1405 橘龍二と言う人物の正体

 嶋田さんや遠藤さんに、親父さんを紹介してみたのだが。

何故か2人共、親父さんを知ってるかの様な素振りを見せ続けた上に、トドメに沙那ちゃんの本当の父親らしき人物の名前まで……


***


「いや、俺も、そこまでは詳しくは知らねぇんだけど。そうなんッスか、親父さん?」

「そうですね。寅蔵は、私と同じ師匠の元で修行した、私の兄弟子ですね」

「矢張り、そうか。倉津君、これはまたトンデモナイ人を連れて来てくれたもんだね」


へっ?なんでだ?

その言い分じゃあ、此処に腕の良いビルダーを連れて来ちゃマズかったのか?


( ゚д゚)ハッ!


……って言うか。

まさかオマエの組って、そう言う楽器関係の分野にも手を出してやがるから、親父さんの存在がヤバいって事か?


もしそうなら、幅が広いな、オイ。



「ちょっと待ってくれよ。トンデモナイ人以前に、その宗田寅蔵とか言うオッサンって……誰なんだよ?」

「知らないかなぁ」

「知らん」

「橘龍二氏&宗田寅蔵氏と言えば、6年程前、TSM(橘・宗田ミュージック)って、一部の弦楽器仲間じゃ伝説に成ってるメーカーを立ち上げた人物だよ」


はい?なにそれ?

なんの話をしとるんだオマエさんは?


俺、ベースは弾けども。

そう言った関連の話には全く詳しくない上に、弾き始めたの一昨年の4月だから全然知らねぇんだけど。


マジで、それって、なんの話だよ?



「えっ?じゃあ、この親父さんが、その伝説の人物の一人だって言うのか?」

「間違いないね。派手好きな宗田氏とは違い。橘氏は、余り表立って前に出る方じゃないって話だったから、世間に認知される事が殆ど無かったんだけど。以前、一度だけ雑誌に掲載された写真で、橘氏をお見掛けした事が有るから間違いないと思うよ」

「そぉ……なんか?」

「そうだね。まぁ、そうは言っても。残念な事に、ブランド自体は宗田氏の死によって二年程で幕を閉じたけどね。……けど、その技術力の高さは、今現在でも他を圧倒していて、一部の弦楽器仲間じゃ高評価のままだし。現存数が少ないから、かなりの高値で取引されてるね」


おぉ……流石は広域ヤクザの組長の息子だな。

俺同様に、金の臭いがする事に対しては人一倍以上に敏感に鼻が利くんだな。


まぁけど、それ位貪欲に情報を集めてないと、昨今の様に冷え切ったヤクザ業界の荒波を乗り切るのは難しいからな。


なので此処は納得。


……っとまぁ、そんな事は今、どうでも良いか。



「へぇ~~~っ、そうなんだ」

「そうか。道理で俺も、橘さんとは何処かで逢った様な気がすると思ったら、そう言う事だったのか」


……っで。

弦楽器を扱う熟練者だからこそ、嶋田さんも、康弘も、親父さんの事が記憶の片隅に残っていたんだな。


それに、情報通とは言え、山中が全く知らなかったのは、アイツの担当がドラムだったからか。

打楽器使い故に、アイツは、そこまで親父さんに興味を持つ事が出来ずに、この情報を軽く流しちまってた訳だな。


ならば、此処もまたまた納得。



「いやいやいやいや、あれは、寅蔵が有名なだけであって。私の噂に関しましては尾鰭が付いた物に過ぎませんよ。私の楽器造りの腕なんて二流以下。そんな大層なものじゃありませんから」

「なにを仰いますやら。宗田氏の完璧な理論と、橘氏によるボディ製作があればこそ完成に至る極上の一品。決して、どちらかが秀でていた訳では無い筈ですよ」

「そんな、そんな」

「いやいや。俺も過去に1度だけ、TSMのギターを弾かせて貰う機会が在ったんですけど、あれだけもう別物でしたね。材料・パーツ・弦。全てに置いて拘り抜いてる上に、計算し尽くされた製造過程。見事な一品でしたよ」


オイオイオイオイ、嶋田さんも、康弘も絶賛だな。

何気に知り合った親父さんが、此処まで凄い人物だったとは、俺の想像の遥か斜め上を行ってるな。


寧ろ、此処まで来たら、親父さんは雲の上の存在っぽいな。


けど、そこまで絶賛するなら、是非とも楽器を買ってくれな。

結局の所、俺の目的は、そこに集約されてる訳だし。



「あぁ、いえ。私は、本当に寅蔵の指示に従って、楽器を作っていただけに過ぎませんから。もし、お褒め頂くなら、寅蔵を褒めてやって下さい。アイツは掛け値無しに凄い男でしたから」


いや……確かに、その宗田って人も、大概、凄そうな親父さんではあるんだけどな。

その残された遺伝子が、これまた、とんでもない化物だったりするんだよなぁ。


そんで、その子が監修の下、作られたギターと、ベースが、此処に存在するんだが……


……ってか、俺ってば、またやっちまった系か?



「なぁ、康弘」

「なんだい?」

「そこまで絶賛するなら、口だけじゃなくて、まずは試し弾きしてみてくれよ」

「あっ、あるのかい!!現存するTSMのベースが、今、手元に在るって言うのかい?」


いや……それは『ない』

寧ろ、そんなものは、此処には微塵も存在せん。


でも、それ上回るかも知れない一品なら、此処に2本とも用意させて貰ってるから、取り敢えずは弾いてみろ。


……そして、直ぐに買え。

何も言わずに、即金で、即買え。



「いや、そのTSMとか言うブランドのものじゃねぇけど。最近、親父さんが作ったギターと、ベースなら在るぞ」

「本当かい?」

「あぁ、在るぞ。それと嶋田さん。嶋田さんも良かったら、是非、試し弾きしてみて下さい」

「俺のも在るのかい?」

「あぁ、いや、だから、最初に試し弾きをしてみてくれって、言ったじゃないッスか」


話が大きく成り過ぎたのかして。

あの、いつも冷静な嶋田さんですら、そんな事まで忘れてしまっていたとはなぁ。


これには驚きだな。


まぁけど、確かに親父さんの楽器は、俺なんかが弾いた感じでも、他の既製品とは比べ物に成らない様な一品だったからな。


此処は、そうなっても、おかしくはねぇのかもしんねぇな。



「あっ、あぁ、じゃあ、本番まで少ししか時間が有りませんが、出来れば、直ぐにでも演奏させて貰って良いですか?」

「あぁ、はい。宜しくお願いします」

「あぁっと、僕も、お願いして良いですか?」

「勿論ですよ。是非とも、お2人共、お試し下さい」


この勢いだったら……間違いなく買ったな、こりゃあ。


まいどありぃ~~~!!


俺の思惑通りじゃ、ヒヒヒヒヒヒ……

(↑ただの偶然)


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>


親父さん、実は伝説に成る程の凄腕ビルダーでしたぁ(笑)


まぁただ、遠藤さんも本編で言ってましたが。

親父さんは、元々表に立って目立ちたがる様な性格ではないので、掲載された雑誌に写真が一枚だけしか残っておらず。

そういった意味では、あまり知名度が高くなかったりします。


寧ろ、一般的には「知る人ぞ知る謎の人物」っとして扱われている傾向が強いと思われます。


さてさて、そんな中。

倉津君の思惑通り、そんな伝説の人物が作ったギターとベースを、嶋田さんや遠藤さんに試し弾きして貰う流れに成ったのですが。


果たして、その評価は如何なるものか?


次回は、その辺を書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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