15.闇を照らす星

夜が訪れ、神殿は闇に包まれた。だが、その静寂を破るように、夜の精霊ノクスがセイルのもとへやって来た。


「セイル、少し話がある。」


ノクスは低い声で切り出したが、その目はどこか深い憂いを湛えていた。


「また何か問題か?」


セイルが尋ねると、ノクスは頷きながら夜空を指さした。


「最近、夜の闇が妙に不安定だ。いつもなら静けさをもたらすべき時間が、なぜかこの世界に生きる者達の恐れを増幅しているように感じる。」


「恐れ……?」


「闇は安らぎを与えると同時に、未知への恐怖を引き出す力も持つ。それが今、バランスを失っているのだ。」


セイルはその言葉に考え込んだ。夜が不安定になるということは、世界全体に悪影響を及ぼす可能性がある。


「原因は分かるのか?」


「おそらく、星の光が弱まっていることが関係している。」


ノクスの声には迷いが混じっていた。


「星の輝きは、闇の中で彼らに希望を与える役割を果たしている。それが今、足りなくなっている気がする。」


セイルは星の精霊ルミナスを呼び出し、彼女の意見を聞くことにした。ルミナスは柔らかな光を纏いながら神殿に現れると、セイルの話を静かに聞いた。


「星の光が弱まっている……確かに感じていたわ。」


ルミナスは視線を落とした。


「でも、それは私の力が足りないからじゃない。星そのものが彼らの心から離れ始めているのかもしれない。」


「どういうことだ?」


セイルは眉をひそめた。


「星は希望や夢の象徴。でも、もし彼らが未来への希望を失い、夢を見ることを諦めたら、星の輝きは薄れてしまうの。」


その言葉に、セイルの胸がざわついた。


「そんな……俺がせっかく星を創ったのに、それじゃ意味がないじゃないか!」


「そう悲観しないで。」


ルミナスが微笑む。


「希望は失われるものではないわ。ただ、今の世界にはその輝きを再び灯すきっかけが必要なの。」


セイルはノクスとルミナスを伴い、夜空に意識を飛ばした。広がる無数の星々は輝きを保っているものの、どこか儚げで、確かに不安定な様子だった。


「闇も星も、この世界の一部であり、共存すべきものだ。」


セイルは静かに呟いた。


「だけど、それがうまく噛み合っていない……。」


ルミナスはそっと星の光を集め、夜空に新たな輝きを描き始めた。それは、星座のようにいくつもの点が結びつき、彼らの目に映る物語を紡ぎ出すような光景だった。


「夜空を見上げる者達に、新たな夢と希望を見せてあげましょう。」


ノクスもまた、闇の静けさを増幅させるように力を注ぎ始めた。彼は闇が単なる恐れの象徴ではなく、安らぎや内省の時間をもたらす存在であることを示したかった。


「夜の時間が、ただの休息ではなく、希望を見つめる時間になるように。」


セイルは二人の力を見守りながら、自分もまた夜空に力を注いだ。彼は星々と闇が調和し、互いを引き立て合う夜を描いた。


「これが……俺たちの夜だ。」


星座が完成し、夜空には新たな輝きが満ちた。彼らはその光景に目を奪われ、夜空を見上げることで自らの希望や夢を再確認する時間を持てるようになった。


ノクスは満足そうに微笑んだ。


「これで闇も静けさを取り戻し、この世界に生きる者達に安心を齎すもたらすだろう。」


ルミナスも穏やかな表情で頷いた。


「星の輝きは、彼らの心に再び灯ったわ。これでまた、夜が生き生きとした意味を持つ時間になる。」


セイルは二人の言葉に安堵しながら空を見上げた。


「こうやって一つずつ問題を解決していくしかないんだな。でも、今日は上出来だったと思う。」


リーネが背後から静かに近づき、セイルの肩に手を置いた。


「その通りよ。神の役目は大変だけれど、あなたは着実に成長しているわ。」


セイルは小さく笑い、星々の輝きに目を向けた。


「次はどんな問題が待ってるんだろうな。でも、どんな問題でも精霊たちと一緒なら乗り越えられそうだ。」


そう呟いた彼の心には、かつてないほどの自信が宿っていた。

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