第13話 覚醒 その4
「ふざけてこのようなことはできぬ。そなたに問う。
我が言を聞くか?」
黒鬼は暫く考え込んだ。
「如何に?」
ヒンジが催促をした。
「うむ! よかろう。聞いてやる。ただしそなたの言うことに従うという訳ではない」
黒鬼が一歩譲った。
「ではお尋ね致す。
そなたの目的は仕返し以外に何かおありか?」
目的を問われて黒鬼は何を答えて良いか迷った。正直なところ世間に対する恨み辛みしかない。それ以外と問われては答えようがない。そもそも仕返しの矛先もどこに向けたらよいのか本当は分かっていなかった。だから誰でもよかった。そこで世の中の浮ついているところや弱っているところを攻撃の対象にすればいいのではないかと、そのくらいのことしか考えていなかった。
「仕返し以外に何の目的など有ろうか。恨み辛みのみに我は存在する」
黒鬼は開き直ってそう答えるしかなかった。
「ここに住む娘の両親と弟の御霊は何処にいるか?」
「知らん!」
黒鬼はしらを切った。
「そなたが喰ったのではないのか?そなたの腹の中に白い球が三つ見えるぞ。正直に申せ!」
確かに黒鬼の
「これは別のものだ!」
黒鬼は臍の辺りを両手で隠した。
「嘘を申すな! その白い玉はまだ消化できていない娘の両親と弟と見た。吐き出せ!」
ヒンジは強い口調で黒鬼に迫った。
「たわけ! お前の言うことは聞かぬと言った筈だ。これは我が活力の元。吐き出すなどもってのほか。お前らも食ってやる」
黒鬼はまた戦闘態勢を取った。
「やむを得ん。ならばそなたのその腹をこの両刃の剣で切り裂くまで。覚悟いたせ!」
ヒンジは両刃の剣の切っ先を左下にして構えを取った。
「面白い!わくわくするぞ」
黒鬼は地から体をフワッと浮かせた。と、もの凄い勢いで上空に飛び上がった。
「覚悟するのはお前らだ!」
黒鬼はそう叫んでヒンジに向かって急降下した。ヒンジは腰を落とし更に反撃の構えを取った。黒鬼は右腕の長く鋭い爪をさらに伸ばしヒンジに向かって振り下ろした。ヒンジはそれを受け流しの構えで払いのけ、返す剣で黒鬼の右手首を切り落とした。切り落とされた右手首は地に落ちると赤紫の煙となって蒸発した。ジュー!という音が聞こえるほどだった。
しかし黒鬼にはダメージがないようだった。
「これで勝ったつもりか。痛くも痒くもないわ!」
すぐさま鋭い爪を持った右手が蘇っていた。
この様子に何を思ったか、ヒンジは左手に持っていた数珠を黒鬼にかざした。
「南無弥陀聖尊、この黒鬼に御慈悲の賜れますように!」
この口上に黒鬼が一瞬たじろいだ。ヒンジはその数珠を黒鬼めがけて投げつけ、両刃の剣で袈裟切りをした。2度切り上げた。剣の切っ先から朱色の光線が放たれた。すると数珠の紐が切れ菩提樹の球が辺り一面に飛び散った。その飛び散った球はまるで紫水晶のような澄んだ光を放ちながら黒鬼の体を包んだ。
その後は、
・・・その場の動きの全てがスローモーションに見える・・・
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