1408 倉津君なりの考え

 親父さんの楽器のブランド名を『無名』にして、バンドの無名とのコラボを企む倉津君……だったが。

途中、山中君との話で沙那ちゃんの年齢の話に成ってしまい。

慌ててフォローしてたら、ブランドの話は先送りと言う事に成てしまった(笑)


***


 ……っでまぁ、この時点でライブの開演20分前位に成っていたので。

橘親子と一緒に観客席の方に早急に移動しようと思ったんだけどな。


此処で無名のメンバー全員が気を使ってくれたのか。

ステージの脇に、橘親子が観戦出来る様に上手くスペースを作ってくれたんだよな。


まぁ言うなればだな。

ステージの脇の方が、親父さんの作ったギターや、ベースの音も生で聞こえて来る範囲なんで、そう言う意味でも色々楽しんで貰えると思うしな。


それに、親父さんが買ったライブチケットは、かなり後ろの方の席だったし。

そこに行っちまったら沙那ちゃんとは離れ離れに成ってしまうから、これは俺にとっても中々にしてにくい演出をしてくれたもんだと感心。


なんとも粋な計らいって感じだな。


***


 まぁまぁ、そんな訳でござんして。

あっしと、橘親子は、スタッフの邪魔に成らない様な場所を上手く陣取って、そこからのライブ観戦に相成った。


そんで、開演までまだ時間があったので、沙那ちゃんはトイレに行ったので、その間に親父さんは、俺に話し掛けてきた。


なんだろうな?



「倉津さん」

「あぁはい?なんッスか?」

「なんか、初めてお逢いしたと言うのに、今回は色々とお世話に成りました。ありがとうございます」

「へっ?あぁ、いやいや、そう言うの無しで良いッスよ。気にしなくて良いッスよ」

「ですが、初対面なのに……」


いや……まぁそうなんッスけど。

基本的にこう言う場合って、初対面とかあまり関係なくね?


だって、逆に言っちまえば。

初対面だからこそ、良い印象を持って貰う為に親切にしてる部分も有る訳だしな。


まぁ実際は、それ以前の問題なんッスけどね。



「いやいや、初対面も糞も、出逢いなんてもんは一期一会なんッスから、俺は、この場で出来る事をしただけの話ッスよ。なので、こんなもん気にするまでもないッスよ」

「……ですが」

「それにッスね。嶋田さんや、康弘が楽器を購入したのは、親父さんのビルダーとしての腕が良いからッスよ。ただ闇雲に俺が勧めたからって購入に至った訳じゃないッスから」

「あぁ……」

「そんで俺も親父さんの楽器が良い物だと思えたからこそ、こうやって知り合いに薦めただけの話ッスからね。だから、なんも気にする必要性はないんッスよ」

「そうですか……ですが倉津さん」

「うっ、うん?」

「倉津さんは、人と人との関係で、余りリスクとかを考えない人なんですか?」


リスクなぁ……



「リスクっすか?はぁ、まぁ、そうッスかねぇ。どちらかと言えば、そう言うのは、左程、考えない性質ッスかね。大体して、そんなもん考えた所で、なんに成るんって言うんッスか?それに俺の行動ってのは、さっきも言いましたが、親父さんの腕を見込んでの行動ですんで、基本的にリスクなんて全く考える必要がないと思うんッスけど」

「そっ……そうですか」


いや、本当にな。

これって、冷静に成って考えれば。

親父さんは仰々しく言ってるけど、極々当たり前の行動をしただけの話なんだよな。


……って言うか。

親父さんの楽器作りの腕や、人柄を知っていたら、リスクを考える必要のない案件なんだよな。


大体にして親父さんが、嶋田さん達と面識を持って、なんのリスクがあるって言うんだよ?


ちゃうか?


それにな。

これも前々から思ってる事なんだがな。

なんでそんな程度の事を、イチイチ不思議がる必要があるんだろうな?


俺のやってる事って、そんなに変か?

相手の事が気に入ったんなら、そんなに深くリスクなんてもんを考える必要なんてなくね?


まぁ……世間一般で言えば、それを『ただの馬鹿』って言うんだろうけど。

それはそれで上手く行ってるなら万事OKなんじゃね?



「それにッスね。親父さんの作った楽器で、知り合いのバンドが更に良くなるなら、尚更、リスクなんて考える必要性なんてなくないッスか?現に親父さんの作った楽器は、あの2人を満足させる程の良い音を出してくれてるんッスから。……それとッスね。俺も、こうやって、色々みんなに世話に成ってるんで、なにか少しづつでも恩返ししないとマズイ立場ッスからね」

「はぁ……」


納得出来てねぇな、こりゃあ。


なら、正直に。



「まぁ……正直言えば、あれッスけどね。親父さんに少しでも信用して欲しいなって気持ちがない訳ではないですしね」


こう言う打算的な物も、少しは俺の中にも有ったりするんだよなぁ。


なにか自分の出来る事を1つ1つ重ねて、少しづつでも親父さんの信用を勝ち取れば。

『沙那ちゃんを学校に行かせる件も考慮してくれるかも』……とか言う、非常に甘い考えが無い訳でもないからな。


なので、全てが全てノンメリットって訳でもないんッスけどな。



「あの……それは、敢えて、口に出して言われなくても良いんじゃないですか?」

「そうッスね。普通ならそうなんしょうね。けど俺は、相手のどう想われ様とも、自分の本心だけは出来る限りキッチリ相手に伝えて置きたいんッスよ」

「どうしてですか?」

「そりゃあ親父さん。嘘や、偽りなんてモノは少ないに越した事は無いからッスよ。キッチリ伝えて置けば、相手が勝手に変な方向に捉える様な事もないし、それに伴って余計な詮索をされる事もありませんからね」

「あぁ……」

「俺、実家が実家なだけに、そういう事されるのが一番苦手なんで」

「そうですか。では、今しがたの話も、先程言われていた『沙那の件』を言われてるんですか?」


鋭いッスな。


その通りッス。


いや、寧ろ、それ以外なにが有るって言うんッスかね?



「そうッスよ。出逢って間もない俺が、こんな事を言うのも変な話なんですが。沙那ちゃんは、本当に純真無垢な子だと思うんッスよ。そんな子が、楽器造りだけに一生を賭けるなんて、ヤッパリ俺には、どうしても納得出来ないんッスよ」


良い事も、悪い事も、色々学んで欲しい。

そしてその中で、何が良くて、何が悪い事かを学び。

沢山の選択肢を、沙那ちゃんには持って欲しいんだよなぁ。


そんで、その選択肢の中から、本人が楽器作りが一番楽しいと感じたのであれば、それを追求していけばいいんじゃないかな。


だからこそ、学校に行ける様に成って欲しい訳だし。



「矢張り、その一点だけには拘られてるんですね」

「そうッスね。さっきも言いましたけど、才能は、人間性があってこそ初めて真価が発揮させるもの。独り善がりな才能じゃ、いずれ、人が付いて来なく成りますからね」


もぉな。

この時点では、崇秀や、奈緒さんや、眞子の事を言ってる訳じゃねぇんだ。


終わった事を、今更グダグダ言うつもりもないし。

自分で付けたケリな以上、アイツ等の人生や、生き方を、もぉ否定する気にもなれないしな。


ただ俺は、アイツ等の生き方を否定はしないが、決して正しいとは思わないし、俺も自分が間違っていたとも思わない。


だから俺は、アイツ等云々ではなく。

自分の思い描いた自身の道を突き通す為にも、今こうやって自分が正しいと思う事をしている。


特に、こうした才能の有る子には、天才特有の『変わった性格』を持ち合わせている所があるから、アイツ等みたいに成らないとも限らない。


でも、俺としては、決して、あぁは成って欲しくないから、必死に成ってるだけなんだよな。


勿論、才能が無くても、これは同じだ。


兎に角『人を騙しても笑ってられる様な人間は、少しでも作りたくない』

だから俺は、これからも此処に拘って生きて行くつもりだ。


折角、今回の、この【悪い機会】で、アイツ等に学習させて貰ったのだから。

此処で自分が生きて行く道を示す為にも、アイツ等に、本当の意味での『反旗』を翻そうと思ってる節もあるしな。



まずはこれで、その第一歩を記そうと思ってる訳だな。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>


親父さんと沙那ちゃん。

まずは最高の場所でライブを観戦出来る事に成って良かったですね♪


そして、そんな中、沙那ちゃんがトイレに行き。

親父さんの会話が始まったみたいなのですが。

倉津君、いつも通り正直に話していますし、彼は彼也に必死に考えて行動してるみたいなので、これが良い方向に向けば重畳なのですが……どうなる事やら(笑)


さてさて、そんな中。

この調子だと、次回も親父さんとの会話が続きそうな雰囲気なのですが。


この後、またちょっとしたイベントが起こりますので、良かったら、それを楽しんで下さいです♪

(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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