●◯ カーアイ島の冬至フェス
◇
前回の冬至の祭り、
カーアイ島主催、皇国全土配信、
皇国軍第七船団協賛の皇国フェスは大盛況だった。
そして今年は、
別の地域が持ち回りで開催する予定だったのだが、
それは、致し方ないだろう。
しかし、準備を重ねてきた我々はがっかりした。
そう、俺たちノーザンクロス、
それから皇国姫巫女五十一人と老巫女さん、
そして我が敬愛なる歌姫マーリーさま。
みんな準備や練習を重ねた来たのである。
だから、
今年も丘の邸宅でゲストを呼んで、
昨年ほどではないにしても、
大々的に冬至のフェスをしようか?ということになった。
冬至を過ぎれば昼間が少しずつ伸びてゆく。
そして、陽光を享受する喜びを、みんなお
客観的事実。
混じってない。
完璧な物語だ!
◇
今年はトップバッターがエルザたちだった!
「(ご覧なさい。)」
高らかに宣言した。
そして、五色のちび竜たちと、
鮮やかに歌い踊るエルザたち!!
ポーラも島の美しき乙女として参加した!!
いきなり空中のステージからの登場だった!!
なんと、歌姫マーリー様もトップバッター!!
あ、
あ、
うわあああーー!!
二人でエンカを歌ったのだった!!
大輪の白銀の薔薇と、大きな青い蝶が見えた。
大陸の花の香りと、静謐な花の香りと、
潮風と大地の衝撃波が、ずどーーーんと身体を撃ち抜いた。
俺は震え上がった。
激しく動揺した。涙が止まらない!!
生命の尊さ、人生の儚さ美しさ、女たちの清らかさ、
そして仲間との絆。
まっすぐにみずみずしく歌い上げる、それらの物語に輪郭線を激しく揺さぶられるのだ。
もう、今すぐ金の歌姫マーリー人形を掲げ、相棒竜の背中に乗りたかった。
しかし今のアトラスは八歳の少年だ。
短く生え始めた髪。精悍な横顔。客席から舞台を見つめ、同じく髪の短く生え揃った葡萄や杏はじめ、闇の竜たちと夢中になっている。ツーっと涙を流し、背中で泣いている。彼は俺でなく、ポーラやマーリー、仲間のちび竜をまっすぐに見ていた。
ここで頼るのは、違う気がした。
うわあああーーー!!!
そして、感極まって、
身体の白いものと黒いものが、
ぶわあーーーっと立ち上がりしきい値を超えてしまった。
ぐうぐうーー!!くるくるーー!!!
がうがうがーーー!!!
ノーザンクロスのアイドル、シオンは、
そして、すっかり人語をなくして半竜人になり観客席に飛び込み、
「あらま。」
と言いつつ、たいそう嬉しそうにミルダは目をキラキラさせた。そしてシオンを撫で撫でした。
「もおー。このあとの出演どうしよう??」
困った、と言いたげだが、目はとびきり優しい、聖母の目だった。
ソラは隣りにいる、ミルダの母ミルナに抱っこされていた。
彼女は、ふーっとため息を付いた。
「予定通りのが
やれやれと、肩をすくめて両手をヒラヒラさせて、もう一度、ため息をついてみせた。
さすが、あの生けるミラーボール、シリウスの実の娘。みんなが、どっ!!とわらった。とくに、十歳の白竜プロキオンは大喜びだった。
ひっくりかえってケタケタ笑った。シリウスのマネージャーの美人白竜も人型の姿でブフッと笑った。となりには、友人で海のドラゴン、ミラの人型が居た。
彼らがいたのは、上空に遊びに来ていた第二船団の中だった。一等客室の窓では、ぐるぐるまきのシリウスの影がちらりっと見えた。
そしてシリウス提供の花火が、ぱあっと夜空に開いた。
フェスは大盛況だ。
ここからは、記憶がない。
又聞きと魔法映写機からのお届けだ!
◇◆◇
一番のハイライトは、ノーザンクロス!
ではなく、
なんと、
モーブくんとコスモスのユニットだった!!
でも、ノーザンクロスも大盛況だった。
俺の抜けた穴を、
八歳のモノマネ少年アトラスが埋めてくれたからだ。ちび竜たちもリーダー、アトラスの活躍に大喜びだった。
わあっ!!と盛り上がった。
◇
モーブくん。
近頃じゃ、ホラーゲームをプレイしてゾンビにぼこぼこに打ちのめされながら、泣いたり笑ったりキャーキャーわめく、
ふっくらとしたソファテーブルへ足を投げ出し、マネージャーたちはいつも団扇で彼を扇いでいるんだ。彼はキラキラの笑顔でそれを受け止める。
美しい身なり、美しい声、選ばれし者然の居住い。
うーん、絵に書いたような天の竜だよなっ!
そしてなんと、
コスモスとのバディものが大人気だった。
目つきも素行も悪く、がむしゃらで頭の回転が早くどこか不器用。喜怒哀楽が激しく可愛い声をした、美しいコスモスと、
ヘタレだがキメるところはキメる、イケボの年上紳士モーブくん。
友達以上、恋人未満の関係は、中高生に大人気なんてもんじゃなかった。
街の至る所に彼らのグッズが飛び交った。
島のお祭りなのに大陸中からファンが集まってしまった。凄いよな。
とうとう俺たちが、前座。
うーーーむ。
文様巡りのド変態としては、
心配の尽きない状況。
しかし。
負けられないのは、こっちも同じだ!!
モーブくんはあとで、島の特大解呪パッチンをお見舞いされる気がするな!
コスモスのぶんまで頑張れよ!ってかんじだ。
意外?そうかな。
でも、惚れた女は等価じゃないからな。
ましてや見世物だろ?足りない分は、金と血と汗で埋め合わせないとな。
でなきゃ、いずれ文様は損なわれ、
そうかな。
文様巡りは
え?また、致命的な齟齬?そうかもしれない。俺の中では、そうってことだっ!
そして、アンコールの大エンディング!!
俺と、シェラザード・カステルの、
久しぶりのフルメイクだ。髪を逆立て、口紅は濃紫にプラチナの箔、目尻からズバーっとまっすぐ下に濃紫のラインを入れる。ワンショルダーのドレス、ネックレスは闇をたたえた宝玉と
俺たちは、骨身にしみているのだ。
宝玉眼。恩寵持ち。美しき輝きの代償として、望むと望まざるとに関わらず、物語を背負う運命を課せられている。呪いの物語とともに、呪詛の物語をもだ。
だから、バルコニーに現れて、破壊の限りを尽くす!!
楽器を壊し、手すりを壊し、床を壊し、
シオンと掴みかかって、殴り合いが始まった!!
この世界にログインするというのは、そういうことだ!!歓喜と咆哮。悲しみと慟哭。血と汗と涙の爪痕を、この世界に刻みつけるのだ!!そうだろ!!
なんでだよお!!
眼の前の飛び入りの親父に、ぼろぼろ泣きながら盛大に八つ当たりした。それは向こうも同じだった。
観客は沸きに沸いた!!
ぶどうソーダが飛ぶように売れ、あたりにしゅわしゅわした甘い香りが立ち込めた。
しかし、みんな思った。
あいつ、誰だーーー!!
こんなとき、舌なめずりしながら身を乗り出す、
あるいは、にこにこ笑顔の下で鳶色の目をギラリ!と光らす島のたぬきおやじが、
今夜はどこにも、居ないのだった。
観客では、
彼らにそっくりな赤ん坊が、
島の女神、ミルダのもと、
デスボでギャアーーー!!!ウギャアーーー!!
と、大はしゃぎしていた。
ミルダも、ミルナも愛おしそうにそれを見ていた。
もしかしたらこの子は、シェラザード・カステルなる飛び入り親父に、一番そっくりかもしれなかった。
そうして二人の演者は、抱き合い崩れ落ちた。身体の白いものも黒いものも塊も雫も靄も、砂粒も、全てを最期の一滴まで絞りきった。それから、酸素ボンベを括られて担架で運ばれていったのだった。なにせ、そこは竜医院のバルコニーなのだった。
―ぷぷっ。
島の聖母は赤ん坊ごと赤い外套に身を包み、彼らの居る竜医院の一階へと入っていった。
その瞳は紅玉の輝きを讃え、髪もまた紅玉をたたえた金色に輝いていた。そして器用に片腕ずつ、伸びをしてみせた。
寒い寒い、冬至の夜。
人々はぽかぽかの中、終演を迎え、
帰路につき、あるいはゲストルームやコンドミニアムに宿泊してゆくのだった。
◇
カーアイの凍てつく冬至の夜。
大きな大きな金色の満月は、燃えるように輝いていた。
◇◆◇
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