーっとため息を付いた。

「予定通りのがレアよ。ドラゴンゾンビ、ですもの。あるいはエンジェルドラゴン?」

やれやれと、肩をすくめて両手をヒラヒラさせて、もう一度、ため息をついてみせた。

さすが、あの生けるミラーボール、シリウスの実の娘。みんなが、どっ!!とわらった。とくに、十歳の白竜プロキオンは大喜びだった。

ひっくりかえってケタケタ笑った。シリウスのマネージャーの美人白竜も人型の姿でブフッと笑った。となりには、友人で海のドラゴン、ミラの人型が居た。

彼らがいたのは、上空に遊びに来ていた第二船団の中だった。一等客室の窓では、ぐるぐるまきのシリウスの影がちらりっと見えた。


そしてシリウス提供の花火が、ぱあっと夜空に開いた。


フェスは大盛況だ。


ここからは、記憶がない。

又聞きと魔法映写機からのお届けだ!


◇◆◇


一番のハイライトは、ノーザンクロス!

ではなく、

なんと、

モーブくんとコスモスのユニットだった!!


でも、ノーザンクロスも大盛況だった。

俺の抜けた穴を、

八歳のモノマネ少年アトラスが埋めてくれたからだ。ちび竜たちもリーダー、アトラスの活躍に大喜びだった。

葡萄ぶどうあんずもやってきて、まじないの魔法封緘をかけてくれた。

こがらしもなぜか飛び入り参加した。

わあっ!!と盛り上がった。



モーブくん。

近頃じゃ、ホラーゲームをプレイしてゾンビにぼこぼこに打ちのめされながら、泣いたり笑ったりキャーキャーわめく、ホラーゲーム実況動画ホラーじっきょうというのが、大ヒットしていた。


ふっくらとしたソファテーブルへ足を投げ出し、マネージャーたちはいつも団扇で彼を扇いでいるんだ。彼はキラキラの笑顔でそれを受け止める。

美しい身なり、美しい声、選ばれし者然の居住い。

うーん、絵に書いたような天の竜だよなっ!


そしてなんと、

コスモスとのバディものが大人気だった。


目つきも素行も悪く、がむしゃらで頭の回転が早くどこか不器用。喜怒哀楽が激しく可愛い声をした、美しいコスモスと、

ヘタレだがキメるところはキメる、イケボの年上紳士モーブくん。

友達以上、恋人未満の関係は、中高生に大人気なんてもんじゃなかった。

街の至る所に彼らのグッズが飛び交った。

島のお祭りなのに大陸中からファンが集まってしまった。凄いよな。

とうとう俺たちが、前座。

呪詛ざまあみろと仲間の力は強大なり。

うーーーむ。

文様巡りのド変態としては、

心配の尽きない状況。

しかし。

負けられないのは、こっちも同じだ!!


モーブくんはあとで、島の特大解呪パッチンをお見舞いされる気がするな!

コスモスのぶんまで頑張れよ!ってかんじだ。


意外?そうかな。

でも、惚れた女は等価じゃないからな。

ましてや見世物だろ?足りない分は、金と血と汗で埋め合わせないとな。

でなきゃ、いずれ文様は損なわれ、市場マーケットにメッキが混じり、こなごなに破壊されてしまう。いんちきは駄目だ。


お前が言うなおまいう

そうかな。

文様巡りは趣味ライフワーク、喫煙は嗜好たのしみ捕縛ぐるぐるまき手品サプライズだ。仕事というより、私事プライベート。そして文様を損なわず輝かせるものだ。ブレてない。うん。

え?また、致命的な齟齬?そうかもしれない。俺の中では、そうってことだっ!


そして、アンコールの大エンディング!!


俺と、シェラザード・カステルの、叫ぶ歌声デスボイス共演だった!!

久しぶりのフルメイクだ。髪を逆立て、口紅は濃紫にプラチナの箔、目尻からズバーっとまっすぐ下に濃紫のラインを入れる。ワンショルダーのドレス、ネックレスは闇をたたえた宝玉と髑髏どくろだ。苛立つ瞳、長い睫毛。気に入らなければ即爪撃!!暴虐で残忍なその様子は、ファンの間で、通称姫と呼ばれていた。シェラザードなる飛び入りの彼は、赤に金の箔だった。どっちも全力だ。

俺たちは、骨身にしみているのだ。

宝玉眼。恩寵持ち。美しき輝きの代償として、望むと望まざるとに関わらず、物語を背負う運命を課せられている。呪いの物語とともに、呪詛の物語をもだ。

だから、バルコニーに現れて、破壊の限りを尽くす!!

楽器を壊し、手すりを壊し、床を壊し、

シオンと掴みかかって、殴り合いが始まった!!

この世界にログインするというのは、そういうことだ!!歓喜と咆哮。悲しみと慟哭。血と汗と涙の爪痕を、この世界に刻みつけるのだ!!そうだろ!!

なんでだよお!!

眼の前の飛び入りの親父に、ぼろぼろ泣きながら盛大に八つ当たりした。それは向こうも同じだった。

観客は沸きに沸いた!!

ぶどうソーダが飛ぶように売れ、あたりにしゅわしゅわした甘い香りが立ち込めた。



しかし、みんな思った。



あいつ、誰だーーー!!



こんなとき、舌なめずりしながら身を乗り出す、

あるいは、にこにこ笑顔の下で鳶色の目をギラリ!と光らす島のたぬきおやじが、

今夜はどこにも、居ないのだった。



観客では、

彼らにそっくりな赤ん坊が、

島の女神、ミルダのもと、

デスボでギャアーーー!!!ウギャアーーー!!

と、大はしゃぎしていた。

ミルダも、ミルナも愛おしそうにそれを見ていた。


もしかしたらこの子は、シェラザード・カステルなる飛び入り親父に、一番そっくりかもしれなかった。


そうして二人の演者は、抱き合い崩れ落ちた。身体の白いものも黒いものも塊も雫も靄も、砂粒も、全てを最期の一滴まで絞りきった。それから、酸素ボンベを括られて担架で運ばれていったのだった。なにせ、そこは竜医院のバルコニーなのだった。


―ぷぷっ。

島の聖母は赤ん坊ごと赤い外套に身を包み、彼らの居る竜医院の一階へと入っていった。

その瞳は紅玉の輝きを讃え、髪もまた紅玉をたたえた金色に輝いていた。そして器用に片腕ずつ、伸びをしてみせた。


寒い寒い、冬至の夜。

人々はぽかぽかの中、終演を迎え、

帰路につき、あるいはゲストルームやコンドミニアムに宿泊してゆくのだった。



カーアイの凍てつく冬至の夜。

大きな大きな金色の満月は、燃えるように輝いていた。



◇◆◇







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