1394 楽器馬鹿
沙那ちゃんが学校に行ってない理由を、それとなく聞き出した倉津君。
そしてその話が一旦終わった頃に、ジュースを買いに行った親父さんの姿が遠くに見えて来て……
***
そうこう話している内に、漸く、沙那ちゃんの親父さんがヒョッコラヒョッコラと帰って来た。
……のは良いんだけどよぉ。
なんで、ジュースを買いに行っただけなのに、そんな風に両手一杯の荷物を持ってるんだよ?
まぁ、左手で持ってる買い物袋には、恐らくジュース入っているのだろうから、これを持って帰って来てるのは、ジュースを買いに行った以上、納得は出来る話ではあるんだがな。
なんでそれに付け加えて、右肩にソフトケース引っ掛けて、右手で小さなアンプまで抱えて帰って来てるんだよ、あの親父さんは……
それ、どう言う組み合わせだよ?
寧ろ、どうやったら現状で、そんな組み合わせが出来上げるんだよ?
全くもって意味が解らねぇぞ。
「あぁ、倉津さん、すみません。なんかお待たせしちゃって」
「あぁ、いや別に、待つのは一向に構わねぇんッスけど。そんなに荷物を抱えて、今までなにしてたんッスか?」
「あぁ、いや、これは面目ない。先程ジュースを買いに行きましたらね。不意に、倉津さんに1度弾いて貰いたいベースが頭を過りましてね。ついつい、それを取りに……」
ダメじゃん。
ってか、何その理由?
取引先の人間にあってとかじゃなかったんだな。
「あっ、あぁ、そっ、そうッスか。あぁでも、娘さんを放ったらかしにして、そう言う事をするのは、少しどうかと」
「あぁ、これまた面目ない。どうにも、思い立ったら吉日な性格なもんで……それで一度でも、それが頭に過っちゃうと、それバッカリが気に成っちゃうもんで……」
マジでダメじゃん。
この親父さん、マジでダメだわ。
どんだけ自身の欲望に忠実に生きてるんだよ?
ある意味、スゲェな。
「そっ、そうッスか」
「いやはや、非常に面目ない」
「お父さん、そんな事より、ジュース、ジュース。ジュース頂戴。倉津のおにぃちゃんも、大分、喉が渇いてると思うよ」
「あぁ、そうだね。倉津さんにジュースを飲んで貰う為に、さっき、買い物に行ってたんだったね。こりゃあまた面目ない」
さっきから『面目ない面目ない』ってバッカリ連呼して【面目ない星人】かアンタは!!
しかも、当初の目的を娘に指摘されて思い出してちゃあ、本当に面目なさ過ぎだろ。
欲望い忠実なのは結構だが、少しは反省しろ、反省!!
まぁけど、親父さんに放ったらかしにされていた沙那ちゃん本人が、特にな~~~んにも感じてないみたいだから、此処は、これで矛を収めるとするか。
この親父さんの性格は、一長一短で治るような代物じゃなさそうだしな。
……っと言う訳でだな。
この後、親父さんがジュースを皆に手渡して行くんだが……なんか、その間も妙にそわそわしてるんだよなぁ。
その態度……まさかとは思うが、ベースか?
この期に及んで、まだベースの事が気に成って仕方が無いのか?
嘘だろ。
「あの~~~~、倉津さん。それでなんですけど」
だめだ。
この親父さん、絶対に、この態度から言っても、この後ベースの話をしだすぞ。
なんなら『言い出す方』に俺の全財産を賭けても良いぐらいの確率で、言い出す筈だ。
……って言うかな。
もうそうやって聞いてくるのが100%解ってるんだから、こちらからアプローチしよう。
見た感じ親父さんは、欲望に忠実ではあるものの……あまり交渉とかは上手くなさそうな雰囲気だしな。
「ひょっとして、ベースっすか?」
「あぁ、面目ない。どうにも気になるんですが。……1度弾いてみて貰えませんかね?」
……やっぱり、正解だった。
これはもぉまさに【楽器馬鹿】此処に極まりを体現してる様な人だな。
この状況下で、そこだけが気になって仕方が無いんじゃあ、救いようもねぇな。
此処まで来たら、抑制力も、糞もあったもんじゃねぇ。
まぁでも、こうなる事が解ってたからこそ、こちら側からアプローチを掛けた訳だから。
この結果に関しては、もぅ良しとするべきなんだろうだけどな。
「あぁ、良いッスけど。その後で、少し親父さんにも相談が有るんッスけど。良いッスかね?」
「あぁ、はい。なんでも相談して下さい。今、お使いのベースのお話ですか?」
……ってな風に。
俺のする相談ってのが、俺のベースに関する話だと勘違いしたらしく、サラッとそんな事を言ってくるんだが。
違うつぅの!!
そこじゃねぇわ!!
……ったくもぉ。
本当に、どうしようもねぇレベルの楽器馬鹿なんだな。
なんでもかんでも、楽器に結びつけてんじゃねぇぞ!!
楽器の事しか頭にないんか!!
つぅか、どんだけ楽器の事を愛してるんだよ?
訳が分からねぇ。
まぁでも、あれだな。
極論で言えば、今の話の流れから言えば、これはこれで合ってるのかもしんねぇけどな。
俺自身も、沙那ちゃんの方に視点が行き過ぎてる面もあるんだろうし。
うむ、なら此処は俺の方が反省しよう。
どうせ親父さんには、言っても反省しないだろうし……
「いや、そうじゃないんッスけど」
「ベースの相談ではないのですね?では、どの様な相談でしょうか?」
「あぁいや、なんと言いますか……沙那ちゃんの事で、ちょっとお話したい事があるんッスけど」
大きなお世話なんだろうけど、なんとか俺の本命の話に切り替えられた。
ヤッパリ、この子の置かれている環境は、一般的に考えても良くないだろうからなぁ。
だから、この機会に、ちょっとだけでも沙那ちゃんの生活を改善する様に促して置きたいんだよな。
さてさて、親父さんは、この話に、どういう反応を示すんだろうな?
「ベースじゃなくて、娘の……沙那の事で相談ですか?」
だが返って来たのは、このなんとも言えない様な微妙な反応。
マズイかったか?
事が事なだけに、この話は、今、するべきじゃ内容じゃなかったか?
親父さんのこの様子から言って、どうやら俺は、また完全にやらかしちまったんじゃねぇの?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【後書き】
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>
親父さん……ダメだこりゃあ(笑)
いやまぁ、まさに【楽器馬鹿を絵に描いてルーブル美術館に飾られる様なレベルのダメな人】なので、こういう態度に成ってしまっても仕方はないのですが。
かと言っても、別に悪人と言う訳でもなく、本当に【ただの楽器馬鹿】なんですよ。
まぁまぁ、そうは言いましても。
その楽器馬鹿度が、沙那ちゃんを学校に行かせていない正当な理由にはなり得ませんので、親としてはどうかと思いますけどね(笑)
さてさて、そんな中。
倉津君が持ち掛けた沙那ちゃんについての相談に、あまり良い感じがしてない様子の親父さんなのですが。
それだけに、流石に此処は、倉津君が最後に思っていたように【完全にしくじってしまった感じ】に成ってしまうのでしょうか?
っと言う部分を、次回は書いて行きたいと思いますので。
良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
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