魔法少女の妖精係
如月 一
第1話【鏡裏魔法少女クロ】
(
目の前には今さっき修理してもらったばかりの腕時計が地面から1mほどで浮遊している。角度によって時々太陽光を反射するせいか、普段よりもキラキラと輝いて見えた。
「え、えっと…、詳しく説明してほしいんだけど…」
驚きのあまり頭が真っ白になりながらも今何が起きているのかを知るためになんとか質問を返すことができた。
魔法少女とは、どの組織にも属さず己の魔法で人類を脅かす怪物と立ち向かう存在であり、同時に怪物との戦闘以外の姿が一切目撃されていないという謎多き存在でもある。彼女たちの戦いの歴史は今からおよそ10年前、2029年2月9日から始まる。
12年前のある日を境に地球上のいたるところで
彼女はシルクのように輝く光の橋の上を高速で移動するという普通の人間にはない
今では地道に活動してきたことで魔法少女の存在も全世界に知られることとなり、全世界で9人の魔法少女が戦い、【
魔法少女による怪物の討伐率は6割強。それでも
「え、えっと…、詳しく説明してほしいんだけど…」
(あ、そうですよね!いきなり過ぎてわかんないですよね!)
「あの、魔法少女になりたいって…、何者なんですか?」
(私ですか!?私は!先輩に!!憧れているんです!!!)
相手は興奮しているようで、こちらの質問の意図を汲み取る余裕がなさそうに思えた。今ここで答えを出す気にはなれなかった。
まずは落ち着かせた後で話を聞いて、それから決断しよう。そう思って答えを保留にしたまま2週間が経ち、今、僕は自室でこっそり彼女と話をしている。彼女は
彼女の話によると、魔法少女の正体は異次元から来たエネルギー生命体であるらしく、今の彼女は話しかけるために僕のお気に入りの腕時計に取り憑いている状態だそうだ。魔法少女とは、
今では彼女の言っていることを信用していいと思っている。この2週間、ひたすら会話をしてきたが、嘘をついたり、騙して利用しようとしたり、というようには見えなかった。
もしも
魔法少女の正体は斜め上すぎて受け入れるのに時間はかかったが、逆に今までの魔法少女達の姿こそが隠し事のない真の姿だと思うと、ますます彼女たちを応援したくなってくる。
だから、今から最後の質問をして、協力するかどうかを決断する。
「ねえ、そもそも…」
「うわあ!」
誰かの悲鳴が聞こえる。スマホに緊急速報の通知が来た。どうやら近くで怪物が現れたらしい。
(今すぐ
「その前に、まだ聞いてなかったことがあるんだけど、なんで魔法少女になりたいの?」
(えっ?!理由ですか?それは勿論…)
(かっこいいからです!!!やっぱり、魔法少女ってすごいじゃないですか!あんなのずっと見てたらそりゃ憧れますよそりゃあ!なれるならなってみたいって思うでしょ!!人間たちもみんな応援してますし!誰かの記憶に残るって素晴らしいことじゃないですか!!魔法少女になって、活躍して、ありがとうって言われたいんですっ!!!)
答えは決まった。
「
(待ってました!簡単なことです!!心を一つにするんです!!!)
「一つに?」
(はい!
そう言われると、魔法少女に対する情熱は似ているかもしれない。彼女が僕を選んだ理由がはっきり感じられた。
互いの心を一つにする。難しい作業のように思っていたが、もともと想いが似ていたからか、すぐに彼女の魂とつながっていく。
彼女の心が入り込んでくるにつれて、彼女の記憶らしき情報も流れ込んできた。彼女が今まで語ってきた内容に嘘がないことも再確認できた。
あの、早速なんですけど、名前を一緒に考えてくれませんか?
彼女が直接語りかけてくる。名前を知らされていないと思ったら、そもそも存在していなかったようだ。名前、名前…。
どういった名前で呼ばれたい?
名前の雰囲気は重要だ。呼ばれるときの空気感から逆算して名付ければ、長く使える名前になるだろうと思い、質問してみる。
やっぱり、違和感のない可愛い系ですかねぇ〜
可愛い系、可愛い系…、可愛い響き…、腕時計、時計、チクタク、チック?いや、どこかしっくりこない…、クロック、クロッ…、待てよ?
クロックの"クロ"ってのはどうかな?
クロ、ありですね!
じゃあ、魔法少女クロで決定かな?
こうして、クロという名前に決まった。
じゃあ、次は…
と、このような調子で、様々なことを決めていった。いわば魔法少女のキャラクリエイトだ。衣装のコンセプトや決め技なども脳内で相談していった。といっても、ほとんどが直感で決められていったので、自分たちで考えたと言うよりも、心の中から神様が道案内をしてくれているような感覚だったが。
これらの作業は15分ほどで終わった。既に活動している魔法少女達のパートナーがどんな人なのか、どのような経緯で魔法少女を生み出す手伝いをしたのか興味が湧いてきた。
すべての工程を終わらせると、腕時計からエネルギーが溢れ出し、オーラのように淡く輝きはじめた。その光は徐々に強まり、やがて部屋をLEDライトの明かりすらも飲み込んでしまいそうなくらいに眩しく照らした。光の中では一体何が起きているのだろう。
その頃、
まず、
次に、その腕時計を身に着けている自分を想像する。大まかな容姿は
髪の毛は桜色で低めのツインテールとなっている。毛先が斜め後方に広がり、正面からも視認できるような形に変わる。
胴体は全体的にパステルブルーの色合いである。下半身は動きやすさを考え丈の短いスカートに変化し、上半身はタイトな白いインナーの上にパステルブルーのカーディガンを羽織る。袖にフリルが付いているのがポイントだ。前をボタンの代わりに紐で留める。下から上へ、靴紐のようにがっちりと蝶結びする。衣装の中ではこの部分と腕のみ左右非対称となる。
靴は白の面積が多めの厚底のブーツになり、靴下は膝下までのハイソックス。最後に、右手首にフリル付きのリストバンドが装着される。
変身が完了すると、目の前に一瞬だけ鏡が現れる。自分の姿が映る。思わず笑顔になってしまう。覚悟を決めて、気合を入れる。鏡に映る自分の顔が、
ようやくなれた魔法少女なのだ。こうして実際に変身したことで、精神体だけでは感じることのできなかった
光が止むと、そこには魔法少女がいた。怪物は現れてから既に10分経過しているようだ。そういえば、魔法少女が戦っているとき、
「さあ、早く行きましょう!助けを求める人々の元へ!」
つづく
【
魔法少女マニアの中学生・加賀美仲由が持つ魔法少女への
最大4㎡の特殊な鏡をどこにでも召喚することができる
また、
決め技は止まった時間の中で熟考した最高の未来を鏡に写し出し実現させる【アイラブミー】である。
魔法少女の妖精係 如月 一 @kisaragi-hajime
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