14.風が運ぶ願い
フレイムリスの暴走を解決した翌日、神殿に訪れた静寂はどこか不穏だった。リーネは深い考えに沈み、精霊たちも神殿を出て、それぞれの領域で力を整えているようだった。
そんな中、風の精霊エアレットが突如としてセイルのもとに駆け込んできた。
「セイル!また問題よ!」
「またか……」
セイルは額を押さえたが、エアレットの真剣な表情を見て態度を正した。
「それで、何が起きたんだ?」
「風が……おかしいの。空を漂う感情や意志が荒れている気がする。まるで誰かの願いが絡まり合って、行き場を失っているみたい。」
「願いが絡まり合う?」
セイルは首を傾げた。
「それって、精霊の力の乱れとかとは違うのか?」
「ううん。これは私自身にも理解できないの。でも、私の風が力を失い始めてる気がするの。」
エアレットの言葉に不安を感じたセイルは、リーネに相談することにした。
「風が弱まるなんて、どういうことだと思う?」
セイルが尋ねると、リーネは鋭い視線をエアレットに向けた。
「エアレット、風はこの世界の情報や感情を運ぶ存在よね。となると、何か大きな変化が起きたか、もしくは外部からの影響がある可能性も考えられるわ。」
「外部からの影響って……」
セイルは言葉を飲み込んだ。
「もしかしたら、別の世界で何か異常が起きているのかもしれない。」
「別の世界?」
セイルの問いに、リーネの考えながらも重い口を開いた。
「風はこの世界だけでなく、別の神々の世界の願いや祈りをも運んでいるの。セイル、今回はあなたが直接風の中に入り、原因を探るべきだと思うわ。」
「俺が直接?そんなことできるのか?」
セイルは目を見開いた。
「できるわ。風は神の力が直接影響を及ぼせる領域でもあるの。精霊の力だけでは解決できない場合、神であるあなたの介入が必要になるわ。」
エアレットの導きで、セイルは風の中に自らの意識を注ぎ込んだ。風の中は無限の情報が交錯する場所だった。かすかな声や断片的な映像、そして感情の波が次々と彼の意識をかすめる。
「これは……」
セイルは息を呑んだ。そこにあったのは、無数の人々の願いだった。
「幸せになりたい」、「誰かに愛されたい」、「失ったものを取り戻したい」
それらの願いは、どれも純粋で力強いものだったが、同時に互いに絡み合い、風の流れを乱していた。そして、その中心にある願いが一際強い輝きを放っていた。
「何か特別なものが……ここにある。」
セイルはその光に手を伸ばした。すると、一人の少女の姿が浮かび上がった。
彼女は涙を浮かべながら祈っている。
「どうか……家族を助けてください。」
セイルはその願いの純粋さに心を打たれた。だが、同時にそれが風を乱す原因であることも感じ取る。
「エアレット、これは……」
「その願いは強すぎるわ。そのせいで他の願いまで引き寄せて、風の流れを乱してしまっている。」
エアレットがセイルのそばに現れた。
「私たち精霊はこうした強い感情に影響を受けるわ。だからこそ、この願いを解決して調和を取り戻さないといけない。」
セイルは少女の願いを静かに包み込み、その祈りに応える形で風を調整し始めた。エアレットがその力を補助し、乱れた感情の流れを一つずつほぐしていく。
「大丈夫だ。俺たちがこの世界も、この少女の願いも救って見せる!」
セイルは力強く言った。
やがて、風は再び穏やかになり、エアレットの表情にも安堵の色が浮かんだ。
「セイル、ありがとう。あなたがいてくれて本当に良かった。」
「いや、俺一人じゃ無理だった。エアレット、君の風の力があったからこそだよ。」
こうして、風は再び調和を取り戻した。
少女の願いも叶えられ、彼女の家族に笑顔が戻る光景がセイルの心に刻まれた。
リーネがそっと近づき、静かに微笑んだ。
「よくやったわ。また一つ、神としての役割を果たしたわね。」
セイルは彼女に向かって笑みを返す。
「まあ、少しずつ慣れてきたかもな。」
神殿に戻ると、精霊たちがそれぞれの力を調和させ、新たな世界の息吹を吹き込んでいた。その中で、セイルは新たな決意を抱く。
「別の神々の世界か……またこんな試練も起きるかもしれない。その時の為に俺達ももっと経験を積んでいかないとな」
セイルの言葉に、精霊たちが力強く頷いた。
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