1399 今の倉津君に出来る誠心誠意の説得

 ただ沙那ちゃんを連れ回してるだけではなく。

彼女の将来を見据えて、楽器作りを教えた方が、学校に行くより重要だと判断していた親父さんだったが。

此処最近に成って『それが間違いなのでは?』と考え始めた事を倉津君に伝えると……


***


「……あのよぉ、親父さん」

「あぁ、はい。なんでしょうか?」

「なんなら、ウチで、沙那ちゃんを預からせて貰えないッスかね?」


これ……どぉ?

これどぉ、これどぉ?


いやまぁ、そりゃあな。

突然、こんな話をされても、ウチの実家がロクでもないヤクザ稼業だから信用出来ないかもしれないけどよぉ。

その分、不動産とかなら沢山所有してる訳だから、そこで架空的に住民票を作り。

そこにさえ親父さんと沙那ちゃんの住所を移しちまってる事にしちまえば、まずはウチと関わりが有る様には見えないだろ。


その上でウチで沙那ちゃんを預からせて貰えれば、あの子を学校にも行かせてやる事も可能だと思うんだよな。


だから、この提案自体は、そんなに悪くねぇ提案だと思うんだがな。



まぁ、ただ……初対面の人間が言うこっちゃないんだけどな。



「えっ?」

「あぁ、いや、こうやって親父さんがブッチャケて言ってくれたんで、俺もブッチャけて言うんッスけど。俺ん家ッスね。実は、倉津組の本家なんッスよ。だから、沙那ちゃん一人を養うぐらいなら、なんて事ないんッスよ」

「えっ?えっ?」

「あぁ、いやいやいやいや、別にビビんないでくれて良いんッスよ。なにも取って喰おうって訳じゃないんッスから」

「いや、それにしてもですね。倉津組と言えば、関東最大の武闘派組織じゃなかったですか?」

「いや、まぁ、そうなんッスけどね。親父さんが、沙那ちゃんを学校に行かせてやりたいって気持ちが有るんなら、ウチで預かっても良いかなぁって」

「まっ、まさか……沙那の才能の話を聞いたから、私から沙那を奪うつもりですか?」


あっ、ソッチ行っちゃいますか?


まぁ、実家がヤクザですから。

そう思われても、しょうがないんッスけどね。


けど俺は、そう言うのは慣れっこですから、結構平気だったりしますけどね。



「あぁ、いやいやいやいや、そんなつもりは毛頭ないッスよ。幾ら俺がヤクザの息子だからって、そこまで人間の落ちぶれちゃいないッスよ」

「では、何故、初対面である私達家族に、そこまでしようと思ったんですか?少し見えない感じなんですが」

「いや、なんでって言われても。沙那ちゃんを学校に行かせてやりたいからッスけど……」

「えっ?それだけ?本当に、それだけなんですか?」

「あぁっと、そうッスね。それ以外は、なにもないッスね」


変か?

また俺の言ってる事は、そんなにおかしな事なのか?


みんな幸せで良くね?



「……本気ですか?」

「まぁ、本気ッスね。だから勿論、親父さんが、コチラに仕事から戻って来られた時は、沙那ちゃんに直ぐに逢って貰える様にもしますし、そうやって親父さんに逢えれば、あの子も喜ぶだろうし。お預かりした、その日から沙那ちゃんには携帯電話を持たせますので、毎日、コチラから電話をさせて貰っても結構ですよ」

「そんな待遇まで……」

「あぁ、いや、お疑いなのは十分な程に解りますけど、本当に俺には他意はないッス。それに、もしそれでも心配なら、弁護士立会いの下、キッチリと書面に記しても良いですし」


まぁ、その他にも、ウチの糞親父がゴチャゴチャ文句を言うかも知れないけど、そんなものは知ったこっちゃねぇ。


それに、糞親父が、俺に『沙那ちゃんの生活費を入れろ』って言うなら。

俺が糞親父の下でシッカリと働いて、全額払ってやるから、それで勘弁しろな。


……つぅか、偶には、社会貢献ぐらいしろ糞親父!!

(↑まだ何も言ってないのに、糞親父が勝手に文句を言うと決め付ける俺)



「ちょっと待って下さい。もう1度聞きますが、何故そこまで?」

「いや、まぁ、正直言っちゃえばッスね。俺、実家が実家なだけに、結構、日陰者な生活してたもんで。あぁ言う子が、普通に生活出来無いのが可哀想だと思っちゃうんですよ。だから、自分に出来る事があるなら、なにかしてやりたいなぁって」

「……倉津さん」

「それにッスね。少し生意気な事を言っちゃいますけど。親父さんのベース、本当に良い音なんで。これからは沙那ちゃん無しで、もっと精進していって欲しいんッスよ。このままじゃ、いずれ沙那ちゃんに依存しちまうか。更に言えば、沙那ちゃんの才能に嫉妬までしかねないじゃないですか。仲の良い親子が、そう言うの良くないと思うんッスよ」


いや、これな。

本当の話なんだよな。


俺も、散々人の才能に嫉妬してきた人間だから解るんだけどな。

『妬み』や『嫉み』ってのは、比較的、人の心の中に育ち易いんだよな。


しかも、その後、それ等が感情にも現れ易いんだよな。


それで、いつしか親父さんが、沙那ちゃんに強く当たる様に成っちゃ、余りにも可哀想だろ。


だから、こう言う提案をしたんだけどな。


まぁ、これ程の才能と、腕を持ってる人だから、解って貰えないかも知れないけどな。



「そこまで見据えておられたんですか?」

「あぁ、いや、本当に、出会って間無しに生意気な事を言ってますし、お節介な話なのも十分承知してるんッスけど。折角、こうやって出会えたんッスから、あの子には幸せに成って欲しいッス」

「では、矢張り私は、沙那を不幸せにしてるのでしょうか?」

「いやいやいやいや、そんな事はないッスよ。ただ親父さんは、あの子の事を本気で可愛がってるからこそ、将来を見据えてただけだと思うんッスよ。けど、矢張り、学校に行って、人と接して、人間性を養う事も大事だと思うんッスよ。才能が有っても、人間的にOUTじゃ、意味がないッスからね」


何処かの誰かさん達みたいにな。

才能が有っても、あんな風に人間が腐ってちゃあ、それでなにもかもがお仕舞い。


金儲けや、仮初の社会貢献は出来るだろうけど、本質的にはダメな方向に進んでしまう事だって有り得る。


どうしても俺は、沙那ちゃんには、そうなって欲しくないんだよな。


これが今の俺の一番の本音なのかもしれない。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>


倉津君、必死に自身が出来る最大限の提案を親父さんにしているみたいですね。


まぁ普通に考えても、これ(沙那ちゃんを倉津君に預ける)バッカリは無理な話なのでしょうが。

何事もチャレンジをしないと始まりませんし。

なにより、まずは自身の意思を相手にキッチリ伝えて置かないと、なにもしてないのと同じに成っちゃいますからね。


なので、無理は承知で、こんな無謀な事を言ってるのだと思います。


さてさて……っとは言え。

親父さんの返事をまだキッチリと貰っていない以上、まだ確率は残されている訳ですから。

次回は親父さんの発言に注目して頂けると嬉しいです。


そんな訳なので、次回はその辺を書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾


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