第2話【ラテアート】の表現力
家から現場まで全力で走り続け、到着した頃には
敵は駅のすぐ
ひとまず相手を観察する。一本脚タイプの丸いテーブルの上に分厚いコースターとマグカップが乗っかったような見た目で、マグカップの中は液体ではなく何故か液晶画面がピッタリはめ込まれていて、モノクロの渦巻きが表示されている。コースターとマグカップを合わせるとそのシルエットは一眼レフカメラのようにも見え、どうやらこの部分が頭部のようだ。
どうする?建物の中じゃ戦いづらくないか?
自分が使える魔法を
何事も物は試しだ。とりあえず一般人である私の
何か、出てきてください!
こう念じながらイメージを形にする。結果、現れたのは巨大な鏡だった。光が反射してスポットライトのように敵を照らした。相手は首のような部位を曲げて渦巻きをこちらに向け、じわじわと単眼の映像へと切り替える。見つかってしまったようだ。まずい。
(何だぁ?その変なファッション〜。そんなんじゃバズれないよぉ?)
頭の中に声が響いた。どうやら
「そんな風に言うんだ…」
と、急に話しかけられた衝撃と二人で考えたデザインをバカにされたことへの悲しみが混じり合い、複雑な感情を抱いているようだ。
液晶画面がまたゆっくりと切り替わる。だんだん輪郭がはっきりしてくる。あれは、熊?いや、
完全に切り替わると、今度はその映像が今までにないパターンで乱れる。するとどうだろう。シロクマの頭が画面から飛び出してこちらを威嚇してきたではないか。どうやらあのマグカップのようなカメラのような器官に映したものを実体化させることができるらしい。
あの怪物が次に実体化させたのは、アルパカの頭だった。いや、アルパカにしては毛のボリューム感が足りないような…、などと考えていると突然、こちらに向けて唾を何発も吐いてきた。すかさず鏡に身を隠す。周囲を確認すると、店内の布製のものが一部とけてしまっていた。あの唾は強酸性らしい。遠距離攻撃の手段も持ち合わせているとは、ますます相手の能力の底が見えない。
観察に徹するために、盾代わりにしていた鏡を引っ込め、今度は相手が鏡越しに映るように召喚しなおした。
観察すること1分、しびれを切らした相手が熊の手を実体化させて、床に落ちていたマグカップの破片を投げつけてきた。鏡にヒビが入ってしまったので、再び引っ込め、同じ場所に召喚しなおす。リセットが可能なのはありがたいが、何回も続けるというのは流石に憂鬱だ。相手の方も怪我をしたのか、再び熊の手を生み出している途中だった。
それにしても、本当に
ねえ、えっと、
えっ、急にどうしたの?
早速、真の
分かってきた気がする…。
不意に
本当ですか?
奴の能力の基になってる物をずっと考えてたんだが、あれは多分ラテアートだ。
ラテアート…、て何ですか?
ラテアートってのは、コーヒーの上にミルクを注いで絵を描いたやつのことだ。このカフェは動物のラテアートが売りらしいし、間違いないと思う。
なるほどです!でも、ますます無敵じゃないですか!
いや、弱点ならある。さっき物を投げたとき、形を保てなくなったように見えたんだ。だから、マグカップから飛び出してる部分はそこまで頑丈じゃないかもって思うんだ。あと、もう一度攻撃してくるまでに若干タイムラグがあったでしょ?あれがもし、ラテアートを作り直す作業の時間だとしたら、向こうよりも先に攻撃し続けたら、相手は何もできないんじゃないかって…
じゃあ、あの部分を狙い続ければいいんですね!!
早速、攻撃しようとする瞬間にガラス片を当ててみた。それから15分経った。結論から言うと、作戦は大成功だった。今のところ、
(さっきからぁ地味ぃな嫌がらせぇしてぇ、恥ずかしくないのぉ〜?)
「そっちが派手に戦おうとしないからでしょ!!」
あえて大声で反論する。隣の
(はぁ〜。服のセンスだけじゃなく心の奥底までダッサイねぇ〜。そりゃぁ価値観がぁ合わないわけだわぁ。魔法少女なんかになるような少女趣味のバカとはよぉ〜!)
「おい!それは聞き捨てならないぞ!」
魔法少女を侮辱したことで彼の地雷を踏んでしまったようだ。まあ、その情熱を見込んで
「そりゃ確かに、魔法少女の服装は世間でも賛否分かれてるっていうか…、まあ、擁護派の意見もほとんどは『俺は好きだよ』とか『個性的でかわいいじゃん』とかだし…、真っ当にマトモとは言えないかもしれないけど、でも!魔法少女は頑張って戦ってるし、すごい存在だってことに関してはみんな認めてるんだよ!それを心がダサいとか、そんなわけ無いだろ!?」
できることなら100%反論してほしかった…。すかさず
勿論、クロの衣装も
やかましいわ。
おっと、思わず敬語が外れてしまった。でも、キャラデザの責任の半分は彼が持っていると言っても過言ではないので、この場合のツッコミは正当な権利だと思った。
(も〜。やってらんないよぉ〜。じゃぁねぇ〜。)
あの怪物はどうやら逃げるつもりらしい。ここは一気に仕掛けたほうが良いかも知れない。そう思い、動きを封じようとした瞬間、急に体勢を変えてきた。脚が傾き、倒れ込んできたのだ。マグカップ部分から飛び出してきたのは、ペンギンの頭部だった。
一体何をするつもりなのか。すると、次の瞬間、ミサイルのような勢いで店から飛び出し、巧みな身体操作で車道を爆走し始めた。加賀美くんが慌てた様子で語りかけてくる。
あれは、トボガンなのか!?それにしては速すぎるし、第一アスファルトだぞ!?
だが、私自身も慌てている。このままでは逃げられてしまう。咄嗟に奥の交差点に鏡を召喚しなおす。だが、この勢いだと1分もしないうちにぶつかってしまうだろう。あのスピードに鋭い嘴が合わされば、やられるのはまず間違いなく鏡のほうだろう。
頭をフル回転させるが、焦って状況を整理できない。一旦落ち着かないと、そう思っていたら、左腕に装着していた
すると、時計の針が止まると同時に、世界が静かになった。
時間が止まったのだ。
この状況は使えると判断し、冷静になるために深呼吸をする。しかし、できなかった。自分自身の時間も止まっていたのだ。しかし、頭がすっきりしていく感覚はある。これなら客観的に俯瞰することができるかも知れない。
なにこれ!全然動けないんだけど?!
なるほど、
ああ、人間は魔法少女の使う魔法を2種類に分類してて、あの鏡みたいに本人を介して発動するのを
じゃあ
多分、そうだと思う。
だとしたら
その後も、話し合いをしながらゆっくり作戦を立てた。地味な戦い方の魔法少女という評価はあながち間違っていないかもと、一瞬だけ思ってしまった。
作戦がまとまったので、再び時を動かす。そして私は交差点に置いていた鏡を回収し、別の場所に設置した。そして
先ほど
案の定、距離はどんどん縮まっていく。相手が予想外の動きをしてきたときも、その都度時間を止めてイメージトレーニングをし準備をしておくことでなんとか着いていくことができた。
もう少しで追いつきそうという距離まで来ると、最後の仕上げとして、斜め前方の空中に鏡を召喚する。そのまま瞬間移動をすれば、勿論空中に投げ出される。だが、まだ
次の瞬間、私はロケットになった。高速で滑空する。しかし、私は絶対に
相手は変わらず逃げ続ける。
魔法少女キーーーーックッ!!!!
目一杯叫ぶ。相手はやっとこちらを向いた。避けようとするが、私のほうがスピードは上だった。ダメ押しで奥に鏡を召喚する。私がバッチリ映っている上に、こちらを向いたことで減速してしまった身体をどっしりと受け止めた。我ながら最高のシチュエーションだと思う。更にパワーが増えた
怪物の身体が粉々になり、中からあのカフェの皿、マグカップ、そこから放り出されてこぼれたカフェラテが現れた。
次の日、
つづく
【
駅前のカフェの名物であるラテアートに宿った人間の感情を利用して誕生した
マグカップ型液晶画面【ブレインピクチャ】に画像や映像を投影し実体化させることでその能力を使うことができる。本人のイメージ次第でどんなものも形にすることができるが、複雑なものであればあるほど実体化までの時間が伸びてしまう。
自分が最高に映える存在であることに誇りを持っており、逆に自分以外のあらゆる存在を醜くダサいものとして見下している。
強酸性の胃液を吐くときにイメージしたのは、アルパカではなくリャマである。
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