1397 激闘!!有り得ない値段交渉!!
元の依頼主が亡くなり、行き場を失ったベース(依頼料60万円)。
それ故に『幾らぐらいで売るつもりなのか?』と親父さんに尋ねた所。
なんと!!半額の30万と言う破格だったので、即座に飛びついた倉津君だったが、その後、親父さんが……(笑)
***
「そうですか。そこまで私のベースを評価して頂いてるなら、寧ろ、倉津さんに使って頂きたいですね。……では、その感謝の気持ちも込めまして25万で」
ブッ!!なんじゃそりゃあ!!
ベースの評価が上がってるって言うのに、金額の方が下がってるじゃん!!
これは一体、どう言うこっちゃ?
そんな馬鹿げた事って、現実的にあるか?
いやまぁ、親父さんが気を使ってくれてるのは解るんだがな。
今、それをする必要性ないんじゃねぇッスかね?
「いやいや、金額を下げる必要なんてないッスよ。寧ろ、前の依頼主が提示した60万でも欲しい位ッスよ」
「いえ。私は、私の楽器を求めて頂ける方に、より良い環境で楽器を使って頂くのが仕事です。評価して頂いた上に、その様な金額で売り付ける訳には行きません。ですから、どうか25万で、此処はお納め下さい」
「いや、あの、だったら、せめて最初に提示した30万は出させて下さい。じゃなきゃ、俺も、この話は、お断りします。俺の評価が、お気に召して頂けなかったと思いますんで」
「ですが……」
ホント、なんじゃこりゃあ?
売り手が値引きを提示して、買い手が値上げを提示する。
普通なら有り得ない光景だな。
まぁけど、此処は、そう簡単に折れる訳にはイカンのだよ。
これだけの良い腕を持った職人なんだから、もっともっと、その腕を世間に広めてって欲しいし、その為には、どうしても、材料費や、なんやかんやで金が必要になる。
だから此処は、その投資をする為にも、ちゃんと金を受け取って貰わなきゃいけないんだよな。
それに……
これは大きなお世話なだけかも知れないんだけど、金銭面は、沙那ちゃんの生活にも直結してくる問題だからなぁ。
親父さんに、これだけ経済観念がなきゃ……借金まっしぐらに成りかねないんだよなぁ。
「あぁ、だったら、こう思って貰えませんかね?」
「どう思えと?」
「俺はッスね。本当に親父さんの作ったベースが気に入ったんッスよ。だから、これからも親父さんには、もっと良い環境で仕事が出来る様に色々な面で環境を整えたいんッスよ。その為の投資だと思って下さい」
「倉津さんは、無名の私に投資するって言うんですか?」
そう言う事ッスな。
って言うかな。
親父さんがミュージシャン達の環境を整えたいって言うなら。
俺達ミュージシャンだって、凄腕ビルダーの環境を整えたいと思ってもおかしくはないだろ。
これは、そう言う事ですわ。
「ウッス。少ない金額ッスけど。親父さんの楽器は、もっと世間に浸透して欲しいもんッスからね」
「……倉津さん」
……って事なんで受け取って下され。
なぁ~~に、遠慮なんてものは要りませんぜ。
この金にしたって、どうせ、ヤクザの組長である親父の片棒を担いで悪どく稼いだ金ですからな。
だからせめて、汚い金也にも、親父さんみたいな人が好くて、善良な人に金を使われるのが一番ですぜ。
まぁ、そんな訳なんで、俺は、半ば強引に、その場での即払い。
現金キャッシュで、親父さんに金を受け渡した。
これで、この話は成立だ。
***
……さて、そうなると次は、本命である沙那ちゃんの話だ。
なので俺にとっちゃあ、此処からが本番だって噂もあるけどな。
「所で親父さん」
「あぁっと、沙那の話でしたね。その前に、1つだけ、お聞き願えますか」
「あぁ、良いッスけど。なんッスか?」
「そのベースを、完全に倉津さんの仕様に調整したいのですが……あぁ、勿論、沙那の話の後で結構ですから、何卒、此処だけは、お聞き入れ下さい」
あぁっと、それって。
沙那ちゃんの話を聞いて貰った後に、ベースの調整までして貰えるってんなら、それはコッチにとっては願ったり叶ったりですな。
全然OKッスよ。
寧ろ、断る理由すらありませんな。
「あぁ、勿論、喜んで」
「そうですか。それはありがとうございます。……それで、沙那のお話と言うのは、なんでしょうか?」
「あぁ、いや、ホント、お節介な話なんッスけどね。沙那ちゃん、学校に行かさなくて良いんッスか?」
俺は、親父さんの耳元で、出来る限り小さな声で、そう言ってみた。
すると……
「……ですね。矢張り、そう思われても、おかしくはないですね」
まるで、その話をされるのが解っていたかの様な口調で、親父さんはそう呟いた。
この様子からして、矢張りなにか訳有りか?
「そうッスね。ホント、大きなお世話だとは思うんッスけど……」
「沙那。悪いけど、少しお使いを頼まれてくれるかい?」
「うん。いいよぉ。何所まで行って来れば良いの?」
話が話なだけに、沙那ちゃんには聞かせたくないのだろうな。
親父さんは『買い物』と言う名目で、沙那ちゃんを、この場から離そうとしている。
まぁ、この行為自体は順当と言うか、当然だよな。
当事者である子供の前でする話じゃねぇもんな。
「えぇっとねぇ。御茶ノ水の柊の叔父さんの所まで、行って来てくれるかい?」
「柊の叔父さん?……ペグ?」
「あぁ、そうだ。注文して置いた『オリジナルのペグ』が完成したらしいんで、取りに行って来てくれるかい?」
「うん」
「じゃあ、車から自転車を取って、行っておいで」
「あぁ、自転車だと、結構ライブにギリギリだね」
「じゃあ、電車で行って来るか?」
「うん。自転車でもギリギリで間に合うとは思うけど、電車で行くよ」
「そうか。じゃあ、これ、電車賃な。頼んだよ沙那」
「うん」
ギリギリって言うか、チャリで御茶ノ水まで行っても、ライブには間に合う算段なんだな。
まぁ、電車に乗って行く訳だから、そこは問題はねぇけど。
それ以前に、こんな小さい子を1人でお使いに行かせて大丈夫なのか?
まぁ、親子間で大丈夫だと確認しあってるんだから大丈夫なんだろうけどな。
なんか不安だな。
そんな風に俺が不安になる中、沙那ちゃんは走り去っていく。
矢張り、大丈夫な様だ。
「さて、倉津さん。初めてお逢いする倉津さんに、何所からお話すれば良いのか難しい所なんですが。少しだけ沙那についての話に、お付き合い願えますか?」
うん?なんか、イキナリ重苦しい感じの話だな。
けど、こちらが振った話なだけに。
相手方が話す気になってくれているのなら、これを聞かないと言う判断は無いから、当然、聞かせて貰おう。
「勿論ッスよ。俺みたいなガキが聞いても差し障りがなきゃ、お話し下さい」
「そうですか。ありがとうございます。……私も、前々から、どなたかに話をしたかったもので」
「そうなんッスか?けど、俺みたいなガキで、本当に大丈夫なんッスか?」
「勿論です」
「他の職人の方や、取引先の方みたいな、良識のある大人の方じゃなくても、良いんッスか?」
「あぁ、いえ。同業者には、この話は話したくないもので……」
うん?親父さんのこの言い様だと、なんか俺、途轍もない地雷踏んだんじゃねぇか?
大丈夫か?
「同業者に話せないと言う事は……同業者に話せない理由が、なにかあるんッスね」
「あぁ、いや、そんな大それた話じゃないんですが。……【あの子は、私の本当の子ではない】のですよ」
「はっ、はい?」
えぇ~~~っ!!
なんか、イキナリ衝撃の事実過ぎて、訳が解んねぇぞ!!
なにこれ?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【後書き】
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>
謎の値段交渉の方は、なんとか投資と言う形で丸く収まったのですが。
本命である沙那ちゃんの話の方が、いきなり衝撃的な展開でスタート!!(笑)
果たして、親父さんが口にした【沙那ちゃんが、本当の自分の子ではない】っと言うのは、どういう意味なのか?
次回は、その辺の事情を詳しく書いて行きたいと思いますので。
良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
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