1398 親父さんが沙那ちゃんを連れ回してる理由

 楽器の件はアッサリ片付き。

次に、倉津君の本命の話である【沙那ちゃんを学校に通わせる件】について話しだしたのだが。


話し始めて直ぐに親父さんの口から『沙那ちゃんが自分の本当の子ではない』っと言う衝撃の事実を突き付けられ……


***


「いやいやいやいや、ちょっと待って下さい。あの、それって……どういう事なんッスか?沙那ちゃんが本当の子供じゃないって?」


いや、別に、そうは言ってもな。

親父さんが沙那ちゃんを誘拐したとか、そう言う事を疑ってるんじゃないんだぞ。


もし仮に誘拐していたとしたら、あんなに親父さんに懐く筈がないからな。


だから、そこを疑ってる訳じゃないんだが。

イキナリ『沙那ちゃんが自分の子供ではない』なんて言われたら、こうやって動揺の1つもしてしまうわな。



「あぁ、いやいや、誤解しないでくださいよ。私の本当の子供じゃないとは言いましても、変な意味じゃないんですよ。あの子は、身寄りの無い私の同業者が残して行った子種なんですよ」

「残して行った子種?……って事は、亡くなられたんッスか?」

「えぇ、才能溢れる男でしたが。沙那が、まだ小さい頃に電車の事故に遭いましてね。その時に……」


そうかぁ。


だからかぁ。

なんか、お互いが、妙に余所余所しい感じが有ると思ったら、そう言う理由だったんだな。


けど、それはそれ。

学校に行かせてないのとは、関係ない様な気がするんだがな。



「じゃあ、それからズッと沙那ちゃんの事を……」

「はい、そうです。……ですが私は、この通りの風来坊。親にも勘当されてる身なので、実家に沙那を頼む事も出来ず。あの子を連れて全国を渡り歩くしかなかった次第なんですよ」

「なるほど。学校に行かせられない理由は、そう言う理由だったんッスね」


そっか。


ただ漠然と連れ歩いてる訳じゃなく。

一応は、キッチリとした理由らしきものは有るんだなぁ。

しかもその上で、沙那ちゃんが生きていく上で困らない様に、自身の技術を教え込んでいたんだな。


なるほど、解らなくもない理由だ。


けど、だからと言って、実家がダメでも、親戚筋なんかに頼むって方向性も有るんだけどなぁ。


そこは考えなかったのかなぁ?



「あぁ、勿論。私が、こんな職業ですので。中には、親戚や、昔住んでいた近所の方が、沙那を預かってくれると言う話は数件頂いてはいたんですがね。……それでも私は、沙那を手元に置いておきたかった」

「そりゃあ、またなんで?」

「才能ですよ」

「才能?」

「えぇ、あの子には、あの子の父親から受け継いだ『楽器造り』の才能が有るんですよ。だから私はね。学校に行かすなんて事より、あの子の才能を開花させた方が……いや、正直言えば、私は、あの子の才能に魅入られているのかも知れませんね」


魅入られてる?


あんな小さな子の才能に、これ程までに腕の立つ職人が魅入られてるだって……そんな事って有り得るのか?



「そんなに凄いものなんッスか?」

「えぇ。あの子の才能は天井知らずです。先程、説明させて頂いた『手法』も、元はと言えば、あの子が考案した方法に、私が手を加えたものですから」

「なっ!!」


マジですか!!

あの手法って、親父さんが単独で考えたものじゃなくて、元のアイディアは沙那ちゃんが出してたのか!!



「きっと、売れない私の困っている姿を見て、あの子也に考えた結果だったんでしょうね。私では、到底あんな手法は思い付かない。まさにあの子の才能は、父親の才能から引き継いだと言っても過言じゃない様な『ギフトホルダー』。誰も思い付かない様な手法を、次々と私の目の前で編み出していきました。恐ろしい子です」


なるほど、沙那ちゃんはギフトホルダーだったか。


それなら妙に納得のいく回答だな。


しかしまぁ、これはまたトンデモナイ子に巡り会ったもんだな。

この親父さんの楽器作りの才能にしても、沙那ちゃんの破格の才能にしても。

あの才能の塊みたいな連中と別れた直後だって言うのに……またこうやって、トンデモナイ才能の持ち主に出くわすとはな。


俺の『才能持ちに出逢う確率』は、どうなってるんだ?


……っとまぁ、それはさておき。

此処まで親父さんが、沙那ちゃんの才能に惚れ込んでるとなると、学校の件は難しそうだな。


どうしたもんだ?


いや、そうじゃないな。

まずはその前に、親父さんの意思をキッチリ確認してから話を進めるべきだな。



「じゃあ、これからも沙那ちゃんを学校に行かせる気はまったく無い、って事ッスか?」

「いえ、それがですね。近年になって私も、それは間違いだと気付いてはいたんですが。今更、沙那に学校に行けと言っても、勉強にはついていけないだろうし。友達を作って遊びたいと言う感覚が、あの子には有りません。私のせいで、あの子は、楽器造りにしか興味を持ってなくなってしまっているんですよ」


いや……そこに関しては、そんな事ねぇと思うけどな。

さっき沙那ちゃんと学校の話をしていた感じじゃ、あの子自身、学校には、かなり興味を持ってたみたいだったしなぁ。


だから、その辺については、意外と大丈夫な気がしないでもないんだが……

沙那ちゃん自身も人懐っこい性格だから、友達とかも直ぐに作れそうだしな。


まぁ、勉強については、基礎知識がないだけに少々苦労する事に成るかもしれないが。

俺みたいな馬鹿でも、結構、根を詰めてやれば、ある程度は勉強の内容が理解出来る様になった訳だから、実際は、沙那ちゃんのヤル気次第で何とかならなくはないと思う。


けど、ヤッパ、沙那ちゃんと間近で接し続けていると、その辺が見えなくなるもんなのかも知れないな。

若しくは沙那ちゃん自身が、親父さんに頼るしかないから、そう言う気持ちを完全に伏せてきっているのかも知れない。


なら……ここで俺のすべき事は、アレだな。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>


住所不定等の問題もあるにせよ。

親父さんが、沙那ちゃんを連れ回していた理由は、そこにあった訳ですね。


そして親父さんが、沙那ちゃんに楽器作りの手解きをしていたのも、自分勝手な言い分ではなく。

沙那ちゃんの将来の事を見据えての行動だったみたいですね。


まぁ実際の話。

親父さんから見れば、沙那ちゃんは兄弟子から預かった宝物の様な存在でしょうし。

そんな宝物の様な存在が、兄弟子同様のトンデモナイ才能まで持ち合わせているのであるならば。

学校に行かせずに、自分の積み重ねてきた楽器作りを教え込んだ方が『沙那ちゃんの為に成るんじゃないか?』っと考えてしまうのは、強ち仕方がない事なのかもしれませんしね。


特に親父さん自身が一流のビルダーなだけに、この件に関しましては、余計にそう感じてしまっていたのかもしれません。


さてさて、そんな中。

そんな親父さんに対して、なにやら提案すべき事を倉津君が思い付いた様なのですが。


一体、この状況下で、どんな提案をするつもりなんでしょうか?


次回は、その辺を書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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