1400 まずは伝えるべき事は伝えられた

 沙那ちゃんを学校に行かせてやりたい一心で倉津君は、色々な好条件を出して親父さんの説得を試みるのだが。

その条件に対する親父さんの反応は、っと言うと……


***


「う~~~~ん」

「あぁ、もしなんなら、親父さん自身が出張に行ってると思って貰えたら一番ベストっすね。ウチは、あくまでも預かってるだけの立場ッスから」

「すみません。……色々とお心遣いして頂くのは有り難いのですが。正直、話が美味すぎて信用出来ません。それに私が、倉津さんと言う方を、表面上だけでしか知らないだけに、矢張り、安易には信用しかねますね」


だよな。


そりゃそうだ。

どれだけ熱弁した所で、今日知り合ったばかりの赤の他人に、自分の大切な娘をホイホイと預ける奴なんて居ないよな。


誰だって、そう思って然りだ。


正論ッスね。



「ですよね。……普通、疑いますよね」

「えっ?こんな事を言われてるのに、倉津さんはお怒りじゃないんですか?」


怒るとな?

ってか、この状況下で、俺が怒るの?


いや、怒らないッスよ。

っと言うか、怒る理由がどこにもないッスけど。


いやまぁ確かにな。

一見したら親父さんんが、俺の出した出来るだけの好条件を蹴ってる訳だから『怒る』って言う反応を示す人間も、世の中には居るかもしれないがだな。

冷静に考えてもみたら、これ自体は『俺の自分勝手な願いを、親父さんに申し出てるだけの話』なんだから、それを判断するのは親父さんで当然なんだよな。

だから、怒る理由なんて、何処にもないんだけどな。


・・・・・・


いや、ちょっと待て。

ひょっとして、これって、俺がヤクザの親分の息子だからって『自分の思い通りに成らなきゃキレる』って思われてる可能性もありそうだな。


まぁ、中にはそう言う輩もおるかもしれんけど。

俺は、そこでまでの頭の悪い行動はしてないつもりなんだがな……


いや、十分に無謀な事をしてるか(笑)



「いやいや、そんなのは当然ですよ。大事な娘さんを預けるのなら、最後の最後まで疑ってかかるのが当然ッスよ。俺だって、突然、こんな話を持って来られたら、まずは相手を疑うでしょうからね」

「じゃあ、最初から……」

「いや、所がッスね。そこだけは本気だったりするんッスよ。本気で沙那ちゃんを学校には行かせてやりたいって気持ちも嘘じゃないッス」

「あぁ……」

「まぁ確かに俺はヤクザの息子ッスから、どれだけ疑われても仕方がないんッスけどね。でもそれだけに、人を騙す様な真似だけは絶対にしたくないんッスよ。そこだけは解って欲しいッス。……まぁ、世間体も有る事なんで、こう言うのは難しいでしょうけどね」


……っと言っても無理だよな。


まぁそこも解ってるんだけどな。

人間、最低限度、こうやって相手には誠心誠意を見せておかなきゃな。


それに、誰も『今日中に決めろ』って言ってる訳でもないしな。


沙那ちゃんの件を考慮してくれる期間は無期限でOKッスから、少しだけでも俺の提案を考えてみてくだされ。

……っと、イカンイカン。

この期間の件も、ちゃんと親父さんに伝えとかなきゃな。


心で思ってるだけには、相手に伝わらんし(笑)



「まぁまぁ、それ以前の問題としてッスね。この話自体、沙那ちゃんの合意が無きゃ話にも成らないんで。まずは親父さんに考慮して頂いて、それで少しでも納得が出来たら、次は沙那ちゃんと話し合ってみて下さい。期間は、いつでも構いませんので」

「えっ?いつでも良いんですか?」

「ウッス。いつでも良いッスよ。どんな時でも沙那ちゃんの受け入れ体勢は整えて置きますので、遠慮せずに、気が向いたら、いつでも声を掛けて下さい。俺は、いつまででも待ちますから」


これでまずは「沙那ちゃんの件を、親父さんに切り出す」っと言う部分での第一段階は終了だな。

ブッチャケ、今は、これ以上話しても進展がないだろうし。


どうやっても後は、親父さんと、沙那ちゃんの気持ち次第ッスからね。


***


 ……っとまぁ、そんな訳でだ。

親友だと思っていた奴には裏切られ。

姉弟だと思っていた奴にも裏切られ。

トドメには、恋人にまでも裏切られ。

失恋して失意のドン底にまで落とされたにも拘らず。

こうやってまた俺は懲りずに、新しい人間関係を作ろうとしている。


『失った熱意』は、こうやって自分で埋めていくしかないしな。


けど俺は、それで良いと思う。

いつまでも過去の事でグジグジと凹んでても、その場でグルグル廻って前に進めないだけだし。

なにより『人を騙して傷付ける』より『人に騙されて傷付いた』方が、まだ幾分かはマッシってもんだからな。


俺は何度裏切られても、そう有り続けたいと思う。



……ってな訳で、次回に続く。


***


次回予告。


さてさて。

結局は、失恋しても、なんの進歩もない俺なんだが。

今度こそ、この沙那ちゃんって子を良い方向に導いてやりたい。


決して、あの子には、人を裏切る様な真似を平気で出来る様な子になんかは育って欲しくないからな。


此処は梃子でも、なんとしてでもやり遂げたい。



そんな訳で次回。


『Full heart』

「満たされていく心」


まぁ……そうは言っても。

今現在、なんの決定が出ていない以上、これからどうしたもんかは次回までに考えるさ。


それで上手く説得出来れば、御喝采ってな。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>

これにて第一章・第八十四話【Lost heart(失われた心)】は、お終いなのですが、如何でしたでしょうか?


誤解とは言え、奈緒さん、崇秀、眞子に裏切られたと思い込んでしまった倉津君でしたが。

それ等を苦痛を自分の中に飲み込んで、なんとか自分自身の力だけで再起を図っている様子でしたね。


まぁ、あの一件自体が倉津君の誤解なだけに、なんとも言い難い部分はあるのですが。

それが例え誤解であったとしても、こうやって自分で立ち上がろうとする事は非常に大事な事なので、私は良い傾向だと思います。


人、それを成長とも言いますしね♪


さてさて、そんな中。

次回から始まる第一章・第八十五話【Full heart(満たされていく心)】では。

また倉津君が、少しでも親父さんの信頼を獲得する為に四苦八苦していきますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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