1406 それは妙案だな

 遠藤さんによって、明るみに成った親父さんの正体。

しかも、その正体は『世には隠れていた伝説的なビルダー!!』

それ故に、嶋田さんも遠藤さんも喜んで親父さんの楽器を手にして、試し弾きを始めるのだが……


***


 ……楽屋の中で聞くだけにするには勿体無いぐらいの凄く良い音が、此処には流れている。


ハードな曲(メタル・パンク・ロック系など)。

ソフトな曲(POP・バラード・ジャズ系など)。

この2つの解り易いパターンを数曲、軽く試し弾きしただけでも解る程、楽器から奏でられる音は、明らかに人を魅了させる様な音ばかりだ。


完全に楽器と人間が融合していると言っても過言じゃないぐらいだ。


しかしまぁ、なんだな。

弾き手が変わるだけで、これ程までにギターや、ベースの性能を引き出せるもんなんだな。


俺なんかじゃ、到底こんな良い音は出せないので。

此処まで来ると、感心するのを通り越して、素直に感動するしかねぇな、こりゃあ。


それに嶋田さんも康弘も、甚く親父さんと沙那ちゃんが作った楽器が気に入ったのかして。

無我夢中になって、新しいオモチャを与えられた子供の様に楽しそうに両楽器を演奏してるしな。


この2人が、此処まで認めてるとは……こりゃあ、本格的にスゲェわ。


***


 そうやって、嶋田さんと、康弘が演奏を続けて。

親父さんが、評価を聞きたくてソワソワしてる状態の中。


『ガチャ』っと扉が開く。



「なんやこれ?なんぞ、いつもとは違う、聞き慣れん豪い良ぇ音が鳴っとるな」

「おにぃちゃん、ただいま。山中のお兄ちゃんにジュース買って貰ったよぉ」


沙那ちゃんが帰って来たな。


しかも即座に、見知らぬ謎の関西人から離れ。

自然と上目遣いに成る位置である、俺の腰ら辺にギュっと抱き付いて来てくれた。


うんうん、可愛いのぉ。

いやもぉこれは、愛らしいの一言に尽きるな。



「そっか、良かったな。……にしても。豪く遅かったけど、何所に行ってたんだ?」

「うんとねぇ。山中のお兄ちゃんと、ちょっと体育館の中を探検してた」

「そっか、楽しかったか?」

「うん、凄く楽しかった♪」


そりゃあ良かったな。


けど、歩き回って、ちょっと疲れてるかも知れないから、オィちゃんの膝においで。

……っと俺は、徐に思ったので。

近くにあった椅子に座り。

沙那ちゃんに向って、自分の腿を『ポンポン』っと叩く。


すると、俺の要望通り、沙那ちゃんは、俺の膝の上に座ってくれる。

しかも、膝の上で、足をパタパタさせて可愛いのぉ。


何故かは知らないが、これだけで事で、凄く満足感で満たされて行く。


なんて言う風に、人が幸せに浸ってると言うのに……



「オイ、オッサン。幸せに浸ってるところ悪いけどなぁ。……オマエ、人の話聞いとるか?」


山中のアホが、なんか訳の解らん戯言を言ってきやがった


ってか、なんか言ってたか?

オマエが、なにかを言ってた記憶なんぞ、俺には全くねぇんだけどなぁ。


ひょっとして、独り言でも呟いてたんじゃねぇの?



「はぁ?なんか言ったか?」

「オマエ、グーで顔面殴ったろか?」

「殴っちゃダメ」


クックックックッ……こりゃあ、実に愉快な展開になったもんだ。

どうやら沙那ちゃんは、無条件で俺の、み・か・たをしてくれるらしい。


そしてオマエは、地上最低の糞ッタレな上に、ただのア・ク・ヤ・クに成ってっ仕舞った様だな。


ザマァミロってんだ。

普段から、いつも俺が味わってる屈辱的な気持ちを、オマエも味わえ!!



「うわっ!!なんやねんそれ?メッチャ懐かれとるやんけな」

「でもでも、倉津おにぃちゃんも、山中お兄ちゃんの話を、ちゃんと聞いてあげないとダメだよ」

「そうだな。そう言えば、さっきなんかブツブツ言ってたな。なんて言ってたんだっけ?」

「沙那、ちゃんと憶えてるよ」

「そうなんか?」

「うん。『良い音してる』って。お父さんの楽器を褒めてくれてた」

「おぉそうか、そうか。それは重畳なこったな」

「重畳って、なに?」

「良かったな、ってこった。解ったか?」

「うん。解った」

「あれ?なんか話が解決したみたいやけど。俺、立場的に、これで良ぇんか?」


そんなおかしな事を考える前に、察しろよ、このボンクラ。

今の俺と沙那ちゃんの会話の中に、内容が全て含まれてるじゃねぇかよ。


オマエは何を聞いてたんだよ?


聞き逃してんじゃねぇよ。


馬鹿じゃねぇのか?


いや……間違いなく馬鹿だったな。



「まぁ、冗談は、さて置きや。マコ、ホンマ、良ぇ音鳴っとんな」

「当然だろ。俺が、今世紀一番の、お薦めブランドだからな。ハズレなんてものは存在しねぇよ」

「ほぉ。……して、この子のオッちゃんのブランド名は、なんて言うねん?」

「名前なんて無粋なモノもねぇよ。ただ単に、この子の親父さんが丹精込めて作ったギターと、ベース。ただそれだけだ」

「ほぉ、ほな、ウチのバンドの名前と一緒で【無名】やな」


おぉ……なんか、それ良いな。

山中のアホにしては、非常良い提案だな。

ヘッド部分に日本語で【無名】って入ってると格好良いよな。


ある意味、海外受けも良さそうなネーミングだし。


それに嶋田さんと康弘が、親父さんの楽器をライブで使ってくれりゃあ【W無名コラボ】が、ある意味、実現する事にもなるんだもんな。


こりゃあグッド・アイディアだ。


親父さんに、後で相談しよ。

(↑ブランド名が無粋と言った割に、直ぐに考えが変わる俺)


……なんて思っていたら。

嶋田さんと、康弘は、絶賛しながら親父さんの元に行き、なにやら話を始めた。


恐らく、此処からは値段交渉が始まるのだろう。


故にだ。

そんな風に上手く盛り上がってる所に、第三者である俺が下手に介入して水を差すのもなんなんで、アチラの事はこのまま放置しておこう。


まぁ……親父さんが、また余計な事をゴチャゴチャ言わなきゃ、これで定価購入が確定ポイッしな。


あぁ因みにだが、椿さんはズッと嶋田さんの横にいて曲を聞いていたし、今現在も、嶋田さんの横に居る。


静かだったのは、聞き惚れてたんだろうな。


……っとまぁ、そんな状況の中。

コチラはコチラで、さっきのブランド名の話を再開するか。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>


取り敢えず親父さんの方は、放って置いても大丈夫そうな雰囲気ですね♪


そしてそんな中、山中君と沙那ちゃんが帰って来たのですが。

なにやら今度は、親父さんのブランド名がない事に話が向いて行ってる様子。


果たして、此処で倉津君の思惑が上手く嵌り「W無名」のコラボが実施される事に成るのか?


次回は、その辺を書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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