第10話 覚醒 その1

「外で水をかぶって来る」

 治めに行く日の早朝、コウにそう言ってヒンジは裏庭に出た。井戸水は単に冷たいというより肌に突き刺さるそんな痛みを感じるほどに冷え切っていた。

「我 八幡戦士 六根清浄ろっこんしょうじょうにして志孝義一貫しこうぎいちかん

 ヒンジは冷水をかぶりながら何度もこの言葉を繰り返した。

「よし!」

 15回目に水をかぶった時にヒンジは気合を入れた。

 ヒンジの体から湯気が立ち上っている。その湯気がヒンジの体全体を包んだ。

「 えっ! えっ! 何? あなたの体が七色に輝いている!!」

 朝飯を前にして突然裏庭に出て行ったヒンジのことが気になって様子を見に来たコウは呆然ぼうぜんとした。

 ヒンジは全身に陽の光を受けていた。まだ拭き取られていない水滴がキラキラと輝く。

「キ・レ・イ! まるで全身に宝石が付いてるみたい!」

 コウは暫しヒンジのその姿に見とれていた。コウに気が付いたヒンジが振り向きざまに、

「どうした?」

 そう尋ねた。ヒンジの振り返ったその姿はまるで後光が差している阿弥陀如来のようにも見えた。コウは言葉を発することが出来ずに思わず合掌してそこにへたり込んでしまった。


「おはようございます」

 治めに同行する四人の弟子たちがやって来た。

「奥さん、どうされました? 今日はやけに大人しいというか、何だかいつもと様子が違うような気がするんですけど・・」

 タスクが訪ねた。

「俺に後光が差していたんだそうだ」

 ヒンジが皆に言った。

「そりゃまた・・・ 凄いですね!」

 センショウがびっくりしたような口ぶりで言うと、コウが今朝のその様子を皆に話して聞かせた。

「そういえば今日の兄貴はどことなく神々しく見えるな!」

 タクトが茶化すように言った。

「そのくらいにしとけよ。ところで朝飯は食ってきたか?」

 こういう時、腹が満たされていると何故だか腹をポンポンと叩く。皆が叩いた。

「よし! 支度して出かけるか!」

 ヒンジは気合を入れ直した。

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