紅玉の欠片の話

第1話 初島レンの再訪


広い海。

白い雲。

大小百からなる、火山列島。

その二番目に大きな島、カーアイ島。


町外れにある森には、

南十字星サザンクロスと呼ばれる、

竜鎧屋アーマーや兼、島のゲストルームの受付があった。


季節は、夏だ。

看板娘をやってる、

ポーラは今日はシャツに短パン姿だった。

ハリのあるやわらかで真っ白なシャツ。

よく見ると、細かな装飾が施されている。

短パンもそうだ。

紫色のかわいらしい刺繍が、裾にきっちりと縫い付けられている、

とても上質な服だった。


小さな店の、

玄関扉のステンドグラスは、

白竜に南十字星みなみじゅうじせいの文様。


彼女は、

埃よけの呪いのかかった、

朝日に輝く美しいそれをにっこり眺めた。


今日は、年齢設定のグミを使った。

ポーラは十四才の、

溌剌とした少女の姿だった。



わかるなあ。

俺もここにログインするときは、

身体は、

上限めいっぱいの十四才にするって決めてる!


小2じゃない、

中2だ!

イエイ★


足を振り上げると、パチパチと炎の魔法演出エフェクトがかかった。


くうー。かっこよすぎなんだがっ。


俺はここでは、

初島はつしまレンから、


煉獄れんごくのレンになるのだ!

よろしくなっ!



前回、

ここに来たのは春だった。


仲間たちと力を合わせて、

一生懸命な大人たちを、手助けしたんだ。

すごく喜んでくれた。

俺たちは、誇らしかった。


だから家に帰ってからも、

俺は運動も勉強も、

凄くがんばったんだ!

両親おやはびっくりしてたよ。


クラスIIの、

チワやナギサ、そしてサヤナに合うときは、

少しでもいいとこ見せたくってさ。

たぶん、

彼らはお姉さま。

追いつきたかった。

見た目だけじゃなくて、中身もだ。


はあ。

どきどきする。

胸が楽器のようだ。

真っ赤になったっていいだろ!

んーっ!苦しいっ。




もうすぐエルザに会える、

かもしれない。





俺の贈った帽子。

今も被っているだろうか?

夏にピッタリの麦わら帽子なんだ。


浜辺から、

回廊かいろうの向こうへ帰る俺たちを、

ずうっと見送ってくれた彼女。


俺はさ、

俺はさ、

彼女と付き合いたいんだ!!


身体が燃え上がっちゃう。

あの細くてすべすべした手を繋いで、

一緒に島を歩きたいんだ。


俺のおんぶでもいい。

だって彼女は姫巫女ひめみこさまなんだ。

俺が担ぐ。

彼女は羽根のように軽いんだ。


だから、

神さま。

お願いしまーっす!!


彼女は、

埴輪はにわ正装女子せいそうじょしに生き写し。


俺の永遠のどストライクなんです!!


会わせてくださぁいっ!!



そして、南十字星サザンクロスのポーラに会った。

十四才でもきれいだった。

星空を思わせる美しい瞳ポーラレアスター


「レン!久しぶりっ、いらっしゃい!!

なにー、ぽーっとしちゃってえ。」

ふっくらとした手でぎゅっと握手してくれた。


そして、口に手を当てて、

ぷぷっと笑われた。

「エル姉なら、島に来てるよ!!」


どっきーーーん!!


何でわかったの?!

恥っず!!



南十字星サザンクロスの奥は、

リフォーム中だった。


俺は、かまどのある、

居間に通してもらった。

温かい緑茶と栗まんじゅうをもらった。


南十字星の店主、

紫恩シオンさんはここには居なかった。


彼は、

瑠璃色るりいろの髪を銀髪に変えて、

竜医師へと転職ジョブチェンジした。

竜鎧屋アーマーやから、天才外科医になったのだ。


彼の、超ド級の縫製技術は、

天才的な手技となり、

大いに生かされることとなったのだ。


息を呑むほど美しい竜鎧アーマー

ゲストルームの衣装や宿泊時のパジャマを、一日で作り上げた。

南十字星サザンクロスの入口の扉、ステンドグラスも彼の作品。

どれもまっすぐ胸を打つ、

優しい美しさなんだ。

ずどん。 



シオン先生は、

島の丘の邸宅に住む、

うら若き美人竜医師ミルダに、

ねつなんだ。


ねつっていうのは、

風邪を引いてるってことじゃなくて、


女の子の、

輪郭線がなくなっちゃうくらいに、

ぎゅうむってしたい気持ちが、

全身から、

吹き出して、

燃え上がって、

瞳や頭が、ちりちりに灼かれちゃうことなんだってさ。


それで、

女の子のほうも幸せそうな顔をしてさ、

ぎゅっうっとしてくれるとさ、

白い雲になって、

そらに消えちゃいそうになるんだってさ。


やばいよね。


これは、

アトラス先生の説明だ。


ほんとに、

前回も凄かったんだよ。

シオン先生は、

突然竜に化けて、窓から飛び出していったりするんだから。


普段は、全然そんなことないんだぜ。

シオンさんは、

よそのクラスの先生にそっくり。

芋巾着をくれて、

美しい声で、

がうがう、ぐるぐるしか言わない。

指先まで優しいんだ。


亡くなったココの、

幻も瞬時に見せてくれた。


シオンさんは、

【名の扉】の文様レリーフが見られるんだ。

文様っていうのは、

南十字星サザンクロス入口の扉のステンドグラスみたいなものなんだって。

人間や竜の、

その人らしさが、ぱあっと閃くんだそうだ。


シオン先生は、

直感インスピレーションって読んでる。


だから、

鎧やパーティの装飾が、

瞬時に作れるんだって。


ホント、まじですごいんだぜ!

俺は、

シオン先生に、

サッカー少年だなんて一言も言ってないんだ。

ログイン情報は、

煉獄れんごくのレン。ほんとは小2。赤に金のラメ

それだけ。


それなのに、

サッカーウエアの衣装をあつらえてくれたんだ!!

そして、サッカー女子たちを同部屋にしてくれた。

まじの天才なんだよ。



よお!と、

工房から人影。

俺たちの、アトラス先生だ!!

うれしくて思わずハグしに行った。


紫の髪。

引き締まった身体。

強い体幹。

授業参観日の先生のような、

うさんくさい歯のきらめき。

二十四歳の青年だ。

アトラス先生はさ、

俺を見て嬉しいのが、すぐにわかるんだよな。


ポーラと違って、

アトラス先生って完全に人間なんだな。

鱗が見えない。


ポーラは、

お腹もおしりも、

十四才の女の子らしい、

すらりとして、ふっくらまあるい形だけど、

腕の隙間から、

身体は、

水着のような形の、

白い鱗で覆われているのが見えた。


工房もリフォーム中。

シオン先生は森の皇国神殿の地下で、

ミル姉さんと暮らすんだそうだ。

あそこも素敵なんだ。

スパの階があるんだ。

あれ楽しいんだよ。

また行きたいな。


お風呂でお背中、流しっこ。

ぽかぽか布団で、にらめっこ。


ポーラの歌が思い出された。

みんな、早く来ないかなあ。

そわそわするう。


俺は、天窓からの朝日に照らされる、

工房に新設されつつある、

かまどにそっと手をおいた。まだ冷たかった。


大鏡を振り返った。


煉獄のレン。


でっかいな!

いい気分。

にんまりすると、鏡の俺もにんまりした。

えへへ。

かっこよすぎるんだがっ。


俺は、

にこにこしながら、

前髪を細かく整えてみせた。


アトラスとポーラをちらっと見た。


すると、

ポーラは、

床でくつろぐアトラスの膝にちょこんとまたがって、

二人はにこにこと見つめ合っていた。


おーーーいっ!

俺はお客さんだぞっ!


二人の世界に入るのは、

違うと思うんだがっ!!



今日もカーアイは、快晴だ。


海の向こうに見える、

火山列島一の大きな島、

スバラシイ島のオリオリポンポス山は、

白く細長い煙を、

潮風になびかせていた。


(続)

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