第12話 覚醒 その3

 黒い渦は上機嫌で西からヒンジの真上に移動して来た。

「お前のお陰で自由に動けるようになった! これ以上お前は何もしなくてよいぞ」

 黒い渦はそう言うなり勢いよく空高く舞い上がり、稲光を放ち始めた。

「我らにこのような思いをさせた奴らに思い知らせてやる!」

 黒い渦はいきり立っていた。

「そなたらはまだこの結界から外には出られぬ」

 ヒンジはいまだ結界を結んでいる東南西北の角を両刃の剣で突いて見せた。

「やはり騙したのか!」

 黒い渦が牙をむいた。

いな!」

 ヒンジはそう答えて両刃の剣で黒い渦がいる天を突いた。すると剣先から朱色の光線が放たれ黒い渦に巻き着いた。透かさずヒンジは一気に剣を地に向かって切り下した。

 黒い渦は朱色の光線に巻き着かれたまま地面に叩きつけられた。

「ウォーッ!」

 黒い渦が叫び声をあげた。土埃がもうもうと立ち上がった。

「くそーっ! お前らを食いちぎってやる!!」

 黒い渦はその姿を変化させた。

 頭上に二本の角を生やし両耳は大きく垂れ下がり、大きく開けた口には尖った牙が何本も生えていて、その中は赤紫色だった。目つきは鋭く紫色の光を放っている。

 身の丈はヒンジの3倍はあろうか。その容姿はまるで黒鬼のように見えた。

「そなたは黒鬼と化したか!」

 ヒンジは高揚するでもなく静かな口調でそう言った。

 するとその黒鬼はヒンジに対して戦闘の態勢を取った。両手の指先の長くて尖った爪がヒンジに向けられた。

 黒鬼はウーウーと唸りながらヒンジににじり寄っていく。

「ここにある芯の杭を抜けば結界が解ける。さすれば後は鬼門封じの念を解くのみ。それは容易たやすい。

 さぁ! どうする?

 どうして欲しい?」

 ヒンジが黒鬼に向かって言った。

「まだ信じられぬ! 先に芯の杭を抜いて見せろ。そうすれば信じてやってもいい!」

「いや、それは叶わぬ。そうすればそなたはまた仕返しに先走るだろう。それは我らが意とするところではない」

「ならばどうしろと!」

 黒鬼は苛立ったがヒンジの意を聞こうとした。

「我が問いに正直に答えることが出来るか?」

「なんじゃそりゃ! ふざけてるのか!」

 黒鬼はこぶしを握ってヒンジを威嚇した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る