紅玉の欠片の話
第1話 初島レンの再訪
◇
広い海。
白い雲。
大小百からなる、火山列島。
その二番目に大きな島、カーアイ島。
町外れにある森には、
季節は、夏だ。
看板娘をやってる、
ポーラは今日はシャツに短パン姿だった。
ハリのあるやわらかで真っ白なシャツ。
よく見ると、細かな装飾が施されている。
短パンもそうだ。
紫色のかわいらしい刺繍が、裾にきっちりと縫い付けられている、
とても上質な服だった。
小さな店の、
玄関扉のステンドグラスは、
白竜に
彼女は、
埃よけの呪いのかかった、
朝日に輝く美しいそれをにっこり眺めた。
今日は、年齢設定のグミを使った。
ポーラは十四才の、
溌剌とした少女の姿だった。
わかるなあ。
俺もここにログインするときは、
身体は、
上限めいっぱいの十四才にするって決めてる!
小2じゃない、
中2だ!
イエイ★
足を振り上げると、パチパチと炎の
くうー。かっこよすぎなんだがっ。
俺はここでは、
よろしくなっ!
◇
前回、
ここに来たのは春だった。
仲間たちと力を合わせて、
一生懸命な大人たちを、手助けしたんだ。
すごく喜んでくれた。
俺たちは、誇らしかった。
だから家に帰ってからも、
俺は運動も勉強も、
凄くがんばったんだ!
クラスIIの、
チワやナギサ、そしてサヤナに合うときは、
少しでもいいとこ見せたくってさ。
たぶん、
彼らはお姉さま。
追いつきたかった。
見た目だけじゃなくて、中身もだ。
はあ。
どきどきする。
胸が楽器のようだ。
真っ赤になったっていいだろ!
んーっ!苦しいっ。
もうすぐエルザに会える、
かもしれない。
俺の贈った帽子。
今も被っているだろうか?
夏にピッタリの麦わら帽子なんだ。
浜辺から、
ずうっと見送ってくれた彼女。
俺はさ、
俺はさ、
彼女と付き合いたいんだ!!
身体が燃え上がっちゃう。
あの細くてすべすべした手を繋いで、
一緒に島を歩きたいんだ。
俺のおんぶでもいい。
だって彼女は
俺が担ぐ。
彼女は羽根のように軽いんだ。
だから、
神さま。
お願いしまーっす!!
彼女は、
俺の永遠のどストライクなんです!!
会わせてくださぁいっ!!
◇
そして、
十四才でもきれいだった。
「レン!久しぶりっ、いらっしゃい!!
なにー、ぽーっとしちゃってえ。」
ふっくらとした手でぎゅっと握手してくれた。
そして、口に手を当てて、
ぷぷっと笑われた。
「エル姉なら、島に来てるよ!!」
どっきーーーん!!
何でわかったの?!
恥っず!!
◇
リフォーム中だった。
俺は、かまどのある、
居間に通してもらった。
温かい緑茶と栗まんじゅうをもらった。
南十字星の店主、
彼は、
竜医師へと
彼の、超ド級の縫製技術は、
天才的な手技となり、
大いに生かされることとなったのだ。
息を呑むほど美しい
ゲストルームの衣装や宿泊時のパジャマを、一日で作り上げた。
どれもまっすぐ胸を打つ、
優しい美しさなんだ。
ずどん。
◇
シオン先生は、
島の丘の邸宅に住む、
うら若き美人竜医師ミルダに、
お
お
風邪を引いてるってことじゃなくて、
女の子の、
輪郭線がなくなっちゃうくらいに、
ぎゅうむってしたい気持ちが、
全身から、
吹き出して、
燃え上がって、
瞳や頭が、ちりちりに灼かれちゃうことなんだってさ。
それで、
女の子のほうも幸せそうな顔をしてさ、
ぎゅっうっとしてくれるとさ、
白い雲になって、
やばいよね。
これは、
アトラス先生の説明だ。
ほんとに、
前回も凄かったんだよ。
シオン先生は、
突然竜に化けて、窓から飛び出していったりするんだから。
普段は、全然そんなことないんだぜ。
シオンさんは、
よそのクラスの先生にそっくり。
芋巾着をくれて、
美しい声で、
がうがう、ぐるぐるしか言わない。
指先まで優しいんだ。
亡くなった
幻も瞬時に見せてくれた。
シオンさんは、
【名の扉】の
文様っていうのは、
人間や竜の、
その人らしさが、ぱあっと閃くんだそうだ。
シオン先生は、
だから、
鎧やパーティの装飾が、
瞬時に作れるんだって。
ホント、まじですごいんだぜ!
俺は、
シオン先生に、
サッカー少年だなんて一言も言ってないんだ。
ログイン情報は、
それだけ。
それなのに、
サッカーウエアの衣装を
そして、サッカー女子たちを同部屋にしてくれた。
まじの天才なんだよ。
◇
よお!と、
工房から人影。
俺たちの、アトラス先生だ!!
うれしくて思わずハグしに行った。
紫の髪。
引き締まった身体。
強い体幹。
授業参観日の先生のような、
うさんくさい歯のきらめき。
二十四歳の青年だ。
アトラス先生はさ、
俺を見て嬉しいのが、すぐにわかるんだよな。
ポーラと違って、
アトラス先生って完全に人間なんだな。
鱗が見えない。
ポーラは、
お腹もおしりも、
十四才の女の子らしい、
すらりとして、ふっくらまあるい形だけど、
腕の隙間から、
身体は、
水着のような形の、
白い鱗で覆われているのが見えた。
工房もリフォーム中。
シオン先生は森の皇国神殿の地下で、
ミル姉さんと暮らすんだそうだ。
あそこも素敵なんだ。
スパの階があるんだ。
あれ楽しいんだよ。
また行きたいな。
お風呂でお背中、流しっこ。
ぽかぽか布団で、にらめっこ。
ポーラの歌が思い出された。
みんな、早く来ないかなあ。
そわそわするう。
俺は、天窓からの朝日に照らされる、
工房に新設されつつある、
かまどにそっと手をおいた。まだ冷たかった。
大鏡を振り返った。
煉獄のレン。
でっかいな!
いい気分。
にんまりすると、鏡の俺もにんまりした。
えへへ。
かっこよすぎるんだがっ。
俺は、
にこにこしながら、
前髪を細かく整えてみせた。
アトラスとポーラをちらっと見た。
すると、
ポーラは、
床でくつろぐアトラスの膝にちょこんとまたがって、
二人はにこにこと見つめ合っていた。
おーーーいっ!
俺はお客さんだぞっ!
二人の世界に入るのは、
違うと思うんだがっ!!
◇
今日もカーアイは、快晴だ。
海の向こうに見える、
火山列島一の大きな島、
スバラシイ島のオリオリポンポス山は、
白く細長い煙を、
潮風に
(続)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます