第4話 紗々の動 その2

 それはさておき、八幡神が言うところの「天と地を動かす」とは、この紗々ささの動が主体として動くと考えるのだろうか。

 縁あってすくわれても残念ながら漏れてしまう水があるという無情な現実だ。

 言い換えれば、縁あって地球に人類として生まれても生き残ることから漏れてしまう。

 それは想像しただけでも目を覆いたくなる悲惨な状況だ。

 またそのような中で、千手観音が言うところの虫けらはどのような扱いを受けるのだろうと、ヒンジは一寸気になった。

 そしてこの動に同動しなければならないのかとやや辛い気持ちになった。


「ただし、この動は天が行うべきものです」


「べきもの」との言い方にヒンジは長野に向かう列車の中でバンとタグに「鉄槌は本尊に任せろ」と言ったことを思い出した。


「紗々の動は自分たちの役回りではない、と心得ます」


 自分たちの役と責がそこに無いことに多少の安堵感はあったものの、2種の年の動きの厳しさを肝に刻まざるを得なかった。


「ただ2種には均衡の取れていないものを修正するという動きもあります」


 千手観音が今度は期待を持たせるようなことを言った。

 例えば工場などの生産現場では当然のように不良品が出てしまう。その不良品の不良箇所が修正できれば製品として出荷することができるのだ。つまりその製品を生かすことができるということだ。

 だがこの修正が叶わないと判断された場合はどうなるのか。

 それは残念ながら当然のごとく廃棄されることになる。

 ただ恐れるべきは不良品が極めて多数の場合である。そうなると修正することもなくロットごとその全てが廃棄されてしまうことになる。

 これは問題のない良品が不良品と共に全て廃棄されてしまうということなのだ。

 午前中、鍛冶の作業場で配合の不適切な素材に対してその行為があったばかりだ。もしかしたら不純物が含まれていない、つまり素材として問題のない鋼だってあったかもしれない。でも今回納品された素材は不良材として全て返品することとしたのだ。


 2種の動とはこれと全く同じなのだ。

 つまりは末法を作り出している修正の出来ないものが極めて多いと判断されれば、その全てが廃棄されてしまう。

 そのものが人類であるとすれば、いや間違いなく人類だ。そうすれば人類は全滅させられてしまう、ということになる。

 基本、ここに人類の願いなどは全く影響しない。

 恐竜の絶滅。これを忘れてはいけない。

 だから、そうなる前の手立てが人類にとって絶対的に必要になるのだが・・・


「人々の在り様に変化」

 八幡神が言ったその言葉を思い出した。

「これだ!」

 ヒンジは思わず膝を叩いた。


「ヒンジ、紗々の動が三の月から始まると心得ますように」

 千手観音がヒンジに伝えた。

「いよいよ、ですね」

 じたばたしても始まらない。ヒンジは取り敢えず腹を決めるしかなかった。

 ましてや来年は三の年となる。3種は始動だ。二の年以上に激しい動きが現景として現れることになる。

「善光寺に参行する会に参加する人を出来る限り増やしたい」

 小さな一歩かも知れないが、ここに在り様の変化が期待できるかもしれないと、そう思ったのである。

 これが千手観音の予告に対するヒンジの思いであった。


「雪が強くなってきたな。もう今日はこれで店じまいにしよう」

 3人は家路についた。

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