1404 親父さんを紹介してみたら
親父さんの楽器を嶋田さんと遠藤さんに売り付け様と企む倉津君。
だが、それ迄に山中君と遭遇し、ジュースを買って貰うと言う名目で沙那ちゃんを連れて行かれてしまった倉津君は……
***
……っで、まぁ。
此処で、幾ら沙那ちゃんの不在を嘆いてても仕方が無いので。
そこは気を取り直して、再度、楽屋の扉の前に立ち。
『コンコン』っと軽くノックした後、親父さんと一緒に楽屋に入れて貰ったんだが。
本番一時間前の楽屋だって言うのに……空気が軽いッスね。
最初に出て来てくれた椿さんは。
相変わらず、挨拶を『ペコッ』っとして『こんにちわ、後輩さん』て言って来て、ポワ~~ンとした、天然爆裂のいつもの調子のままだし。
嶋田さんは、毎度毎度のリラックスモードで、壁に凭れたまま、なにやら気軽な感じでギターを弾いているだけ。
そんで康弘の奴は、なにやらライブとは全く無関係な勉強中の様子だしな。
恐らくコイツの場合は、年齢的にも、時期的にも、卒論か、なんかを書いてやがるみたいだな。
みんな、そんな風に果てしなく呑気な感じだ。
言うなれば、緊迫感も糞もねぇ状態だな。
「おぉ、倉津君、いらっしゃい」
「ちわッス。嶋田さん、元気にしてましたか?」
「うん。相変わらずやってるよ」
相変わらず爽やかな感じッスな。
こういった面から見ても、この人も悪意がない人間だと言うのがよくわかる。
まぁ嶋田さんの場合、椿さんを守るって名目があるから、少々裏表がある面はあるんだが。
そんな面を含めても、この人は、本当に善人だと言う事だけは間違いないと思える。
「そうッスか。そりゃあ良い事ッスね」
「お陰様でね。……所で倉津君、前に話した例の件は、その後、どういう方向に行ってる?」
おっ。
ライブの時間が差し迫ってるから、イキナリ、以前に渡された『課題』を提示してきましたな。
けど、残念ながら俺の解答はッスね。
「あぁっと、今の所は、まだ、なにも考えられてない状態ッスね」
「そうかい。まぁ、話自体が3日前ぐらいの話だし。受験中じゃ、早々に考えてる暇もないか。……まぁ、それが順当な答えだろうね」
「なんか気ぃ遣って貰ってるのに、すんませんね」
申し訳ないッス。
しかも今日、ちょっと色々ありましたんで、余計にソチラ方面の話は考えられなかった感じッスね。
「構わないよ。じゃあ今日は、陣中見舞いに来てくれたって事で良いかい?」
「そうッスね。あぁ、それとッスね。ちょっと紹介したい人が居るんッスけど。……今、時間は大丈夫ッスかね?」
「うん。構わないよ。紹介したい人ってのは、そちらの方だね」
飲み込みが早いッスね。
ウチの知り合いって、余計な説明をしなくて良いから、ホント説明が楽で良い感じッスな。
「そうッス。コチラ、俺が、新しいベースで世話になってるビルダーの橘龍二さんッス。まだマイナーなんッスけど。腕は確かなんで、1度、嶋田さんにも試し弾きして貰えないかなぁって思いまして、お連れしました」
「ふ~~~ん。橘龍二さんねぇ……ふ~~~ん」
なんッスかね?
珍しく嶋田さんにしては、あまり良い反応じゃない感じッスね。
それって、あれッスか?
メジャーのバンドの楽器は、やっぱりマイナーな職人の楽器じゃダメって事ッスかね?
「あっ、あぁ、あの、橘龍二です」
「お初にお目に掛かります。嶋田浩輔です。宜しく」
「こっ、こちらこそ」
あれ?
壁に凭れていた嶋田さんが立ち上がり。
親父さんとガッチリ握手を交わしてくれてるって事は、別に感触が悪いって感じではないみたいだな。
けどよぉ。
そうなると、さっきの嶋田さんの反応はなんだったんだ?
なんか妙な感じだな。
しかしまぁ、それはそれとして。
握手をした親父さんの対応が……さっきの山中の時よりも完全にガチガチじぇねぇか。
まるで、メデューサにでも睨まれて石化してるみたいだな。
あぁ……でもよぉ。
そんな親父さんの反応に、嶋田さん、またなんか変な感じで親父さんを見てるな。
なんだ?
そりゃあ面白い反応だけど、そこまでガン見する程のものでも無いと思うんだけどなぁ。
本当になんだ?
つぅか、嶋田さんって、そんなにメジャー思考でしたっけ?
「……あれ?ヤッパリ、何処かで逢った気がするなぁ。失礼ですけど橘さん。どこかで、1度お逢いした事がありませんか?」
「あぁ、いえ。申し訳ありませんが、嶋田さんとお会いするのは、今日が初めてですが」
「そうですか。……あれ?けど、ヤッパリ、以前どこかで、お逢いした様な気がするんですけどね。気のせいか」
あぁ……なんだ、そう言う事か。
嶋田さんは、ビルダーとしての親父さんをマイナー・メジャーで値踏みしてるんじゃなくて、知り合いと勘違いしてたんだな。
そう言うオチなんッスね。
「あぁだったら、他人の空似って奴じゃないッスかね?世の中には、3人程、似た様な人間が居るって言いますしね」
遭遇したら、死ぬパターンもあるんッスけどね。
人、それをドッペルゲンガーと言う。
(↑詳しい事は、ドイツの逸話でも調べてくれ)
「かも知れないね」
「多分そうッスよ。親父さんの橘龍二って名前、結構、珍しい名前ッスしね。間違え様が無いッスから」
「うん?橘龍二だって?……ちょっと待って倉津君」
「うん?なんだよ康弘?」
「ひょっとしてなんだけどさ。その方って、宗田寅蔵って方と一緒に楽器を作ってた人じゃないのかい?」
嶋田さんと、俺の話を割って。
康弘の奴がイキナリ勉強を辞めてまで話し掛けて来たんだけど。
今、名前が上がった『宗田寅蔵』って、誰だ?誰の事だ?
・・・・・・
あっ……ひょっとして、この流れから言って、沙那ちゃんの本当のお父さんの事か?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【後書き】
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>
嶋田さんも、遠藤さんも、なにやら親父さんを知ってる様子なんですが。
この様子からして、ひょっとして親父さんって、意外と世に知られたビルダーなのかもしれませんね。
……っで、実は『そうじゃないのか?』って匂わせる為。
以前倉津君と話してる際に『依頼されたベースの金額を60万円だった』と提示させて頂いてた所存なんですよ。
普通に考えたら、マイナーな職人に、そんな多額の金額を提示したりしませんからね♪
因みに倉津君が、そこに気付かなかったのは『家が金持ち』で『この子の金銭感覚がバグってる』から流してしまっていた感じです(笑)
さてさて、そんな中。
とうとう次回に親父さんの正体が、より鮮明に成って行く訳なんですが。
どのレベルの存在なのでしょうね?
次回は、その辺を書いて行こうと思いますので。
良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
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