13.荒れる炎
ある朝、セイルは神殿の中庭でリーネと話をしていると、エアレットが強い風と共に駆け込んできた。彼女の表情には焦りが浮かんでいる。
「セイル、大変よ!フレイムリスが暴れてる!」
「フレイムリスが?」
セイルは目を丸くした。
「彼、自分の力を使いすぎたせいで、炎が制御できなくなっているみたい。近くの森が燃え始めてるわ!」
エアレットが早口で説明する。
リーネが眉をひそめた。
「精霊同士の力のバランスが崩れたのかもしれないわね。火の精霊であるフレイムリスは本来、情熱と力強さを象徴する存在。それが抑えきれないということは、彼の中で何かが狂っているのかも。」
「それってどうすればいいんだ?」
セイルは額に汗を浮かべる。
「直接フレイムリスと話をするしかないわね。ただ、気をつけて。彼の力が制御を失っている今、下手に近づけば危険かもしれないわ。」
セイルは火の精霊フレイムリスの元へ向かうことを決意する。リーネや他の精霊たちは遠くから見守ることにした。
燃え盛る森の中心には、巨大な炎の柱が立ち上っていた。その中に、フレイムリスの姿がうっすらと見える。彼の通常の落ち着いた様子とは異なり、体全体が不安定に揺らめいている。
「フレイムリス!」
セイルが声を張り上げる。
フレイムリスがゆっくりと顔を上げた。だが、その目には怒りと混乱が宿っている。
「セイルか……俺を止めにきたのか?」
「違う!何があったのか教えてほしいんだ!」
セイルは炎の熱を感じながら前に進む。
「……俺の力は強すぎる。この世界のバランスを保つために押さえてきた。だが、押さえつけるほど俺の内なる炎は暴れたがるんだ。」
フレイムリスの言葉に、セイルはハッとする。精霊たちはそれぞれが調和の一部を担っているが、その調和が時に彼ら自身を縛りつけていることを、セイルは考えていなかった。
「なら、力を制御する方法を一緒に探そう!」
セイルは必死に訴えたが、フレイムリスは首を振る。
「それができるのなら、とっくにやっている。俺の力は炎そのものだ。炎はすべてを焼き尽くす性質を持つ。これ以上は抑えられない!」
その時、水の精霊アリエルが現れた。彼女は穏やかな声で語りかける。
「炎は破壊だけではないわ、フレイムリス。命を温め、未来を灯す役割もある。あなた自身、その力を知っているはず。」
「温めるだと?俺が燃え上がれば、すべてが灰になるだけだ。」
「それを制御するために私がいるのよ。」
アリエルは一歩前に出た。
「炎が荒れるとき、水はその力を和らげることができる。もう一度私と共に調和の道を探してみましょう?」
セイルはアリエルに目を向ける。
「確かに、精霊同士が協力すれば力のバランスを調整できるかもしれない。」
フレイムリスはしばらく沈黙したが、やがて炎の強さが少し和らいだ。
「……試してみる価値はあるかもしれんな。」
アリエルは自分の力を少しずつフレイムリスに送り込み、彼の暴れる炎を穏やかな熱へと変えていく。フレイムリスは自分の力が破壊ではなく、守護のために使われるように変わっていくのを感じた。
「……俺がこんな風になれるとはな。アリエル、感謝する。お前たちが言うように、俺にもまだ未来を支える役割は担えるのかもしれない。」
「えぇ。私達は仲間なんだから、これからはもっと早く相談してね?」
フレイムリスの言葉にアリエルは微笑みながらそう告げた。
「フレイムリス、お前が苦しい思いをしていたこと、気づいてやれなくてごめん。」
「セイル、お前が謝ることではない。これは俺が一人で何とかしようとしてしまった結果だ。アリエルの言う通り、もっと早く相談するべきだった。」
セイルの謝罪に対して、フレイムリスはそう返した。
森の火は完全に鎮火し、木々は再び生き返る兆しを見せた。
精霊たちが揃い、フレイムリスの無事を喜びあっていた。
リーネが遠くから歩み寄り、静かに言った。
「今回の出来事で、あなたも学んだでしょう。精霊たちも完璧な存在ではないわ。必要な時にはあなたが手を差し伸べてあげなさい。」
「あぁ、今まで皆が上手くやってくれていたから、頼り過ぎていた部分もあるんだろうな。これからはもっと精霊たちとコミュニケーションを取るようにするよ。」
セイルは未だ賑やかな精霊たちを見て、さっそく彼らの会話に混ざりに行くのだった。
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