第2話

 小さい頃から人に嫌われることが多かった。

 最初は姉に嫌われ、両親が離婚してからは母に。

 学校では調子に乗ってるとか曖昧な理由で女子に嫌われ。心を閉ざしていたら男子にも嫌われ。教室に居場所のない私から、教師や他のクラスメイトは面倒くさそうに視線を逸らした。

 近所のじじいは私の見た目が気に入らないらしい。最近の若者はとすれ違うたびにぼやいてくる。いつも同じ電車に乗っていたおっさんが尻を触ってきたので、駅員に突き出したらひどく罵られたのは記憶に新しい。

 しつこいナンパを無視すれば捨て台詞を吐かれ、援交を持ちかけてきた変態中年無視すればあろうことか殴られたこともあった。無論警察に連行してもらったが、そのときの男性警官の私の非を疑うような目は絶対に忘れない。


 ゆえに総じて――


「ほら、私って人間が嫌いじゃないですか」


「嫌いじゃないですか、ではないんだよね」


「だから今まで友達がいないことがむしろ嬉しかったんです。だけど大学に入って一人暮らしを始めてから、嫌いな人間と居住空間を共有する時間が減り、ストレスもある程度解消されまして」


「話聞かないね君」


 喫煙所から場所を変えて大学近くのココ壱にて。

 私の前にはヒレカツカレー大盛りのチーズトッピング。

 月村の前にはチキンカレーの5辛がそれぞれ並べられている。


「私はなんで君とカレーを食べているんだろうね?」


「友達って一緒にご飯を食べるんじゃないんですか?」


「うん、君の友達になったつもりはないけどね、私」


「ダウト」


「本当だよ」


「そんな馬鹿な」


 だってさっき『人類に手に入るものなら、私は何だって用意しよう』ってキメ顔で言ってくれた気がするのだけど、幻聴だったのだろうか。

 本当にすごいキメ顔だったけど、あれも幻覚だったのかな。


「キメ顔を連呼するのやめてくれないかな」


「ですがみやびん、あれはキメ顔としか呼称できないほどキメ顔でしたよ。本当は心の中で『僕はキメ顔でそう言った』って地の文付けたんでしょう?」


「付けてないし、みやびんって何???」


「私が寝ずに考えたあだ名です」


「まだ出会って一時間しか経ってないもんね。そりゃあ寝ないよ」


 つきむらみやび、だから、みやびんだ。

 我ながら会心の出来だと自負している。


「痛恨の出来だよ。センス0じゃん、おやびんみたいで普通に嫌なんだけど」


「近頃はおやびんなんて聞きませんし大丈夫ですよ。首領パッチぐらいでしょう、おやびんなんて呼ばれてるの」


「相手のサブカル度合いを測る前にそういう会話振るのやめた方がいいよ」


「確かに」


 言われてみればその通り。私が小粋なアメリカンジョークを飛ばしたとしても、モンゴル人には通じない。共通言語の確認というのは事前に、それもそれとなく探り合うべき代物なのだろう。

 友達がいないからそういうのわかんなかった。


「勉強になります、みやびん」


「次みやびんって言ったら絶交ね?」


「ならどんなあだ名が良いんです? みーちゃんとかですか?」


「まず初対面の人間をあだ名で呼ばないんだよ、普通」


「そうなんですか」


 みーちゃんはなんでも知ってるなぁ。


「みーちゃんも駄目」


「じゃあ、ミヤビさん」


「……………」


 なおも微妙に不服そうな月村改めミヤビさん。

 名前呼び、名前呼びが駄目なのだろうか。でも名字って少し距離を感じるし、やはり名前で呼ぶのが友達っぽいと夜子は思うんです。


「そもそも君さ、」


「ふじみんでいいですよ?」


「やだよ」


 やだって言われた。


「そもそも君さ、何で私と友達になりたいの?」


 仕切り直された。


「言ったじゃないですか、私は人間が嫌いですって」


「言ったね、懇切丁寧に理由も添えて言ったね。あれで私の今日という一日に消えない傷がついたよ」


「つまり記念日?」


「やだよ」


 またやだって言われた。

 なんだかさっきから拒絶しかされてない気がする。

 もしかしたら、ミヤビさん。


「……遅めのイヤイヤ期ですね?」


「失礼の権化かな?」


 こめかみがピクピクと震えている。

 これは言葉のチョイスを間違えたやも。

 よし、話を戻そう。


「友達が欲しいけど、人間は嫌いで。動物を飼うのもあれ、結構大変じゃないですか。散歩とかゲロやフンの後始末面倒くさいですし。そんなとき大学に悪魔がいるってうわさを聞いて、悪魔ならまあ……って感じですかね。悪魔はまだ嫌いじゃないので」


「何が嫌いかより、何が好きかで自分を語ってほしかったね」


「ルフィ!」


「違うよ」


「違うの!?」


 違うんだ。まあいいや。

 言われて考えるけれど、私の好きなものってなんだろう。

 今まで生きてきた十九年と十ヶ月で他人を好きになれたことは一度もない。というか私って、カレーライス以外に胸を張って好きだと言えるものがないんじゃないかな。

 カレーライス、お前のことが好きだったんだよ。


「しかし、悪魔とはねぇ。改めて聞くと結構ショックだなぁ。私は別に悪いことなんてしていないのに」


「そうなんですか? 健全な青少年の一人や二人の人生を弄んでそうな見た目をしてますけどね。その胸と尻で」


 ボンッキュッボンッ、とはミヤビさんのためにある言葉だろう。

 キュッキュッキュッ、な私としては羨ましいようなそうでないような。


「同性でもセクハラって成立するんだよね」


「まさか、友人同士の会話で下ネタは鉄板ではない……?」


「さっきから距離感バグってるんだってば。友達だから歯に衣着せない発言が許されるんであって、歯に衣着せない発言をしたから友達になるわけじゃないんだ、わかる?」


「あんだすたん」


 また新たな知識を得てしまった。今日は世界が広がる日らしい。

 こんなこと池上彰は教えてくれなかったし、林先生もきっと初耳に違いない。


「でも実際、これまでに何人か破滅してるって聞きましたよ。裏から手を回して退学させたり、本当のところはどうなんですか?」


「人聞きが悪いね。それ私は悪くないよ。全部自主退学だし」


 させてるじゃん。思いっ切り破滅させてるじゃん。


「彼らが欲しいと言うから与えたんだ。お金も何も。それで分不相応な力を扱いきれなくなって自滅したのを私の仕業みたいに言われても困る」


 武器商人の理論じゃん。


「あの『人類に手に入るものなら、私は何だって用意しよう』って、マジでちゃんと用意してるんですね」


 私はキメ顔でそう言った。


「してるよ。私を見つけた人間には基本全員にそうしてる」


 してるんだ。


「有り金ドブに捨てるのが趣味なんですか?」


「有り金ドブに捨てるのが趣味なんだ」


 趣味なんだ。


「とは言ってもね、何もタダではないんだ。条件が二つほどある」


「条件?」


「叶えたい夢があること。もう一つは……まあ、これは後で」


「夢、ですか?」


 そう訊ねると、ミヤビさんは手に持ったスプーンを私に向けて、くるくると回しながら言う。


「その人間の語る夢が面白そうならいくらでも投資するし、成否に関わらず取り立てたりもしない。逆に、夢の一つも自分で言語化できないような人間には興味がないんだ」


「中々現代では厳しそうなこと言いますね」


 安定こそが理想みたいな風潮がある世の中、面白みのある夢を堂々と語れる人間がどれほどいることか。というか私は合格なんだろうか。

 合格だよね。合格って言ってください。


「……………」


 言ってくれなかった。


「そもそもの疑問なんですけど、ミヤビさんって何者なんですか?」


「大学生」


 ずばり言われた。それはそうでしょうけど。


「冗談冗談。隠すほどのことでもないから言うけど、私は投資家だよ」


「FXで有り金全部溶かす人?」


「FXで有り金全部溶かす人をカモにする人」


 そりゃそうか。


「……つかぬことをお聞きしますが、お金持ちなんですか?」


「ざっと千分の一ビルゲイツくらい?」


「なんてこったい、ポテトサラダを頼まなきゃ」


 私は慌てて店員呼び出しボタンをポチッとな。

 ココ壱って学生には微妙に高いんだよね。微妙に。

 自分では普通に食べたつもりが平気で1500円とかするし。


「おごらないよ?」


「千分の一ビルゲイツなのに?」


「私たち友達なんでしょ?」


「……………」


 ぐうの音も出なかった。友達ならワリカン。憧れてたんだその響き。

 注文を取りに来た店員さんに悪いのでポテトサラダはちゃんと頼んだ。


「つまり本業学生、副業投資家、趣味投資家ってことですか?」


 私をカレーを食べながらミヤビさんに訊ねた。


「その理解で間違いないね」


 理解しといてなんだけど理解できない。

 つまり投資で稼いだ金を投資でドブに捨てていると。

 投資家という生き物は効率至上主義というイメージがあったのだけれど、実際にはそうでもないのだろうか。


「お金を稼ぐときにはそう。でも、お金を使うときは違うよ。趣味にまで効率を求めるのは野暮じゃないかな。そういう性癖なら構わないけど」


性癖……。


「お金をばらまくのは楽しいよ。能力はあるのに環境に恵まれなかった人間が、ついに開花する過程なんて生の人間ドラマみたいで面白いし」


「視点が神様になってません?」


「まあ確かにね、意識や理想ばかりが高い人間が資金と環境を言い訳にできなくなり、自分の限界を知って病んでしまったパターンもあるよ。一度上げた生活水準を下げることができずに借金まみれになった人もいたかな。破滅したってうわさになってるのは、彼らのことなんだろうね」


 させてるじゃん。めっちゃ破滅させてるじゃん。


「失礼だね、私も心を痛めているよ。だけどさ、全員が全員じゃないよさ。身の程をわきまえて堅実な道を歩いた人も、少ないチャンスを掴んで成功した人だっているわけで。むしろそこを褒めてほしいよねぇ、悪魔なんて呼ぶ前にさ」


「いやもうだいぶ悪魔でしたよ今の発言。人を堕落させる系の。メフィストフェレスとかその辺」


「それなら、君がファウスト博士?」


「私の人生にグレートヒェンはいないんですけど?」


 いても困るけど。


「しかしまあ、私の初めての友達がこんな恐ろしかったとは」


 悪魔だ悪魔だとは聞いていたけれど、人格が悪魔だった。

 肉体と精神の組み合わせで一番怖いパターン引いちゃったね。


「今ならまだ後戻りできるよ。私のことは忘れて、もっとまともな人間と友達になるのをオススメするね」


「いえ、人間よりは人でなしの悪魔の方が良いですね。私なんかと友達にさせられるまともな人間の方が可哀想なので」


「いま私を二重にディスらなかった?」


 そうかな、そうかも。

 でもいくら人間が嫌いだからって、私に非がある状態でまともな人間に嫌われるのは結構堪える。そしてその確率はかなり高い。だって友達いたことないから。

 だけど私がもし何かをしでかしてで、ミヤビさんに嫌われたとしても「まあ、こいつ悪魔だしな……」って納得できると思う。

 そう伝えると、ミヤビさんは大きく息を吐いた。


「……こんなのは初めてだよ。大概の人は私のお金が目当てなんだけどね」


「ほうらんれふか」


「カレー食うなよ」


「いやだって冷めますし……」


 お金。お金。お金は確かに大事。

 私も大学進学に合わせてどくタイプの母親から離れるためにそらをとぶを使ったけれど、諸々の費用にすごく困ったのを覚えている。

 だけど幸いにして、上京してからは良いバイトを見つけたので順調だ。

 実際には、ポテトサラダもいつでも頼める程度の余裕はある。


「私にとって一番のごちそうってカツカレーですから」


 ミヤビさんもスマホをいじってないで早く食べるべきだと思う。

 パリパリチキンカレー。


「安上がりだね、物欲とかないの?」


「ないってことはないですけど、あんまりこの世の中に何があるかを知らないもので。強いて言うなら服とか。それも縁あって安く手に入るんですよ」


「ああ、藤野ゆかりだから?」


「……知ってるんですか?」


 唐突にミヤビさんが出したのは私の別名、というか芸名だ。

 高校卒業後に家から飛び出した私はお金に困っていた。

 幸い学費の方は特待生ということで賄えていたけれど、親に住所も口座も教えていなかったから、生活費は自分で稼ぐ必要があったのだ。

 家賃がね、高ぇーんです。家のセキュリティだけは落としたくなくて。


「知らなかったけど、見覚えがあったから調べたんだ。ほら」


 そう言ってミヤビさんが見せるスマホの画面には、ファッションモデルのインスタアカウントが表示されていた。アカウント名は藤野ゆかり、私だ。


「ずいぶん人気みたいだね、カリスマモデルだってさ」


「………むぅ」


 自分で言うのもなんだけれど、私は顔とスタイルと頭が良い。ついでに体力と運動神経もまずまず。愛想もなく、コミュ力もなく、要領よく生きることはできなかったけれど、スペックでゴリ押すことは可能だったわけだ。


「……はー、こんなのあるんですね」


 スマホの画面を見ながら私は適当に言う。

 告知用らしく、投稿はスタッフが担当と書かれている。

 正直なところ存在すら認知していなかった。


「知らないんだ、自分のアカウントでしょ?」


「マネージャーがSNSやらないかって言うんで、嫌だって答えたんですよ。そしたら勝手に運営するから写真だけ撮らせろと、こんなになってるんですね」


 何故SNSをやらないか。みんなキラキラしていて羨ましいから。

 Twitterもさ、非リアの集まりみたいな顔してリツイートで回ってくるのは自分なりに人生を楽しんでいる連中ばかりじゃないか。騙されんぞ。


「自分の評判とか、気にならないの?」


「小中高と学内の評判が最低だったので、自衛のため世界の声には耳を塞ぐようにしています」


 いじめられてたからね。途中から保健室登校だったよ。

 なんてことを伝えたら、ミヤビさんは露骨にダルそうな顔をした。面倒くさい地雷を踏んでしまったというのを隠す気がない。出目が悪かったね。


「というかフォロワー5万人ですか。許せない、許せませんね藤野ゆかり。私のTwitterアカウントのフォロワー0人ですよ?」


「いや、これも君だから」


「こいつはおはようと投稿するだけで色んな人から挨拶が返ってくるというのに、私は咳をしても一人。こんな理不尽があるでしょうか」


 マネージャーめ、あの金の亡者め。

 きっと私のガワで承認欲求を満たしてるに違いない。


「それはもったいない。パッとコメント欄を見ても君は若者たちの憧れの的らしい。黙っていても人が寄ってきそうなものだけど……いや、そうでもないのかな。ある意味で高嶺の花と言えるかもしれない」


「正直に言って構いませんよ、私って皮肉とか通じませんから」


 だってよくわかんないし。

 私なら京都人の口から本音を引き出せると思う。


「インディーズで女の子からカルト的人気を誇る三人組ロックバンドのギター兼ボーカルに見える。そりゃあ普通の男の子はおっかなくて近寄らないし、女の子は遠巻きに眺めるぐらいが丁度良いんだろうね」


「楽器なんて弾けませんけどね。カラオケも行ったことないですし。でもパンクロック風って言うんですっけ。専門ってわけではないんですけど、そんな感じの仕事ばっか回ってきます」


「パンキッシュだね」


「かぼちゃのキッシュですか? 」


「……パンクロック風のことをパンキッシュって言うんだよ」


 そうなんだ。おいしそうな響き。


「……私ってさ、これまでの人生でツッコミに回ったことってないんだよね」


「奇遇ですね、私もツッコミに回ったことがありません」


「おめーがボケだからだよ」


 おめーって言われた。おめーって言われた。

 友達に対しておめーは酷いんじゃなかろうか。


「私がミヤビさんの新たな境地を開いたというわけですね」


 だが私はめげない。

 今日はミヤビさんに教えてもらってばかり。

 少しでも返せているのなら喜ばしい限りだ。


「世の中には知らない方が良いこともあってね?」


「知識は力ですよ」


「話通じないなー」


「そんな、私はミヤビさんより雑談が続いた相手いないのに」


「君に何で友達がいないのか分かった気がするよ」


 ぐったりした表情のミヤビさんは、そのままもそもそとカレーを口に運び始めた。それと今気付いたのだけれどミヤビさんの服、めっちゃ白。真っ白。

 カレー屋に入っていい服じゃなかった。なんかごめんなさい。


「……カレー、美味しいね。最近はまともに食事をしてなかったからなぁ」


「その胸と尻で?」


「訴えるよ」


 お口チャック。


「ここのところは毎日松屋の牛丼だったかな、家から近くてさ」


「いや多分まだ同じ階層にいますよ」


 ココ壱と松屋にそれほど優劣はないんじゃないかな。

 むしろ両者カレーだけ取り出しても人によっては互角。


「あっはっは、私も中学までは普通の家庭で育ったからさ、別に舌が肥えてるとかそういうわけでもないんだよ。ファミレスのハンバーグがご馳走な人間」


「千分の一ビルゲイツなのに?」


「贅沢は人並みに好きだけど、あくまで人並みだよ。料理も一万円を超えたら違いなんて分からないしね」


 そう言って、ミヤビさんは小さく笑った。

 庶民的と言うには無理があるけど、上流階級と言うにも難がある。

 どこにでもいるようで、どこにもいない、そんな不思議な立ち位置だ。


「ん」


 そのとき、ミヤビさんのスマホから呼び出し音が鳴った。


「ちょっと失礼」


 一言断ってから通話に出るミヤビさん。

 店内の喧噪で通話の内容は聞こえない。


『――ッ!! ――――ッ!!!!』


「そんなに叫ばないでくれるかな。最初に伝えたじゃないか、契約を守らないなら支援は打ち切るって。嘘をついたのはそっちが先だろう」


『――――――ッ!!!!!!!』


 聞こえないのだが、通話の相手が何かを怒鳴っているのは聞き取れた。

 それに対して、ミヤビさんは心底つまらなさそうに相づちを打っている。


「わかった、じゃあ大学近くのココ壱の前に来るといい。待ってるよ」


 そしてそれだけ言うとなおも言い募ろうとする相手を無視して、ミヤビさんさっさと通話を切ってしまった。


「この近くに誰かいたかな……今から呼べる距離となると……」


 続けてそのまま思案するように呟き、何かに思い至ったのか、私の方に向き直る。


「ねえ、ふじみんってさ、運動神経良かったっけ?」


「え」


 さっきまで一度も見せてくれなかった愛想の良い笑顔でミヤビさんは言う。なんだろう、めちゃくちゃ怖い。本当に怖い。初対面の人にあだ名で呼ばれるのって嫌だね、ふじみんは学びました。


「まあ、そこそこ良いと思いますけど」


 私が体を竦めながら小さな声で答えると、ミヤビさんはこれまた満面の笑みでうんうんと頷いた。目が笑ってない。目だけが笑ってない。

 これが友達を見る目か、いいや違う。カモを見る目だ。


「それじゃあ少し付き合ってくれないかな。なーに、ちょっと全力でボールを蹴ってもらうだけだから」


 ちょっとじゃねぇんだよなぁ、その言い方。


「そしたらさ、私が投資をする条件の二つ目も教えてあげる」


「……………」


 わかる。ここで頷いたらろくなことにはならない。

 だけど、だけど。


「私たち、友達だよね?」


 ……人が破滅する予感に、私はワクワクしていた。

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悪魔となろう、お友達。 青本計画 @Aohonkeikaku

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