1389 素直なガキンチョ

 奈緒さん、崇秀、眞子に三行半を下した後。

気落ちしててもしょうがないので【無名】のライブを観に代々木第一体育館にやって来た倉津君。


そこでボケ~~~っと考え事をして歩いてたら……


***


 足元を見てみると、どこぞのガキンチョが豪快にこけてた。

この様子からして、どうやら、俺にぶつかって来た正体は、この子だったらしい。


身の丈から言って、小学校三年生ぐらいか。



「……いった~~~い」

「おぅ、ガキ、悪いな。大丈夫か?怪我してねぇか?」

「うん、大丈夫!!」


おぉ……3年生(決め付け)の割には、シッカリとした受け答えをしてきやがるな。

尻に着いた砂を叩きながらも自分で直ぐに立ち上がった上に、文句の1つも垂れねぇで、元気に無傷を主張してきやがった。


なんか良い感じのガキだな。



「そっかよ。そりゃあ良かった。怪我でもしてたら大変だからな」

「うん、大丈夫、大丈夫!!全然ヘッチャラだよ」

「そっか。けど、俺が、他所見しててブチ当たって悪かったな」

「うぅん。ちゃんと前を見てなかったのは2人共同じだよ。おにぃちゃん、ごめんなさい」

「じゃあ、俺も、ちゃんと、ごめんなさいだな」

「うん」


子供は良いな。


実に素直で良い。

自分が悪い事をしたと思ったら、こうやって素直に謝るし、下手な言い訳なんかしようともしないもんな。


まぁ、そうは言っても。

本来ガキなんてものは、我儘で自分勝手な生き物だから、普通、こうは素直に謝らないんだろうけど。

是非とも、どこぞのダメ人間な連中には、このガキを見習って欲しいもんだな。



「よっし。じゃあ、お互いお詫びも済んだ事だし。俺は行くけど、気を付けろよ」

「うん。おにぃちゃんも気を付けてね」

「……だな」


なんか、こう言う子供を見ると『ホッ』とするな。

親の躾が出来てると、子供も真っ直ぐに育つみたいだしな。


我が日本国も、中々捨てたもんじゃねぇな。


俺は、そう思いながら、その場を立ち去ろうとした。


すると……



「ねぇ、おにぃちゃん!!」


さっきの子供が、再び声を掛けてきた。



「うん?なんだ?」

「あの、おにぃちゃんってさぁ。ひょっとして倉津真琴さん?倉津真琴さんだよね?」

「うん?……あぁ、まぁそうだが。なんでオマエが、そんな事を知ってるんだ?」

「あっ、あぁ、ヤッパリそうだ!!凄い!!凄い!!本物だぁ!!」


うっ、うん?なんだなんだ?

質問してきたのは別に良いんだが、俺が俺だと解ったら、急に凄いテンションに成ったな。


何事だよ?



「なっ、なにがぁ?なにが凄いんだよ?」

「あっ、あの、実は凄くファンなんです。奈緒グリのライブで、おにぃちゃんの演奏を見て、凄く感動しました!!あっ、あの、握手して貰って良いですか?握手して下さい!!」

「あっ、あぁ、握手?あぁ、握手な」


はい、握手な。


うむ、実に子供らしい柔らかい手だ。

ただ、そんな風に柔らかい手は柔らかい手なんだが、妙に指先だけが硬い子だな。



「うわっ、うわっ、凄い大きい手!!この大きい手で『Fender USA American Deluxe Jazz Bass』を弾いてるんだね。うぅ~~~っ、感激!!」

「いやいや、そんなに感激されてもなぁ」


……ってか、この子、俺の使ってるベースの名前まで知ってるんだな。

なら、俺の手のデカさなんかより、何気にそっち方がスゲェ様な気がするんだけどな。


それに、この年で【GREED-LUMP】のライブを観に行ってるなんて、相当な音楽好きなのか、親が音楽好きなかのドッチかなんだろうな。



「あの、あの、序にサインもして貰って良いですか?」

「いや、オマエ。サインたって、何所にすんだよ?」

「あの、このシャツの上にお願いします!!此処に、此処に!!」


凄くニコニコしながら、今度はサインをねだって来た。


いや、勿論、こんなに喜ばれたら悪い気はしないんだが。

俺のサインなんかが、そんなに嬉しいもんなのか?


まぁ、良いか。


あぁでも、この調子だと……



「あっ、あぁ……けど、ペンは何所にあるんだ?持ってるか?」

「あっ、無い」

「プッ!!」


やっぱりだ。

やっぱり、ペンなんか持ってない癖に、サインを強請ってやがった。


しかしまぁ、面白い子だな。

サインを強請ったのに、ペンが無いって……一体、俺に、どうやってサインを書かすつもりだったんだろうな?


もしかしてエアーサインか!!


いや、どう考えても、そんなもん、即座に空気中に消えて行っちまうんだから貰ってもしょうがねぇよな。


アホだな、俺。



「倉津のおにぃちゃん。笑わないでよ」

「悪ぃ、悪ぃ。じゃあ、そのお詫びによぉ。俺は此処で待っててやるから、オマエは、お父さんか、お母さんにペンを借りて来いよ」

「えっ?良いの?待っててくれるの?」

「おぅ、待っててやるよ。約束だ」

「じゃあ、指切りしてくれる?」

「あぁ、良いぞ」


なんか懐かしいな。

ガキの頃……まぁつっても、今もガキなんだけど、事ある毎に『指きりゲンマン』ってしてたよなぁ。


まさか、この年に成って、小学3年生のガキとやる事になるとは思わなかったがな。



「じゃあ。指きりゲンマン、嘘付いたら、ギターの1弦で指落~~とす。指切った」


怖いな、オイ!!

なんだよ、その『嘘吐いたら、ギターの1弦で指落~~~とす』ってフレーズはよぉ!!

普通は『嘘吐いたら、針千本飲~~~ます』って可愛らしい……いや、冷静に考えたら、ちっとも可愛くはないんだが、指切りって、そういうもんじゃねぇのか???


しかも、ギターの1弦って細いだけに、やけに生々しい感じがするのは、何故だ?


……ってかよぉ。

最近の小学校じゃ、こんな物騒な指切りが流行ってるのか?


もしそうなら、恐ろしい世の中に成ったもんだな。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>


あら……少々機嫌の悪い倉津君の事ですから、ぶつかってきた相手に、なにか因縁でも飛ばすのかと思いきや。

何故か、和気藹々とした雰囲気で、子供ちゃんと話してますね(笑)


なんだこれ?


まぁまぁ、そうは言いましても。

相手の子供が素直だった為に、こうなってる訳ですし。

こうやって暴力沙汰に成らなかった事も良い事なので、これはある意味、良かった良かったな感じなのかもしれませんね。


傍から見たら、やや怪しげな雰囲気に見えるかもしれませんが(笑)


さてさて、そんな中。

子供ちゃんとした指切りげんまんのフレーズに、恐れを感じる倉津君なのですが。


果たして、この指切りげんまんは、小学校で流行っているのか?


いや、そんな事は、別にどうでも良い事なんですが。

次回は、その辺について書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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