1395 親父さんの反応と、楽器作りの腕

 親父さんの帰りが遅かった理由は、自身が作ったベースを倉津君に弾いて貰いたかったから、取りに行っていたと言う最低なもの。

だが、これをチャンスと考えた倉津君は交換条件として「沙那ちゃんについての相談を聞いて欲しい」と願い出た……が、親父さんは、やや渋い顔。


なにかあるのか?


***


「あぁ、そんな事で良ければ、幾らでも」

「はい?」

「いやいや、ベースを弾いて頂いて感想さえ戴ければ、どんな相談でもお聞き致しますよ」


うわぁ~~~~!!マジか!!

人が散々警戒していたって言うのに、この有様。


この親父さん、正真正銘のダメ人間だ!!

自分の娘の話より、自分の造った楽器の方が優先順位が高いって……それは、あまりにもダメ過ぎるだろ。


人として、どうよ?


……けどまぁ。

これで最低限話を聞いてくれるだけのお膳立てが出来たのであれば。

一応は、目的は達成するんだから、それはそれで文句を言う筋合いもないか。


深く考えたら考えたで疲れそうだしな。



「そうッスか。じゃあ早速、、先にベースの件から片付けさせて貰うッスね」

「えっ?あぁ、宜しいんですか?なんか催促したみたいですね」


きっと親父さん自身は無意識なんだろうが、十分な程に催促されてますけどね。


いや寧ろ、あんな態度を取られ続けられて。

先に沙那ちゃんの話からしようとする根性なんで、俺にはねぇッスよ。



「いやいや、ソチラさんが気になる事から先に解決した方が、コチラの話も、やり易くなるッスからね。それで良いと思いますよ」

「いやはや、面目ない」


いや……本当に、それは『面目ねぇ』ぞ。


人としてOUTだな、こりゃあ。


……っとまぁ、文句を言ってても埒が開かないので。

親父さんから、取り敢えずは、ソフトケースに入ったベースを受け取り。


んで、早速ソフトケースから物を出して見るんだが……


BODYは、重さから言って『Alder』

NECKは『Maple』

FINGERBOARDは『Rosewood』

……っと言った所で、ミディアムジャンボの22フレット仕様。


総重量4,2kgって所か。


まぁ、俺が使ってる『Jazz Bass』よりは少々重い印象はあるが。

これ位の誤差なら、まだ、ほぼ同じだと考えても問題無さそうだな。



さてさて……これ以上考えても深い所はわかんねぇし、早速、弾いてみっかな。


***


 ……うん、これは非常に悪くないベースだな。


いや、それ処か。

言うだけの事は有って、これは、かなり高い完成度を誇る一級品だわ。


だってよぉ。

まず全体的に見て、物を言えばだな。

メーカーが作ってる量産の市販品とは異なって、各パーツが1つ1つ丁寧に作り込んであるから、接合部分に余計な隙間が少なく、音にムラが出ないので、演奏のストレスが殆どっと言って良いほど【ない】


これは、楽器の演奏者にとっては、自分の思い描いた演奏が可能に成るから、実に大きなポイントだ。


それに楽器の作りもさる事ながら、なにより……木が良いみたいだな。


恐らくなんだが。

今では入手し難くなった、かなり年代物で良質の一枚木をフンダンに使っているみたいなんだよな。


一音出しただけでも、その辺の違いが明確に解る。

もしそうじゃなきゃ、こんな良い音、普通は、どうやっても出ないからな。


現に、俺がいつも使っている『Jazz Bass』なんかじゃ話に成らないぐらい渇いた良い音が出てるし、それでいて、音の馴染み方が尋常じゃ無いぐらい良い。


こりゃあ、俺なんかが気楽に手を出して良い1品じゃねぇわ。


人としては、どうかと思うが、楽器造りの腕は、スゲェな親父さん!!


只者じゃねぇわ。


***


『パチパチパチパチ……』



「凄い、凄い!!ヤッパリ倉津のおにぃちゃんは凄いね!!」


……の様に、演奏終了と共に、拍手を送ってくれながら沙那ちゃんが褒めてくれた。


うんうん、可愛いのぉ。


満面の笑みで、一生懸命パチパチ拍手してくれる姿には、もう既に癒しさえ感じるわ。


矢張り、純粋無垢なものには、誰も勝てませんな。



「そっ、そうか?」

「うん!!お父さんの作ったベースがね。お父さんの作ったベースがね。凄く嬉しそうに音を出してた!!生き生きしてた!!凄い!!こんなの初めてみた!!凄い、凄い!!」

「そっ、そうか」


だが俺は、そうやって沙那ちゃんが褒めてくれるのには、素直に喜べるんだが。

その実、この沙那ちゃんの誉め言葉に対して俺は、なんとも言い難い心境になってたりもする。


……って言うのもな。

なんせ、今の演奏の仕方ってのは、非常に癪な話ではあるんだが。

ウチの人の心を持たないアホカス・ロクデナシ姉弟である眞子の演奏を再現したものだからなんだよなぁ。


なのでこれは、ある意味、アイツの演奏が褒められてるのも同然。


だから、なんか微妙な心境に成っちまってるんだよな。


まぁ勿論、折角、沙那ちゃんが褒めてくれてるんだから。

そんなネガティブな表情を、表に出すような無粋な真似はしないけどな。



「……っで、倉津さん。弾いて頂いた感想は、どうでしたか?」


なんて考えていたら。

今度は親父さんが目をキラキラさせながら、俺の感想を求めてきた。


うん、こちらは、あまり気持ちの良いものではないな(笑)


けどまぁ、そりゃそうなるわな。

人間的には終わってるとは言え、眞子の、ベースの腕だけは本物。

そのベースラインを、自身のベースで再現されたら、そら、ビルダーとしては感想が気になるのは、なにもおかしな話じゃないからな。


なので、今回の親父さんの要求には納得(笑)

(((uдu*)ゥンゥン


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>


人としては、あまり良くない部分の多い親父さんなのですが。

楽器馬鹿なだけはあって、楽器作りには、恐ろしい程の拘りがある人みたいですね。


そして、そんな彼によって作られた楽器は、倉津君が絶賛する程のかなりの一品!!


なら、親父さんに対して、倉津君は、どういう反応を示すのか?


……ってな話を、次回は書いて行きたいと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾


まぁ言うて。

この子は駆け引きなんてできない子なので、皆さんのご想像通り、素直に感想を言うだけでしょうがね(笑)

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