◆◆◆ 連盟の名の扉。凩か、紫陽花か。

ゴンゾーは、

葡萄を心から応援していた。


ゴンゾーは職人だ。

シオンのようなド天才ではない。

しかし悠久の時を経て、

経験値を得、回廊を開き、

ようやく文様の見られるようになった。

その根性こそ、間違いなく才能だった。

そして滝に打たれ、頭を丸める葡萄をみて、

ニヤリとした。

「根性あるじゃねえか!」

ぶどうが得ようとした力は、それなのだとぴんときていた。その健気さに胸を打たれた。


そして、

杏のことを思えば、

いっときは良くても、

凩を選ぶのは、

彼女にとって険しい道なのはわかりきっていた。


しかし、

葡萄は優しすぎる。甘いのだ。

仲間を頼るほうがいい。そう思った。だから、

きっぱり伝えた。 

「困ったら俺のとこに来い。」


葡萄は困惑もしていた。

そりゃそうだ。

世代間の齟齬ジェネレーションギャップ


まあでも、黙って見過ごすのと違うと思った。



そして直後。


夢現の中、

変容の回廊の扉が、下からぼっこんと現れたのだ。

紫陽花の文様。連盟の扉。

すでに何人かは取り込み済のようだった。

紫陽花には白竜や北極星、スピカ、檜皮色の蝉や桜や欅があったからだ。


間違いなかった。

アトラス!!


皇国軍竜騎士団第七船団所属。

天才竜騎士の相棒。徐々に人格を損ない、忽然と姿を消した真相は、相棒の代償だった。

相棒竜を罪を被り、己のすべてをチップにし、賭けに勝った男。

竜騎士ならみんな涙が出る、しかも物語じゃない、真実なのだ。

偉大なるヒーロー!!

元々、仲間思いの汗だく男。嘘もとびきり多いがお茶目でダーティーな彼は、男たちに大人気だった。

真相が広まるにつれて、彼は再び伝説の男になりつつあった。


しかしそれは、

かつてのシオンが、

ぜーーーったいに入らなかった、それだった。

そんな伝説の男すら凌駕する、

天才竜騎士で彗星の彼には、

そこに所属する意義など、サッパリ見いだせなかったから、だ。


固唾をのんだ。当たり前だ。

俺の葡萄棚。丹精込めて育てたものだ。

その文様を粉々にし、彼の作るこの連盟の扉の文様の一員となる、のか?

しかし、後ろを振り返ってぞっとした。

すでに、身体はこがらしに取り込まれつつあったからだ。


えっ?!


おぞましい美術館のようなステンドグラス。

ぽつりぽつりと見えるピンク色の欠片。

そして文様から、もがき苦しむ杏の幻が見えた。

もう凩の扉の中に入っていた。


それは、葡萄は杏に【名の扉】の鍵を渡したり、

返してもらったりしていたからだった。

だから、葡萄と凩にも同じ状況が起きたのだ。

背筋が凍った。


天性のおれさま。

天性のメイド。


杏は力を得た。

以前よりずっと強くなり大きく見えた。

お似合い。

本当に?


じゃあなんでそんなに、

彼女の文様は悲しげに鈍く光ったり、

あるいは閃光のように切っ先のように輝くのだ?

みずみずしく灯らない?


杏林は本来、

雪山の陽光の下であっても、

優しい光を放つはずだった。


凩の影は、

葡萄の首も絞めた。

こちらへこいと文様を潰しにかかった。紫色の破片が飛び散った。

苦しい!!


振り返ると、紫陽花の文様はただ輝いている。

じっと押し黙り、彼の選択を待っているように思えた。


葡萄は、ぽろぽろと涙が出た。

そうだよな。

精悍な横顔。汗だくの背中。

俺が憧れたのは、どっちだ?


あんなに昔から、

ずっとずっと変わらぬ背中を見せてくれたのは!!


この世に、

あんなに有り難いSSSレアな男はそうそういないぞ!!


行こう、杏!!

彼は、凩を振り切った。

呼応するように、杏の文様の欠片は、

ぱあっと輝き出した、


葡萄は素早く杏のピンクの欠片を残らず回収した。

強く抱きしめた。

凩の影に衣服は影にずたずたに剥ぎ取られてしまったが、かまわなかった。


そして、暖かく灯る紫陽花の連盟の扉へと、

ぶどうは、滑り込んだのだった。


そして、信じられない声を聞いた。



我が儘でごめんなさい。



う、

う、

嘘だろ?!

君はいつもみんなのために動くんだ。

みんなが悲しくなるくらいに。




俺は、

今、

涙が出るくらいに猛烈に嬉しいんだ!!

小さな小さな、囁くような光。

君の本音を、俺が聞くことができたからだ。



幸せにするよ!



紫陽花、葡萄棚、杏林。

桜、欅、檜皮色の蝉。

白竜、北極星。

連盟の扉。美しい風景だ。


ここはきっと君が望むように、

持つものも、持たざるものも、

等しく人々が集う、温かい場所になるよ。



遠ざかる意識の中で、

肩を持ち上げる汗だくの影と、

温かいふっくらとした手が、

たくさんの人影と拍手が、

俺たち二人をを迎えているのが、判った。

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